「ばか!あほ!まぬけ!お前の母ちゃんでーべーそ!」

「このやろー!」子供の喧嘩では、悪口も武器に。

子供の頃、喧嘩になると口走ったお決まりの定番フレーズ。何をどれだけ並べ立てても、最後は「お前の母ちゃんでーべーそ!」で締めくくられたものですが、どうして母ちゃんは「出べそ」なんでしょうか。

臍(へそ)なんて、ちょっとやそっと出ていたところで、服を着れば大した外見上の変化もありませんし、同じ出ていることを指摘するなら、外見に大きく影響する「出っ歯」とか「出腹」の方が、より精神的ダメージを与えられそうなものです。

しかし、ここは歯でも腹でもなく、臍でなくては始まりません。それがなぜなのか?調べたところ、その由来は「おやまき」という悪口にありました(諸説あり)。

「おやまき」とは一体どういう意味なのでしょうか?今回はそれを紹介したいと思います。

最大級の罵倒語「おやまき」とは

鎌倉幕府が定めた法令集「御成敗式目」に、こんな注釈があります。

「法家ニハ、悪口ノ咎ヲハ不孝ノ罪トナゾラヘテ、重罪ニイマシムル也、……ナニトテ悪口ヲ不孝罪科ト云ゾナレハ、先ツ(まず)人ヲクダシテ、ヲヤマキト云ヘハ、人又我ヲオヤマキト云フ、ヲヤ殺シト云ヘハ、又我ヲオヤ殺ト云時ハ、人ノ父母ヲノ(罵)ルトシテ、我父母ヲノル理也」

※『中世法制史料集別巻・御成敗式目註釈書集要』所収「池辺本御成敗式目注」より「悪口ノ咎事」条

【意訳】
悪口は親不孝と同じく重罪とする……なぜ悪口が親不孝なのかと言うと、まず他人に「をやまき」と言えば、人もまた「おやまき」と言い返す。「親殺し」と言った場合も同様に返されるから、悪口は自分の父母を罵倒するのと同じになる、という理屈だ」

「悪口はいかん。親不孝と同じ重罪じゃぞ」お裁きを受ける被告(イメージ)。

ここで「おやまき(をやまき)」は「親殺し」と同列に並べられていることから、「おやまき」は「親まき」であり、「親をまいた不孝者」を意味するものと考えられます。

その「まく」とは何か調べてみると、一説に「枕(ま)く」とあり、文字通り「枕にする=一緒に(≒性的な意味で)寝る」行為を意味します。枕の語源が「(布や衣類などを)捲くり込む」こともあり、相手を抱き込むニュアンスも含んでいます。

要するに近親相姦であり、親不孝な「人でなし」として、これ以上の罵倒はないでしょう。

同じ意味で「ははまき(母枕き)」という罵倒語も使われており、英語で言うところの「Mother -f□□ker」に相当します。

まとめ

さて、「おやまき」「ははまき」という罵倒語は分かりましたが、それがなぜ「出べそ」につながるのか……その意(こころ)は「臍は母とつながって≒通じて(姦通して)いる」からです。

母親とつながらずに生まれた者はいない(イメージ)。

人間は哺乳類なので、生まれる時は誰でも母親と臍の緒でつながっています。それを「母親と姦通している」という悪口として、オブラートに包んだ結果が「出べそ」として現代に伝わっているのでしょう。

「ばか!あほ!まぬけ!お前の母ちゃんでーべーそ!」

これまで微笑ましく聞いていた他愛ない悪口に、そんな由来があったとは驚きでした。

※参考文献:
笠松宏至ら『中世の罪と罰』講談社学術文庫、2019年11月