2020年7月9日、橋本のロストフ移籍を受け、FC東京の大金社長がオンラインで会見。完全移籍に至った経緯について「答えられる範囲で」と断ったうえで次のように説明した。

「正式オファーをもらったのは6月になるかならないかくらいと記憶しています。海外から橋本選手へのオファーレターが来たのはこれが初めてでした。その時は細かい話はなくて、あくまで獲得の意思があるというオファーでした。そのあと、条件等々を話して本日の発表になりました」

 はたして、クラブは引き留めなかったのか。大金社長は本人と「3回くらい話した」という。

「クラブとしては残ってほしい、一緒に戦ってほしいという意思を表明しました。なんといっても、クラブの生え抜き、チームの中心選手ですので、クラブを代表する選手になってほしいという思いでいろんな話をさせていただきました。ただ、彼は海外への移籍に対して強い意思を持っていて、年齢的にも本人は最後のチャンスと何度も言っていましたし、サッカー人生の中で後悔をしたくないと。クラブ、スタッフへの感謝もあるなかで、まずは夢を叶えたいと。最初、話し合いは平行線でした。クラブとしてこのタイミングで主力を失うことは痛手で、こういうシーズンですが、目標はタイトル獲得。ACLも考えると、ここで離脱となれば厳しくなるのは分かっていたので、強い慰留をさせていただきました」

 結果的に、FC東京は橋本の移籍を容認。過去にも15年シーズンに武藤嘉紀がマインツへ、昨季は久保建英がレアル・マドリ―へ移籍。そのいずれのシーズンもリーグ戦で優勝争いに絡みながら、栄冠を手にしていない。リーグ制覇は念願とする一方で、移籍に関しては最終的に選手本人の意思を重視している。そのあたりのバランスを、大金社長はどう考えているのか。

「そこはすごく難しい。正直、答がないというのが私自身の回答です。主力を移籍で失っても優勝できる戦力を蓄えるというのがクラブとしては試されているのかなと。ただ、本当にそこまでの資金やクラブ力があるのかなと考えた時、やはりまだまだFC東京としてはそこに至っていないのかなというのが自分自身の戒めとしては感じております。ただ、世界を見ても移籍というのは現実的にあって、それでもその国のチャンピオンになったり、チャンピオンズ・リーグに出場したり、良い成績を残しているクラブはあるので、やはりクラブ力をもっと高めないといけないということを今回の移籍で感じました」
 
 ちなみに、橋本の移籍によりクラブには違約金が入る。ただ、その違約金を補強にあてるかは分からない。大金社長は言う。

「シーズンは再開したばかりなので、現状では今いる選手で戦う。補強はまだ考えていません。戦力がどうなっていくか、それ次第で考えます」

 主力の橋本を失った今季、ある意味、FC東京の真価が問われるシーズンになりそうだ。仮にリーグ制覇を成し遂げれば、それが自信となり、社長のいう「クラブ力」を高められるかもしれない。

取材・文●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集部)

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