日本ではセダン人気の復活はもう難しい?

 ホンダ「アコード ユーロR」やトヨタ「マークII ツアラーV」など、昔はセダンにスポーティバージョン化したモデルがいろいろあった。だが、最近は姿を消してしまった。なぜなのだろうか?

 もっとも大きな理由、単純に、日本でセダン市場が縮小したからだ。90年代からのミニバンシフトと軽自動車シフトにより、セダン市場は圧迫されていった。セダン市場が大きかった時代には、販売店から「付加価値が高いモデルが欲しい」との要望が出るのは当然だ。付加価値モデルは利益率も高い。だが、母体となるベース車両のセダンの販売台数が減れば、付加価値モデルを仕立てるコストも上がり、メーカーにとって積極的に企画することもなくなった。

 現在、セダン市場が大きな国といえば、アメリカと中国がある。ともに、近年はSUVシフトが進んでいるとはいえ、例えば、アメリカならば全体需要1700万台のうち約4割はセダンを中心とした乗用車市場だ。そのなかで、ディーラーからは付加価値があるセダンの要求がメーカーにあるのは当然である。

スポーツモデルの専門ブランド戦略が大きく影響している

 少し観点を変えて、日本でスポーティセダンが姿を消した理由を考えると、ハイパフォーマンス系ブランド戦略の影響が色濃いと思う。

 2000年代以降、メルセデス・ベンツのAMG、BMWのM、アウディのRSやVWのR、キャデラックのV、そしてレクサスのFといった、エンジン本体にも本格的なチューニングを施す高額なハイパフォーマンス系が、セダン市場で定着するようになった。日本人も、こうした「凄いセダン」の存在が当たり前になってしまった。

 さらに各メーカーは、AMGパッケージやFスポーツなど、ベースモデルに対して外装や内装、さらにサスペンションチューニングなどを、ユーザーがカスタマイズできるビジネスモデルを提案するブランド戦略を進めた。こうなると、昔ながらの、吊るしのスポーティセダンが市場に入り込む余地がなくなってしまったといえるだろう。

 メーカーとしても、AMGやMは注文生産に近い形なので確実に売れるビジネス。また、AMGパッケージなどは、ベース車に対する部品供給の範囲で済むため、投資リスクが少ない。

 ミニバン、軽、そしてSUVが増えていく日本。そのなかでクーペが消え、スポーティセダンが消えていく。時代の変化なので、致し方ないのかもしれない。ただし、逆の見方をすれば、いつの日かトレンドが再び変わり、スポーティセダン復活の日がやって来るのかもしれない。クルマは「流行りモノ」なのだから。