今後も回転レーンでの提供にこだわる(写真:スシローグローバルホールディングス)

新型コロナウイルスの感染拡大の影響を強烈に受けた外食業界。政府による4月の緊急事態宣言の発令以降は、時短営業や一時休業を余儀なくされた。回転ずし国内最大手のスシローグローバルホールディングスも新型コロナの影響が直撃した1社だ。

スシローは2020年2月までの既存店売上高が28カ月連続で前年同月超えを記録。土日ともなれば店内は家族客であふれ、1〜2時間待ちは当たり前という状況が続いていた。だが新型コロナで客足が一気に遠のき、4月の既存店売上高は前年同月比で44.4%も減少。5月は同18.6%減、6月は2.1%減と持ち直したが、依然として楽観はできない。

「withコロナ」を見据え、どのように戦略転換を図るのか。「回転ずし」という形態の飲食店は今後も存続できるのか。水留浩一社長に聞いた。

――緊急事態宣言が発令された4月は売り上げが大きく落ち込みました。

一番大きかったのは営業時間を短縮したことだ。通常は一部の店舗を除き、午後11時に閉店する店舗が大半だ。だが、緊急事態宣言が出てからは、夜の営業は原則午後8時まで、アルコールの提供は午後7時までとした。午後8時に閉まるとなると、夕食をそこで取るという話にはならない。コロナ前まで、スシローの売り上げ全体の6割を夜の時間帯(17時以降の夜の時間帯)が占めていただけに、影響はとても大きかった。

――現場で何が一番大変だったのですか。

店長らに話を聞くと、「アルバイトやパート従業員の勤務シフトをコントロールするのが難しかった」という声が多かった。

新型コロナの感染が広がる中で「できるだけ働きたくない」と思う人と、「生活があるので、できるだけ長い時間働きたい」という人がいた。その中で限られた時間をシフトとしてどう割り振っていくのかは、とても大変だった。

また、どれくらい売り上げが落ち込むかわからない最初の時期は、廃棄ロスも出た。そこで、定番商品を中心に据え、メニュー数を少し絞った。期間限定の商品などは、投入時期をスキップして、全体の仕入れをコントロールした。

「今しか取れない物件を探せ」

――5月の決算説明会では、今後の出店戦略について「ピンチをチャンスに変えていく」という発言がありました。具体的にどんな方針で進めていますか。

例えば、都心のビルでは大型の居酒屋が退店している。ロードサイドに目を向ければ、ファミレスが数百店という規模で閉店しているほか、紳士服系を中心にアパレルも苦労している。いい場所を持っていたところが、そこを空けるのであればそこを取りに行く。

店舗開発のチームには「普段でも取れる物件ではなく、今しか取れない物件を探せ」と指示している。足元では、実際にそういう物件が出始めている。

――緊急事態宣言が発令中の5月中旬、JR渋谷駅、渋谷スクランブル交差点など、あらゆる渋谷のスポットで、スシローの広告を展開しました。SNS(交流サイト)では「歩いている人も少ないのに、スシローが『渋谷ジャック』した」と大きな話題になりました。


みずとめ・こういち/1968年生まれ。1991年に東京大学理学部卒業後、電通、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)、ローランド・ベルガー(日本法人)代表取締役、日本航空副社長などを経て、2015年2月にあきんどスシロー社長に就任。同年3月から現職(撮影:尾形文繁)

あの場所で広告を打つには半年前に抑えておく必要がある。もともとは年に1回の目玉として行う「創業祭」という販促キャンペーンをアピールし、インバウンドで訪れる観光客が多い渋谷で「スシローを世界に」というメッセージを打ち出す予定だった。

正直、キャンセルしたかったが、「それはできません」という返事が返ってきた(笑)。

だったら、このタイミングでどのようにあの空間を使うのか。考えた結果、表現をガラっと変えて急きょ「すしで、笑おう」という形で広告を展開することにした。

――コロナ前と後で広告戦略も変わるのでしょうか。

在宅時間が多くなって家でテレビを見ているかというと、パソコンの画面を見ている人が多い印象がある。

流れとしては、当然ネットのほうにいくとは思うが、テレビのような巨大なマスメディアの使い方と、どのように(広告戦略で)バランスをとっていくかは、まさに試行錯誤しているところだ。

「回転ずし」はまさに夢の世界

――ピーク時に比べるとコロナの感染者数は減っていますが、イートイン(店内飲食)の売り上げが急回復するのは難しいと思われます。それでも、「回転ずし」という業態は今後も変わらないのでしょうか。


コロナ後の「新常態」とどのように向き合っていくべきなのか。「週刊東洋経済プラス」では、経営者やスペシャリストのインタビューを連載中です。(画像をクリックすると一覧ページにジャンプします)

私は変わらないと思う。

おいしいものが手軽に食べられるだけではなく、好きなものを、好きなだけオーダーできて、レーンで届くというのは、まさに夢の世界だ。

あくまですしがメインだが、麺類、揚げ物、はてはデザートまで食べられる。そういう空間はほかにはないし、イートインに勝るものはない。

――店内の回転レーンで、すしが外気にさらされ続けることを気にする人もいます。

食品が感染経路となったという報告は一切ない。そのリスクは基本的にないと思っている。

そのうえで気にされる方はもちろんいる。最後は消費者の方が選ぶということだ。今の(回転ずしという)形で楽しみたいというお客様がいる限りは、われわれはそこにミートしていきたい。

「週刊東洋経済プラス」のインタビュー拡大版では「フルオーダー型店舗に対する見方」「自社の強み」「持ち帰りや宅配の戦略」なども詳しく語っている。