心身ともに、ひどく消耗する日々だった。

新型コロナウイルス感染症によって、多くの企業が在宅勤務を導入し、「これは3週間程度の外出禁止と対人距離の確保くらいでは済みそうにない」という厳しい現実が明らかになって数週間が経ったころ、多くのニュースメディア企業では、従業員に対していくつものアンケート調査が送られ、人事部との個人面談が設定された。すべては、ストレスの多い仕事環境で、従業員たちが精神的にどう対処しているのか探るためだった。

「従業員は会社にとって最重要な資産だ。彼らが『自分たちは会社に守られている』と感じ、最高の仕事ができるように、我々は常にできる限りのことをする」。そう語るのは、アクシオス(Axios)で人事担当のシニアバイスプレジデントを務めるドミニク・テイラー氏だ。

在宅勤務にともなう共通の課題としては、度重なるZoom(ズーム)会議、それによって引き起こされるZoom疲れ、1日の終わりにSlackからサインアウトするタイミングが分からないことなどが挙げられる。しかも、日々の作業負担に加えて、頭上には常にコロナウイルスという暗雲が立ちこめ、人と経済の健康を脅かす。そのうえさらに、警察による暴力と制度的な人種差別に対する一連の抗議行動が加わり、人々の心に重くのしかかる。

「仕事による燃え尽き感」を41%が申告



当然のことながら、ニュースメディアで働く者たちにとって、このような緊張と混乱に苛まれるのは勤務時間だけではない。この非常事態について報道する立場上、それは常に彼らの心の中心を占めている。

人材マネジメント協会(Society for Human Resource Management)が、5月に1099人の米国の従業員を対象に行った調査によると、この人々の41%が「仕事による燃え尽き感」を申告しており、別の23%は、コロナウイルスの心理的コストの結果として、「気が滅入る」と回答した。

この状況に対処するため、アクシオス、ポリティコ(Politico)、ガーディアン(The Guardian)、ブルームバーグメディア(Bloomberg Media)らは、全従業員を対象に、従来とは別枠の手当や特典を新設している。これには、心の健康を特に配慮した追加的な有給休暇や休業日も含まれている。なお、ショッピファイ(Shopify)はこの取り組みをもう一歩前進させ、水曜日を終日会議を行わない「ノーミーティングデー」に指定するとともに、今年の夏いっぱい、金曜日をオフにする予定という。

毎月1日の「特別有給休暇」を提供



アクシオスのテイラー氏によると、一連のアンケート調査と個人面談の結果、在宅勤務に移行して以来、従業員たちが仕事と家庭生活の線引きに苦労している現実が浮かび上がった。

そこで同社は、3月から毎月1日の特別有給休暇を設け、休みが必要だと感じるときに、いつでもこの有給休暇を活用できるようにした。

アクシオスは、在宅勤務者が健康で生産的な労働環境を自宅で整備できるように、通勤手当に代えて月額100ドルの在宅勤務手当を支給するなど、金銭的な支援にも注力している。とくに、コロナウイルスの影響を受けた従業員に関しては、10万ドル(約1077万円)相当の家族基金をつくり、追加的な資金援助を提供している。

「誰もが仕事を中断できる機会を」



ポリティコも同様のアプローチを採用しており、従業員が絶え間ないニュースサイクルから一時休止するための休暇を付与している。

ポリティコで最高人材責任者を務めるトレイシー・シュヴァイケルト氏によると、同社は1週間分の営業日に相当する日数を追加的な休日として確保し、この日数を月割りにして、4月から8月まで毎月1日の休暇を追加的に付与するという。ポリティコは、成果さえ出せば期間的に制限なく休暇を取れる制度を設けているのだが、従業員が十分に休養できるだけの休暇を自由に取っていないという現状に鑑みて、今回の有給休暇の付与を決めた。

オフィスの閉鎖により、「誰もが同時に、なにも失うことなく、仕事を一時中断する機会を得ている」と、シュヴァイケルト氏は言う。ニュース編集部は、速報に対応する必要上、通常勤務を余儀なくされたとしても、個々の部員が各自休暇を取れるときに取ればよいという。

また、同氏によると、ポリティコでは金曜日の午後には会議を設定しないように勧めている。

身体管理と健康的な生活のため



ガーディアンでは、同社の広報担当者によると、5月頭の「メンタルヘルスウィーク」の期間中、米国事業を1日休業にしたという。

一方で、同社の取り組みの主眼は、身体の健康管理と健康的な生活のためのトレーニング、ストレスの解消、情緒面でのサポートに置かれているのだそうだ。

ガーディアンの米国および英国部門の管理職たちは、セラピストの指導の下に行うオンライントレーニングの受講を義務づけられている。たとえば、「よくある心の病、および部員や同僚の症状をとらえる方法」のような講座である。

「パンデミック後もながく継続される」



ブルームバーグでは、逆境に負けない「心の強さ」をつくるトレーニングと、そのための指導者育成プログラムを実施している。また、カウンセリングサービスやオンラインリソースも提供しており、常勤と非常勤の別を問わず、すべての従業員が必要に応じて利用できる。3月には、瞑想のオンライン講座をスタートさせ、現在では日々の休憩時間にも利用できるようになっている。

先月、ミネアポリスで起きた警察官によるジョージ・フロイドの殺害と、この事件に端を発する正義と人種的平等を求める一連の抗議行動に関しても、「ブルームバーグメディア多様性と包摂委員会」を中心に継続的な議論の場を設け、従業員たちによる意見交換や問題への対処を支援している。

ポリティコのシュヴァイケルト氏は、将来的な仕事のあり方を展望しつつ、「必要は発明の母と言うが、それは人材育成や我々の働き方にもよく当てはまる」と述べている。同社が2月に採用した事業運営の方法にはいくつもの良い点があったけれども、従業員のための改善をめざす現在の取り組みは、パンデミック後もながく継続されるだろうと、シュヴァイケルト氏は見ている。

KAYLEIGH BARBER(原文 / 訳:英じゅんこ)