大阪環状線では現在の「323系」(左の2編成)にバトンタッチするまで、国鉄時代の通勤型電車(右の2編成)が主力だった=2016年12月(記者撮影)

東京都心をぐるっと回るJR山手線では2020年に入り、車両がすべて新型の「E235系」に統一され、49年ぶりの新駅となる高輪ゲートウェイが開業した。渋谷駅でも6月1日に埼京線ホームが並列化されており、大規模なプロジェクトにより山手線沿線は風景が大きく様変わりつつある。

だが、大阪も負けてはいない。市内の中心を1周する大阪環状線は、この数年で大変貌を遂げている。

京橋駅はリニューアル工事中

大阪駅から外回り(時計回り)で3駅目、大阪城の北東に位置する京橋駅。JR東西線・学研都市線や、京阪本線、大阪メトロ長堀鶴見緑地線が乗り入れる。北側はお好み焼き屋や居酒屋が軒を連ねる下町風情あふれる商店街、南側は近代的なオフィスビルが林立する大阪ビジネスパークと、多彩な顔を持つ要の駅だ。2018年度の1日平均乗車人員は13万5294人で、JR西日本管内の乗車人員では、大阪、京都、天王寺に次いで4位にランクインしている。


リニューアル工事が進む京橋駅の北口=2020年6月(記者撮影)

京橋駅は現在、リニューアル工事の真っただ中にある。昨年10月に大阪環状線内回りの3番のりば、今年3月には外回りの4番のりばで可動式ホーム柵(ホームドア)の使用を始めた。4月16日には北口のトイレがリニューアル。南口、西口のトイレも順次改良し、今後は北口改札の外観デザインなど駅舎の改装を進める。

JR西日本によると、大阪環状線では「『トイレ改良』を重点項目と位置づけ、“暗い・臭い・汚い”の解消」に取り組んできており、洋式化、温水洗浄便座化など、京橋駅以外の18駅ですでにリニューアルが完了した。トイレ以外にも、駅の施設や車両など路線全体がずいぶんとあか抜けた雰囲気になってきた。同社が近年、環状線のイメージアップに躍起になって取り組んでいるのはなぜか。

大阪―西九条―天王寺―京橋―大阪と、市内中心部を1周する大阪環状線の路線記号は「O」と実にわかりやすい。英語表記は「Osaka Loop Line」だ。JR西日本によると、「愛称線区」としての大阪環状線は大阪―天王寺―大阪だが、「営業線区」としては天王寺―新今宮の20.7kmが大阪環状線で、残り1駅分の新今宮―天王寺間(1.0km)は関西本線に乗り入れている。


関空・和歌山、奈良方面の快速も大阪環状線を走る(記者撮影)

環状運転を開始したのは前回の東京五輪があった1964年で、山手線(1925年)よりもずっと新しい。線内を周回する「普通」と、関西本線で奈良方面へ向かう「大和路快速」、阪和線で関西空港や和歌山方面とを結ぶ「関空快速・紀州路快速」などが走る。

快速列車は天王寺始発の場合、「逆『の』の字」を描くように環状線を1周して天王寺へ戻った後に奈良・和歌山方面へ出ていくため、車内のドア上にある停車駅案内には、たどっていくと天王寺が2回出てくる不思議な表記もある。

ほかに、人気のテーマパーク、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンを沿線に抱える桜島線(JRゆめ咲線)直通の普通や、京都・新大阪方面と関空を結ぶ特急「はるか」、南紀方面の特急「くろしお」、さらに貨物列車も一部区間を走るため、車両のバラエティに富む路線だ。

7年前に「ブラッシュアップ」を計画

だが、大阪環状線はつい10年ほど前までは、都会の中心を1周する路線にもかかわらず、国鉄時代の車両が“大活躍”し、駅施設の老朽化も目立つ路線だった。暗い、汚い、は何もトイレに限った話ではなかった。この数年で駅や車両が大きく変わったのは、7年前にJR西日本が打ち出したある作戦がきっかけだ。

同社は2013年3月に策定した2017年度までの中期経営計画で、重点戦略として「大阪環状線のブラッシュアップ」を挙げた。他社が手掛ける「グランフロント大阪」や「あべのハルカス」など沿線での大規模再開発の完成を目前に控えた時期でもあった。

この年の12月24日、「大阪環状線改造プロジェクト」のスタートを宣言。「安全快適な駅づくり(駅美装・改良)」「駅構内および高架下の開発・リニューアル」「車両新製」「地域や他交通事業者との連携」の4大施策を盛り込んだ。

プロジェクトの担当者、近畿統括本部企画課の吉田敦亘さんは「多くのお客様にご利用いただく線区であるにもかかわらず、駅設備や車両の老朽化が進み、乗車人員は減少傾向にあった」と当時を振り返る。

そのうえで「環状線内側エリアは人口増加が予想され、梅田地区等での大規模開発が予定されるなど環境が大きく変化していくことを踏まえ、大阪環状線を重点線区と位置づけ、総合的なブラッシュアップを進めていくことにした」と経緯を説明する。


103系車両をイメージした外観の「ビエラ玉造」=2020年6月(記者撮影)

2014年3月にその意気込みを示すかのような商業施設「ビエラ玉造」が玉造駅にオープンした。現在はセブン−イレブンやフィットネスクラブ、保育園が入る。開業当時、大阪環状線の“顔”のような存在だった「103系」車両をモチーフにしたオレンジ色の斬新な外観デザインが話題を呼んだ。側面の窓は「メリーさんのひつじ」の音階をイメージした配置になっているという。

全駅に発車メロディー導入

その1年後、2015年3月に大阪環状線全19駅で発車メロディーが出そろった(京橋、西九条、森ノ宮、大阪の各駅は2014年に導入済み)。

大阪駅は『やっぱ好きやねん』(やしきたかじん)、福島駅は『夢想花』(円広志)、天王寺駅は『あの鐘を鳴らすのはあなた』(和田アキ子)、桃谷駅は『酒と泪と男と女』(河島英五)と長年大阪人に親しまれたメロディーを選んだ。

大正駅は、沖縄都市モノレール(ゆいレール)の県庁前駅到着時の車内チャイムでもある沖縄民謡「てぃんさぐぬ花」。大正区は沖縄出身者が多く大阪の「リトル沖縄」とも呼ばれるエリアがある。森ノ宮駅の「森のくまさん」など、アメリカ民謡も複数採用。京橋駅の「ゆかいな牧場」は替え歌の「大阪うまいもんのうた」がご当地ソングとして知られている。

大阪のシンボル通天閣がある新世界の最寄り駅、新今宮駅ではチェコの作曲家ドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」が流れる。地名をかけたしゃれではあるが、そもそも新世界の名はこの楽曲に由来するという説もある。一方のドヴォルザークも熱心な鉄道ファンだったため、思った以上に縁が深そうだ。

2016年2月10日(ツーテンの日)に東口の愛称を「通天閣口」に変更したのも改造プロジェクトの一環だ。最近は老舗ふぐ料理店「づぼらや」の閉店がニュースになった。

各駅にシンボルフラワー

さらに同社は各駅に「シンボルフラワー」まで定め、ホームの大型駅名標やトイレの案内サインにあしらっている。大型駅名標はホーム上の時刻表、路線図、駅構内図、出口案内を1カ所にまとめたボードで、黒を基調に赤の帯がシックな都会感を演出している。


大型駅名標。弁天町駅は港区の花、向日葵(ひまわり)がシンボルフラワー(記者撮影)

桜ノ宮駅の「桜」や、大阪天満宮にちなんだ天満駅の「梅」などは、ストレートなシンボルフラワーの採用だ。が、発車メロディーと同様、一見して選定理由がよくわからない組み合わせもあるので、調べてみると土地の歴史を知るきっかけになるかもしれない。同社はホームページで花言葉とあわせて紹介しており、「より快適に、より魅力的に。色とりどりに花開く大阪環状線にご期待ください」と気合いは十分だ。


大阪環状線の主役車両も代替わりした。数年前までは国鉄から引き継いだオレンジ一色の車体の「103系」「201系」の姿が見られたが、専用に開発した新型車両「323系」に順次置き換えられた。“伝統色”のオレンジを外観のラインに引き継ぎ、車内はドア横の袖仕切りを斜めにしてスペースを広げ、余裕のある空間にした。


デビューを待つ「323系」(右)と大阪環状線を走る「201系」=2016年12月(記者撮影)


323系は2016年12月24日に営業運転を開始した。種別表示にはクリスマスツリー(記者撮影)

323系はプロジェクトの始動を宣言したちょうど3年後の2016年12月24日にデビュー。前面や側面に表示したクリスマスツリーの図柄が新型車両の登場に花を添えた。2019年に全編成(8両編成22本)の投入が完了。103系は2017年10月3日、201系は2019年6月7日に大阪環状線・JRゆめ咲線の運行から引退した。

企画課の吉田さんはこれまでのプロジェクトの成果について「お客様満足度の向上や乗車人員の増加など一定評価をいただいている」とみている。今後に関しては「引き続き、さまざまなコラボレーションや地域の皆様との連携などを通じて、大阪環状線の沿線価値向上を目指していく」と強調する。

まだまだ進化が止まらない?

プロジェクト開始直後の目玉、ビエラ玉造の外観デザインのモデルとなった103系はすでに姿を消した。だが、4ドアだった国鉄車両が引退し、3ドアの車両に統一されたことでホーム上の降車エリアや乗車位置といった足元の案内表示の整備が進み、混雑緩和に向けた対策が取りやすくなった。ホーム柵も設置済みの大阪、京橋に加え、鶴橋・天王寺・新今宮に導入する予定で、安全性向上や安定輸送につながりそうだ。

また同社は今年2月、323系を使って自動で列車を走行させる試験を実施。加速・減速や定位置停止といった制御機能、乗り心地などを確認した。将来的には大阪環状線・桜島線を「自動列車運転実現の最初の線区」とする考えだ。

京橋駅のリニューアルは、プロジェクトが目指した駅設備改良の集大成ともいえる。当初掲げたハード面での「明るい、きれい、わかりやすい」のコンセプトが具体化したいま、これからどのように沿線の魅力向上へ磨きをかけていけるかが試される。