北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は20日、1面に平壌総合病院の建設が急ピッチで進んでいるとの記事を掲載し、次のように伝えた。

「入院病棟5−2号棟と外来病棟の2、3、4区域の骨組みの工事を終えた軍人建設者たちは、外部美観作業課題の80%罫線を突破し、8建設局の建設者も任された対象の骨組み工事の仕上げ段階で進めている」

着工式で「人民の大切な健康と安全をよりしっかり守ることのできる今一つの貴重な財産」だと、金正恩党委員長がその意義を強調した平壌総合病院の建設計画だが、現場では死亡事故が多発していると、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

現場では1日平均で3人が事故で負傷または死亡している。5月中旬からの1ヶ月間だけでも、墜落死した兵士や労働者は19人に及ぶ。3月の着工からだと、その数はさらに多いだろう。

「1日4〜5時間の睡眠で、厳しい労働に追いやられている兵士たちが、現場で居眠りをして足を踏み外す事故が多発している」(情報筋)

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

情報筋は日時を明らかにしていないが、10年の兵役を終える直前だった27歳の兵士が、午前1時に高所で安全装置もないまま溶接作業を行っていたところ、墜落して死亡したと伝えた。同僚たちは「まともに眠っておらず、まぶたが重く感じるほどの状況で働いていて墜落死した」と証言している。

事故を目撃した同僚や近隣住民は、相次ぐ死を悼むと同時に、「あんなに人を殺してまで建設しなければならないのか」と怒りをあらわにしている。

労働者が夜中まで働かさせられているのは、金正恩氏自らが設定した工期があまりにも現実を無視したものだからだ。3月17日に着工式で鍬入れを行った金正恩氏は、「建設目標は非常に膨大で、建設の期限は迫っている」としつつも、今年10月10日の朝鮮労働党創建日までの完成を命じた。

この計画がいかに現実を無視したものか、現在建て替えが行われている東京都の青梅市立総合病院と比較してみよう。建て替えられる本館は地下1階地上8階、病床は約500床で、この工事だけで3年、計画全体では8年の時間を費やすことになっている。一方の平壌総合病院は病床数は不明だが、建物は20階建ての建物2棟と低層棟だ。

金正恩氏は着工式での演説で、労働者に徹夜での作業を求めた。

「党の指導に従って建設の大繁栄期を先頭に立って切り開いてきた日々に発揮した不屈の精神力によって『速度戦』の熱風を巻き起こし、党創立75周年を誇るべき記念碑的建造物を完工することによって輝せるための忠誠の突撃戦、熾烈な徹夜戦、果敢な電撃戦を繰り広げるべきです」

その一方で金正恩氏は、建物の質を担保せよとも求めている。

「急を要するからといって施工の質を落としたり、質を高めるからといって速度を緩めるのはいずれも党の思想と要求に反することであり、これはわれわれの言う『速度戦』とは縁もゆかりもありません」

しかし、質をないがしろにして、政治的な意図のため無理やり工期に合わせようとするのが、「速度戦」の本質であり、高い質を求めれば、工期が伸びて「速度戦」ではなくなってしまう。また、人民に資すると称して、建設にあたる人民の命をないがしろにする構造にも何ら変化はない。

現場で働く労働者は安全装置はおろか、食事すらまともに与えられない状況で、近隣の家に盗みに入るなど、市民にとっては平壌総合病院は災難でしかない。