6月27日、約4カ月ぶりにJリーグが再開した。ただし、再開から2節は「リモート・マッチ」こと無観客試合。さらに新型コロナウイルス感染防止の視点から様々な制約が課されている。はたして試合会場の様子はどうなっているのか。同日開催されたJ2リーグ、ジェフユナイテッド千葉vs大宮アルディージャでの様子を取材した。



試合会場のフクダ電子アリーナは千葉県蘇我駅から徒歩8分。通常の試合開催日には駅からユニフォーム姿のファン・サポーターたちがスタジアムまでの道を埋めている。2019年度の千葉のホーム平均観客動員数は9701人。その人々の姿が今日はない。

駅から降りてきたところでスタジアム方向を見ても、今日がJリーグの開催日であることがわかるようなものは何一つない。駅前のコンビニエンスストアで食料を買い込む姿、人が少し急ぎ足で歩く道路、そして時折知り合いに挨拶する姿などは見られない。



歩道橋の上から見ても、華やいだ雰囲気は見受けられなかった。途中の商業施設も混雑とはほど遠い状況で、ゆったりと商品を眺める人たちがいた。フットサル場でプレーしている2チームだけが、ボールを蹴る楽しさを表していた。



横断歩道を渡って蘇我スポーツ公園に到着するものの、そこはガランとした空間だった。屋台から漂ってくるソーセージを焼く匂いや、ケバブの大きな肉の塊が回る姿はない。もちろん、並んで自分の番が来るのを待つ人はいるはずもない。それでも係員は立っていた。間違って来場してしまった人に説明し、返ってもらうために待機していたのだ。



サポーターらしき人の姿は1人も見かけなかった。みんなどこにいるのか。サポーター団体のまとめ役の1人である豊川亮太氏は「みんな家にいます」と言う。

「サポーターが今どこかに集まって観戦して、そこで感染者が出たらチームに迷惑になります。今は集まって応援しないことが、早く応援できるようになることだと思って、今日はみんな自宅にいます。クラブのキャッチフレーズである『Win by all』ですよ」

スタジアムに近づいても、今日がJリーグの開催日である事を示すバナーなどはない。音楽も聞こえない。足音もしない中で響いているのはスケートボードが転がる「シャー」という音だけ。そこにあったのは「サッカーのない世界」だった。



取材を許されたわずかな人数の報道陣も徹底的な管制下に置かれた。通常は試合開始2時間30分以上前にスタートする報道受付は1時間前から。最初に体温を測り、直近1週間の体温や体調の報告書を提出する。

入ると記者はスタンドの記者席へ直行し、いつもなら作業のために使用する報道控え室は使えない。記者席は横が1席おき、前後も1列開けて座る。その記者席とトイレ以外は行くことができない。またカメラマンはスタンド下に設けられた控え場所にて待機する。また、これはいつものことだが、記者はカメラなどで撮影することはできない。

そんな中でピッチに選手が出てきた。選手同士などによる「知り合いとは握手で挨拶」という慣習は、腕をタッチするようになっていた。雰囲気が変わったのはスタジアムDJが音楽を流し、軽快に話し出してから。目の前のガランとした風景を除けば、スタジアムには熱気が戻ってきたように見える。

試合前の写真撮影も変わった。選手の足下にマーカーが置かれ、選手は距離を取って立ちソーシャルディスタンスを守る。また、集合写真を撮影するためにいつもはカメラマンがひしめき合うが、この日はオフィシャルのカメラマン1人だけが撮影を行っていた。


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この日、千葉は「リモートチアラー」というサービスを試験的に導入した。スマートフォンなどのアプリで「歓声」「拍手」「激励」などのボタンを押せば、それがリアルタイムでスタジアムに置いてあるスピーカーから録音された応援の声などを流すというシステムで、試合中ほぼスピーカーから声が流れ続ける。

音質や音場の問題はあったにせよ、賑やかさは確かに加わった。また単に録音している音声をずっと流しているのではなく、場面に応じて内容が変化していたのでメリハリはあった。この日、千葉の中盤を支えた田口泰士は試合後、「もちろん聞こえてました。モチベーションが上がります。いい取り組みだと思います」と振り返った。

試合は大宮が前半に挙げた1点を守り切り終了。ところがタイムアップの瞬間に場内に流れていた応援が一斉になくなり、急に「祭りの後」がやってきた。まだ厳しい「現実」が戻ってきたというほうがいいかもしれない。

いつもなら誰かと話しながら試合の余韻を楽しむ時間はこの日存在しなかった。報道陣もその場に座ってオンライン会見システムのスタートを待つ。会見は始まったものの、ここでこの日1番のハプニングが起きた。

ときどき回線の調子が悪いのか記者たちの質問が聞こえなくなり、選手が何度か聞き直すという状態になったのだ。何とか会見は終わったのだが、その時点で試合終了から1時間が経過しており、報道陣は退去を促されスタジアムの外で記事を書くことになってしまった。

千葉の広報担当で会見を担当していた富永真悟氏は、トラブルを謝った後にホッとした口調で語った。

「無観客ではあるのですが、関係者などいろんな方が来るのでスタジアム内のゾーン分けを行いました。そのゾーンをできる限り交わらないようにうまく整理するのに時間がかかりました。今日も会見のように途中で回線がうまくつながらなかったりなど、そういうのはやってみなければわからないことでした。今後、そういうときにうまく対応できるかというのが心配です」

「間違って来場した人がいたら帰っていただかなければならず、心苦しさも感じています。そしてサポーターの方々は自宅で見ていただいていると思うのですが、千葉の運営担当とサポーターの代表の方がうまく連携していて、こちらの思いを理解していただいていると思います。本当に信頼できるサポーターの方々だと思っていますし、ありがたいところです」

最後の最後にドタバタはしたものの、それでも無事に試合は開催され、約4カ月ぶりでピッチの上にサッカーが戻ってきた。初めてのチャレンジということを考えると、試合の運営そのものではトラブルが少なかったと言えるのではないか。試合以外の部分では作業環境や通信環境が整備されていないなどの問題点はあったが、対応策は見つけられそうだ。

あとはこれがピッチからスタジアム、スタジアムから街中へと熱が広がる日を待つだけ。その日が一日でも早いことを願いたくなる再開初日だった。

(森雅史/日本蹴球合同会社)