■韓国の失業率が10年ぶりの悪化

韓国統計庁が6月10日発表した5月の失業率は、4.5%に悪化し、2010年1月以来、10年ぶりの高水準となります。韓国では全体に比べて、若者の失業率が2.5倍と高く、若者の就職先が限られた社会となっています。文政権は公約として「81万人の雇用創出」を掲げていましたが、結果、高齢層の雇用拡大が進み、若者の雇用状況は改善されていない状態が続いています。

写真=iStock.com/Oleksii Yeremieiev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleksii Yeremieiev

経済的に対極にある韓国の家族の「格差」を描いた、ポン・ジュノ監督による『パラサイト』はカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを獲得し、アカデミー賞の作品賞を4部門受賞し、世界で高く評価されています。フィクションですが、映画の中に出てくる「半地下(バンジハ)」と呼ばれる住居は、実際に存在しており、半地下に暮らす人々は、韓国統計庁の2015年人口住宅総調査によると、約82万人にも上るといわれています。

持てる者と持たざる者が浮き彫りになった『パラサイト 半地下の家族』。実際のソウルで半地下に暮らす、多くの若者は、家賃の安い半地下で暮らすことで、予定より早くお金が貯め、早くマイホームを持つという“夢”を見ている者もいます。

■「半地下の臭いだよ」、臭いが住民に染み付く

低家賃のアパートである「半地下」とは、その名の通り、地上と地下の中間の「半地下」に建てられた貧困層用の住居です。ソウルでは家賃高騰が続いていますが、半地下は月々の家賃は約54万ウォン(約5万円)。この安さから、住む場所として選択する人が多いのです。その住環境は外から家の中が丸見えの部屋もあり、プライバシーが守られにくくなっています。また、洪水の際には家の中が泥水であふれ、非常に不衛生でカビが発生しやすい環境です。最近は、洪水の対策を取られた家も目にすることができます。

ただ、半地下には独特の「臭い」がある。映画の中では、その臭いが住民に染み付き、見た目や言葉を誤魔化しても、消えない「臭い」となることが表現されています。この「臭い」は、近隣の高層マンション群の高所得者との埋められない「格差」を浮き彫りにしています。

■韓国の若者の失業率は世界で最も深刻

半地下の例は、ソウルの一例ですが、韓国の格差を表している一つの側面でしょう。2018年度のOECDのデータによると韓国の若年層の失業率が、OECDクラブの中で、最も深刻なレベルになっています。韓国統計庁によると、2018年の全体の失業率は3.8%であるのに対し、若年失業率(15〜29歳)は9.5%と2.5倍です。

定職を持たないフリーター、就職浪人、ニートなど実質的な失業者を含めると失業率はさらに高くなります。このような、定職を持たない若者を含めると広い意味での失業率は、15〜29歳において20%を超えています。若者の5人に1人が実質的な失業者ということになります。

なぜ、韓国は若年層の失業率が高いのか。一般的な要因は、韓国は大学の進学率が高く、さらに徴兵制によって若者の社会進出が遅くなる傾向があります。その上、韓国では、労働組合の影響力が非常に強いという経済構造があります。今回のように、新型コロナなどの外部要因によって、雇用環境が悪化すると、労働組合は、今、企業で働いている人の権利・雇用を守るように主張します。そうなれば、企業は新規採用の余裕はなくなります。

■財閥だけが利益をとれる構造の問題点

日本には中小企業など知名度は低くても業績や雇用の安定度が高い企業が多いです。一方、韓国は、圧倒的な財閥構造となっており、中小企業が育っていない。実際、韓国政府が公表している賃金格差の資料では、大企業の正社員の賃金を100とした場合、中小企業の正規労働者の賃金はその約半分程度です。これは大企業の非正規労働者の賃金よりも低い水準です。

韓国財閥は、中小企業の製品を買いたたくことで利益を伸ばしてきた結果、韓国では全く、中小企業の成長が見込めない状態になっているのです。財閥だけが利益を得る構造から抜け出すことができずに、イノベーションが生まれる土壌が育たず、中小企業の労働条件は非常に厳しい。そのため、若者は就職先に選びたいとは思わないのです。

韓国の若者は財閥の企業や安定した公務員への就職希望者が多いですが、その就職先の枠がそもそも少ない。そこで、狭き門を勝ち得るために、繰り広げられているのが、学歴競争です。

■恐怖心からくる学歴戦争社会の先に経済成長はない

大企業や、公務員に就職できなければ生活は安心したものにならないといった、“恐怖心から”くる「学び」の中からはイノベーションは生まれないでしょう。

学歴とは何でしょうか。社会に出た時に、組織のなかで、目上の人を重んじることができ、決まったことを、きっちり期限までに、高品質なパフォーマンスで継続的に発揮できる人間、そういった人材である可能性を、保証するのが学歴と考えます。組織人として都合良く使える人材を育てても、それだけの意味しか持てません。そこには、自由な発想を持ち、「世の中をより良く変えていく、サービスは何か?」など革新的で、イノベーションな発想など、生まれようがないのです。韓国の若者が逃れられない閉塞感。若い労働力が適正に配置されていない状態では、韓国経済の成長は難しいでしょう。

文政権は公約として「81万人の雇用創出」などの政策を掲げていました。文在寅政権における雇用政策の特徴は、公共部門における積極的な雇用創出を通じて民間部門の雇用創出を牽引しようとするものです。韓国には公共機関に対し一定の比率で若者を雇用することを義務付ける法律(青年雇用促進特別法)があり、一定の効果をだしているものの、社会全体でみると、雇用が増えたのは社会福祉産業であり、特に高齢層の雇用拡大が進んでいる事実があります。一方で、若者が就職する際の大きな受け皿である製造業ですが、ここでの雇用状況は改善されていない状態なのです。

■文在寅政権の進める「正社員化」

また、文大統領は公共部門において「正社員化」を進めています。公共部門で常時・持続的な業務に従事する非正規雇用労働者20万5000人を正規雇用に転換する計画を進めており、2019年6月末時点で、正規雇用への転換が決まった公共部門の非正規雇用労働者数は、目標の90.1%に当たる18万5000人となっています。

公共部門の正社員化は順調に推移しているものの、正社員化されても課題が残っている。正社員化された労働者の大半は、既存の正社員とは別枠の正社員として採用されるなど実態は、格差がまだまだ、続いています。

一方、民間部門では正社員化は低迷しています。韓国労働研究院(KLI)は2020年1月に「2019年の非正規職の規模と特徴:2019年8月『経済活動人口調査部調査』を中心に」と題するリポートを発表しています。それによると、2019年8月時点の非正規労働者数は748万人で、前年比87万人増加しています。正規労働者と比べた非正規労働者の相対賃金は68.9の水準で、平均時給が最低賃金水準に満たない労働者数は339万人であり、前年比28万人(16.5%)増加しているのです。

韓国の若年層が、優良企業に就職するために高学歴を目指して学生時代を費やしてきたにもかかわらず、扉を開けた社会の先には自分の力ではどうすることもできない格差が広がる社会が待ち受けています。韓国の未婚率が急激に増加し20代は91.3%、30代は36.5%と増加しており、2025年には、30代の男女未婚率が50%を超えるという予想も発表されています。

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馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
テクニカルアナリスト
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。
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(テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子)