世の中のワーキングマザーたちは、子どもの休校長期化と自身のテレワークとの両立の中で、どのような教訓を得たのか(写真:Pangaea/PIXTA)

新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出されていた緊急事態宣言が5月25日、全面解除された。約2カ月にわたる外出自粛期間中、テレワーク(在宅勤務)をしながら子育てをしていたという人も多い。

政府は緊急事態宣言を発令するとともに、企業に対して積極的なテレワークの推進を求めたが、ふたを開けてみれば、全国のオフィスワーカーのテレワーク実施率は27%(4月30日、厚労省)。政府の目標を大きく下回る結果となった

だが、大企業が集中する東京都の数字だけを切り取ると、話は大きく変わってくる。東京都のテレワーク実施率は52%。つまり、オフィスワーカーの2人に1人はテレワークしていたことになる。

さらに、東京都に住む小学生以下の子を持つ家庭の共働き率は61.5%。都内の公立小学校のほとんどが5月末まで休校していたことを考えると、実に多くの親が子育てしながら自宅で仕事をしていたことがわかる。

「子どもが騒いで仕事ができない」「食事の支度で仕事が中断される」「食費が極端に増えた」など、休校やテレワークの大変さを訴える声はSNS上に多く上がっている。だが、「手間がかかる」「お金がかかる」こと以外にも、悩みや不安を抱えた親は多かったのではないか。テレワークしながら子育てをしていた2人の母親は次のように打ち明ける。

テレワークを「休み」と勘違いした息子

武田さん(仮名)は、4歳の男の子を育てながら、外資系のメーカーでフルタイムの正社員として働いている。外資系と聞くとテレワークを含めた柔軟な働き方を推奨しているように思いがちだが、武田さんの会社は取引先に合わせて9時始業、17時半終業でフレックスタイムなし。これまでテレワークの制度自体がなかった。

全社一斉のテレワークが開始されたのは3月下旬。在宅とはいえ、仕事量は変わらない。そのため、当初は子どもを保育園に預けていた。だが、緊急事態宣言をきっかけに登園を自粛。4歳の子どもの面倒を見ながら、仕事をする日々が始まった。

「夫もテレワークになったので『両親が家にいる=休日』だと子どもは思い込んでしまって……。『遊んで攻撃』をかわすため、いろんなおもちゃを買い足しました」

特にお金をかけたのが絵本だ。本好きの息子のため、これまでは図書館から2週間に1度、15冊ほど借りていた。しかし、頼みの綱の図書館が休館。急きょネット通販で6〜7冊購入し、計1万円ほどの出費になった。

おもちゃ箱にあふれかえるほど持っていたプラレールも、「パパとママのWeb会議中は静かにするという約束をして」線路や車体を1万円ほど買い足した。だが、それでもまったく時間がもたなかった。「4歳児の集中力なんて、せいぜい10分程度」と武田さんは苦笑いする。

痛い出費をしたにもかかわらず、子どもからは「遊んでほしい」と矢のような催促。「あとでね」とかわし続けていたら、「ママは僕のこと嫌いになっちゃったの?」と泣きそうな顔で聞かれたこともあった。「相手をしてあげられない罪悪感で胸が苦しかった」と振り返る。

そこで取り入れたのが、早朝の散歩。通勤時間がなくなった分、テレワーク開始当初は始業より早めに仕事に取りかかっていたが、その時間を子どもとの散歩に充てることにした。朝から体を動かすことで子どももぐっすり昼寝するようになり、武田さんの仕事もはかどるようになった。

また、1歳の誕生日を目前に仕事復帰した武田さんにとって、24時間子どもと一緒に過ごすのは3年ぶり。子どもに手をかけることで、自分の気持ちも満たされたという。

テレワークは「子どもがいない状況でやりたい」

6月に入り、保育園への登園も再開した。社内では、そろそろ一斉テレワークを終了しようとする動きも出ている。だが、武田さんはコロナの感染拡大が落ち着いても週に数回はテレワークを継続したいと希望している。

「登園を再開したことで、『仕事は子どもを見ながらするものではない』という認識を強くしました。これが日常化してしまうと、親も子も消耗してしまいます。やはり、保育園なくして仕事はできません」

テレワークを週数回継続するだけでも、通勤に費やしていた1時間半を子どもとの時間に充てることができる。何より、子どもが体調を崩したときにすぐ駆けつけられる距離にいられることも、今のこの状況においては大きな安心材料になる。「これを機にテレワーク制度の定着を会社に要請したい」と武田さんは話す。

「身の回りのお世話」がメインの未就学児に対し、小学生以上の親はどんなことを大変だと感じたのか。中2、小6、小2の3姉妹を育てながら都内のメーカーで商品企画の仕事に携わる吉岡さん(仮名)は、「とにかく勉強の進み具合が気になってしまった」と話す。

長女の中学校は私立。次女は中学受験を控えており、進学塾に通っている。今までは学校や塾任せだったが、いずれも授業がなくなったので自習させなければならない。仕事柄、これまでも週に数回はテレワークしていたが、子どもが在宅している状況で働くことには慣れていなかった。

「3月下旬に私が週5のテレワークに切り替えることが決まり、『これで勉強を見てあげられる』とホッとしました。でも、そう思ったのもつかの間。たとえ家にいたとしても、私はいつもどおり仕事がある。片手間に勉強を見ることはできませんでした」

実は一斉休校が確定した2月末に、すでに学習動画配信サービスや有料の学習アプリ、タブレット端末を使った通信教育サービスを契約していた。その額、3人合わせて月額1万3000円。ここに私立の授業料など固定で払っていた教育費が加わるので、結構な出費だ。だが、「できるだけ親のサポートなしでできる教材を選んだので、仕方なかった」と吉岡さんは話す。

「罪悪感をお金で解決した気がした」

休校から約2週間後の3月中旬には、次女の塾のオンライン授業が始まった。だが、長女の学校は特に動きがなかった。苦手科目の数学は自習だけでは難しいという長女の訴えもあり、4月から1カ月間、知り合いの家庭教師に依頼して、オンラインで勉強を見てもらうことにした。

「1科目に絞ったものの、それでも授業料は1万5000円。自分が勉強を見てあげられない罪悪感を、お金で解決してしまったような気がしました」

吉岡さんは「罪悪感」と表現したが、教育への不安を抱えていたのは彼女だけではなかっただろう。

政府が一斉休校要請を発表した2月27日を含む書籍の週間の売り上げランキング(「週間ベストセラー 総合ランキング」。3月3日、日本出版販売)には、売り上げ上位20位の中に学習ドリルが5冊、100位まで広げると17冊も入っていた。その前週のランキング100以内には1冊も入っていないことを見ても、休校によってどれほどドリルの需要が高まっていたかがわかる。

状況が変わったのは、4月も半ばに入ってから。長女の通う私立中学校のオンライン授業がついにスタートしたのだ。

それまで長女と次女の勉強時間をずらして1台のパソコンを共有させていたが、授業時間がかぶってしまったため、それぞれにパソコンが必要になってしまった。「できるだけ安いものを探したが、それでも10万円を超える出費になった」と吉岡さんは渋い顔をする。

だが、その出費をきっかけに、吉岡さんの心境にも徐々に変化が表れ始めた。パソコン費用を捻出するために家計を見直したことで、不安に駆られて教育費をかけすぎていたことに気づいたのだ。

さっそく、学習動画サービスやアプリを解約。3女には習い事をいくつかさせていたが、緊急事態宣言を受けて、すべて休会していた。「これを機に、3女の意見も聞いて習い事を見直したい」と吉岡さんは話す。

以前は、平日は学校や塾、習い事で忙しかった子どもたちも、宿題が終わればフリータイムという過ごし方に満足していた様子。17時に吉岡さんが終業した後は、4人並んでテレビを見るのが日課になったという。
 
「私が好きな韓流ドラマに子どもたちもハマり、韓国語も少し覚えてきたようです。時間ができたことで思いがけないところに興味が広がったのも、この数カ月の収穫だったかもしれません」

6月に入り、それぞれの学校も再開し始めた。だが、これまでと同じように韓国ドラマを楽しむ時間をつくるため、「子どもたちが自分で宿題を管理するようになったのがうれしい。私も残業しないように気をつけないと」と吉岡さんはほほ笑む。

経験を生かした「新しいテレワーク」の必要性

2人の話を聞くだけでも、テレワーク中の育児が親たちにとってかなりの精神的負担になっていたことがわかる。子育てとは、ただお腹を満たしておけばいいということではない。メンタル面のサポートも非常に重要だ。

サポートする内容も年齢とともに変化し、決して金銭では解決できない。今回話を聞いたのはたまたま母親だったが、父親として同じような悩みを抱えていた男性も多かったに違いない。

武田さん、吉岡さんとも、テレワーク中の子育てを試行錯誤した結果、今後の子どもとの関わり方や働き方の見直しにつながった。しかし、両者ともに「仕事の量は普段と変わらなかった」とコメントしていたのも気にかかった。

コロナウイルスの感染拡大という突発的な事態に、企業側も業務量の調整がしづらかったことは理解できる。だが、今後テレワークを普及させていくにあたって、出社してこなしていた仕事の量と在宅でこなす仕事の量が変わらないというのは、はたしてどうなのだろうか。

出社したほうが自分の負担が少ないということであれば、テレワークを選ぶ人は徐々に減っていくだろう。「子どもと過ごせたあの数カ月は楽しかった」と、なんとかやり遂げたこのテレワーク期間をただの思い出話にしてしまうのか。

全体の仕事量を減らすとまではいかなくても、会議の回数の見直しや過剰なメールのやり取りをやめるだけで、テレワーク時の負担は減ってくる。インフラの整備などハード面だけに目を向けるのではなく、この数カ月の経験を基に企業と社員とが積極的に意見を交換することで、今の社会に合った「新しいテレワーク」として定着していくだろう。