2018年11月、ブランド転換した愛知県一宮市の店舗前であいさつするファミリーマートの澤田貴司社長。ファミリーマートはこの月にブランド統一を完了した(撮影:尾形文繁)

「契約を更新せず経営から退くオーナーが、今後1〜2年で増えてくる」。3年近く前にサークルKサンクス(CKS)からファミリーマートにブランド転換した、元オーナーAさんはそう語る。

コンビニエンスストア業界2位のファミマ(2020年4月末時点の国内店舗数1万6610店)は、加盟店の経営状況が急悪化し、「独り負け」状態にある。

2020年2月期におけるファミマの1日当たり全店平均売上高は、前期比2000円減の52.8万円。ヒット商品が出なかったことによる客数の落ち込みが響いた。

重くのしかかる人件費

ライバルチェーンも客数は減少しているが、最大手のセブン-イレブンはおにぎりの値上げ効果などで2020年2月期の1日当たり全店平均売上高は65.6万円と前期並みを維持。3位のローソンも高単価のスイーツ商品がヒットし、同4000円増の53.5万円だった。


ファミマの店舗オーナーには売り上げの減少だけでなく、費用増も重くのしかかる。最低賃金の上昇率は4年連続で前年比3%を超えており、小売業界全般でアルバイトなどの人件費が上昇している。加えて「コンビニのアルバイトは敬遠されがちで、募集費がどうしても高くなる。それでも採用できないと、割高な派遣サービスに頼ることもある」(現役ファミマオーナーのBさん)という。

こういった加盟店の窮状を受けて、ファミマは手厚い支援策を準備した。この3月からフランチャイズ(FC)加盟店支援制度を順次拡充しているのだ。

年間110億円の資金を投じて、複数店舗経営の奨励金やコンビニ経営継続時の奨励金などを強化するのが、そのポイントだ。


「われわれは加盟店さんファーストだ」。2019年11月に行われた、新たな加盟店支援を発表する記者会見の席上、ファミマの澤田貴司社長は胸を張った。

ただ今回の支援策には、ブランド統合に伴い生じた“歪み”を解消する側面もある。

コンビニ業界ではこれまでも数々の吸収合併が繰り広げられてきた。ローソンは16年に、神奈川県を中心とするスリーエフと合弁会社を設立。看板にスリーエフの名前を一部残すものの、店内商品のほぼすべてをローソンのものに変えた。

ファミマもam/pmやココストアに続き、全国に店舗網を持つCKSを16年9月に吸収した。業界ではかつてない規模の経営統合で、統合前に約6300店あったCKS店舗のうち、約5000店を18年11月までにファミマにブランド転換した。

「歯を食いしばって耐えてきた」

CKS統合後の滑り出しは上々のように見えた。ブランド転換した直後は、商品力やブランドイメージが向上した結果、店舗の売り上げが1割上昇した。

売り上げが伸びれば加盟店の経営状況は上向き、歓迎されるはず。しかし、ブランド転換した現役ファミマオーナーのBさんは「ブランド転換した際に理不尽な契約を結ばされた。これまで歯を食いしばって耐えてきた」と吐露する。

実は、CKS時代に複数店を経営していたオーナーは、ファミマへの転換によって店舗運営の条件が不利になったのだ。中には資金繰りに行き詰まり、コンビニ経営から撤退するオーナーもいる。

不利な条件の1つは、儲けた金を引き出す「月次引出金」の仕組みだ。

コンビニ業界では、毎日の店舗売り上げを本部に預ける。そこから月ごとに、商品仕入れ代金やロイヤルティー(本部に支払う経営指導料)、アルバイトの人件費などが引かれる。その差額=儲け分をオーナーが毎月引き出せる。これが基本的な仕組みになっている。

ファミマはこの基本を踏襲したうえで、儲けの多寡にかかわらず毎月決まった額を引き出せる「定額」の月次引出金制度を採用している。あるオーナーのケースだと、その額は30万円。この制度には毎月一定の金額が手に入る利点がある。

一方、売上高が好調で月次引出金を上回る儲けを計上したとしても、その増加分を引き出せるのは四半期に1回のみで、そのうち7割しか引き出せない。しかも、店舗の利益が下がり自己資本が大きく落ち込んだ場合は、月次引出金が減額される。さらに、月次引出金から店長など店舗責任者(1店舗1〜2人)の給料を支払う必要がある。

借り入れができず経営難に直面

CKS時代には、店舗の利益に連動してオーナーの月次引出金も増える仕組みだった。報奨金なども手厚く、店舗責任者の給料も本部がいったん立て替えて支払っていたため、給料支払いに困ることはなかった。

だが、ブランド転換に伴いファミマの厳しい月次引出金制度を適用したことで、オーナーはしだいに追い詰められていく。複数店舗を経営していた元CKSオーナーAさんの場合、昨今の人件費負担の増加により店舗利益が減少し、月次引出金を減額された店舗もあった。

費用の増加で店舗利益が減り、四半期ごとの定額超過分の引き出しも減ってしまった。「毎月の給与支払いのために資金調達が必要になったが、銀行は貸してくれなかった。経営が回らなくなった」と、Aさんはうなだれる。

セブンも定額の月次引出金制度を採用している。ファミマと同様に、あらかじめ定められた月次引出金を上回る儲けをオーナーが引き出せるのは四半期に1回、そのうち7割のみである。だが、セブンの場合には店舗責任者の給料は本部が立て替えて支払うため、オーナーは手元資金が苦しい月でも給料支払いに困ることはない。

ちなみにローソンには定額引出金制度がなく、毎月の店舗利益に連動してオーナーの儲けが送金される。儲けが少なければ、人件費負担に苦しむわけだが、その場合にはより高い売り上げが見込める立地への店舗移転を促すなどのサポートをしている。

ブランド転換で理不尽な「1年目」

ブランド転換による制度の歪みで、実入りが少なくなったケースもある。

コンビニ業界では土地や建物へ投資する際、オーナーの負担割合によって本部に支払うロイヤルティー率が変わる。オーナー投資額が増えるほどロイヤルティーが減少するのが基本だ。

ファミマには店舗投資の際、土地や建物、内装工事費用のすべてを「本部」が負担する契約と、内装工事費用の約1000万円を「オーナー」が負担する契約の2パターンがある。後者の場合はオーナー負担が増すため、見返りとしてロイヤルティーが減額される。

ここで問題が生じた。ファミマでは内装費用をオーナーが負担する契約を結ぶためには、ファミマ店舗として5年間の運営実績が条件となるのだが、元CKSオーナーはブランド転換した際に「加盟1年目」と見なされたのだ。

つまり、本部統合に伴うブランド転換にもかかわらず、形式上は加盟1年目という理由だけで、緩和措置を受けることができなくなった。ある店舗では売上高に占めるロイヤルティーの割合が、CKS時代よりも3ポイント近く増えた。

現役ファミマオーナーBさんは、「抵抗はしたが、本部側から『期限までに契約しなければ看板替えをしない』と言われ、この条件をのまざるをえなかった」と唇をかむ。

元CKSオーナーにとっては泣き寝入りのような境遇だが、この点についてファミマは「基本的にブランド転換の際には新しく契約を結ぶため、契約が変われば加盟年数も変わる」(広報担当者)としている。

ローソンでも似たようなケースはあった。スリーエフなどからブランド転換した店舗は、売り上げは上昇するものの本部へのロイヤルティーも高額になった。ただ、「ブランド転換でオーナーの収入が極端に下がらないよう、販売支援金で補った」(スリーエフのIR担当者)という。

新たな支援制度を打ち出す

ブランド転換による制度の歪みはさらに、本部からの支援金にも生じた。CKSで複数店を経営していたオーナーは、売上総利益のうち3%を奨励金として受け取っていた。CKSの実績を基に計算すると、1店の1日当たり売上高が43.8万円、売上総利益率が27%の場合、奨励金は年間約129万円に上る。

ファミマにも複数店奨励金の制度はあるが、土地や建物、内装費用のすべてを本部が負担する経営形態では適用されなかった。ここでも、形式上の理由で奨励金を受けることができなくなった元CKSオーナーは少なくなかった。

制度の歪みにより元CKSオーナーの疲弊が顕在化する中、ファミマは冒頭のように新たな加盟店支援制度を打ち出した。

本部が土地や建物、内装費用の全額を負担した場合でも、4月から1店舗当たり月4万円の複数店奨励金が支払われるようになった。ファミマは制度変更について、「多店舗経営を目指す人により多くの店舗を経営してもらうため、奨励金制度の対象を拡張した」(広報担当者)と説明する。

この新施策は、元CKSオーナーにも一定程度受け入れられているようだ。「経営から手を引くことを検討していたが、採算改善が見込めるようになり、続けることにした」(現役ファミマオーナーのBさん)。

だが、複数店奨励金以外の歪み、例えば形式上の加盟年数問題や月次引出金の厳しい運用問題は残ったままだ。多くのオーナーは疲弊し切っている。

CKSからファミマに転換したオーナーは、転換時に5年契約を結んだため、2021年後半から2023年にかけて契約更新時期を迎える。ファミマの経営内容に詳しい業界関係者は、「契約更新までにファミマを脱退するオーナーが続出する」とみる。契約更新を決めたBさんも、「苦境に耐え切れず力尽きたオーナーも多い。そうなる前に何かできなかったのか」と、対応の遅さを悔しがる。

ローソンで店舗数で抜かれる?

ファミマ本体の経営も楽観できる状況ではない。2020年2月期業績は、不採算店縮小などの効果で事業利益645億円(前期比25.2%増)と増益で着地した。2021年2月期については「既存店の強化に軸足を置く。店舗の高品質化を最優先に実行する」(澤田社長)と、既存店の底上げに力を注ぐ。


ファミマは総菜のプライベートブランド「お母さん食堂」に力を入れる。ただ、ブランド力はまだ弱く、売り上げのけん引役には育っていない(記者撮影)

しかし、前出の業界関係者はファミマについて「魅力的な商品がなく、既存店売上高が飛び抜けて落ち込んでいる。オーナーの経営意欲も衰えている」と手厳しい。「今後数年内にローソンに店舗数で抜かれて業界3位に転落するのでは」とみる関係者もいる。

新型コロナ終息後は消費者の購買行動が変わる可能性があり、コンビニ業界もこれまでの規模拡大路線からの転換を迫られるだろう。ファミマはCKSとの大型統合を成し遂げたが、制度の歪みを解消し切れていない状況下で、難しい舵取りを迫られる今後の変革期を乗り越えられるのか。正念場を迎えている。

スペシャルリポート「苦戦するファミリーマート、『ブランド統合』の光と影」は週刊東洋経済5月23日号に掲載