収入を増やすのが難しい中で何とかお金を確保するには?(写真:saki/PIXTA)

緊急事態宣言が解除されましたが、新型コロナウイルスの影響に伴う経済停滞は、むしろ長期化と深刻化が懸念されています。

この先の生活を維持するための措置として、国は企業の休業手当への補助(雇用調整助成金)や休校になった子どもがいる人への「小学校休業等対応支援金」、失業などで家を失う恐れがある人への「住居確保給付金」など、さまざまな支援策を講じています。しかし、勤務先が制度を導入していない、要件に該当しないなどで、こうした公的な支援があてにならないとの嘆きが、筆者の元にも寄せられています。

収入を増やすのが難しい今、なんとかお金を確保したい。そんなとき、家計の中で緊急資金として引き出せるお金として、現金や普通預金、定期預金や財形貯蓄は手をつけやすいところですが、それ以外にはないものでしょうか。主に可能性があるものを考えてみましょう。

使っていない休眠預金は引き出せる

しばらく放置している預金通帳やキャッシュカードがあれば、もしかするとその口座には残高が残っているかもしれません。古くなっているとATMでは残高照会や預金の引き出しができない、インターネットバンキングでの取引ができないことがありますが、窓口に行くと引き出せます。

預金の入出金は、新型コロナウイルス感染症の影響にかかわらず、多くの銀行で通常どおり対応しているようです。通帳、キャッシュカード、届出印と、運転免許証など本人確認ができるものを持って行くと、口座の情報を調べて、残高があれば引き出してもらえます。

何年も使っていない預金口座だと、残高の情報を調べるのに時間がかかることがあります。筆者も、統廃合で銀行名が変わった古い通帳の残高を久しぶりに引き出そうとしたときには、手続きに1時間ほどかかったことがあります。

今は金融機関によっては窓口対応の数を制限しているため、時間がかかる可能性はありそうです。また、感染防止のため窓口に出向くのを控えたいと考えることもあるでしょうから、まずは一度電話などで問い合わせてみるとよいかもしれません。

10年以上使っていないと、預金が「休眠預金」になっていることがあります。休眠預金になるとお金は金融機関から預金保険機構に移管されますが、自分の預金がなくなってしまうわけではありません。もともとの預け先の銀行に行けば引き出せます。

なお「休眠預金等活用法」という法律により、2019年1月以降に休眠預金になった預金は公募で選定されたNPO法人などの公益活動に活用されることになりましたが、それによって休眠状態にある個人の預金残高を引き出せなくなったわけではありません。また、外貨預金や財形貯蓄は長い間放置していても休眠預金にはなりません。

生命保険でお金を引き出せる

生命保険には、お金を貯蓄する機能が含まれているものがあります。その場合、解約することでお金を引き出せることがあります。

該当する可能性があるのは「養老保険」「終身保険」「積立保険」などの名称がついている保険です。「積み立て型」「貯蓄型」と呼ばれることもあり、もしも死亡したときなどに保険金がおりる機能に加えて、満期時や解約時には、払い込んだお金の一部、契約内容や状況によっては全額やそれ以上が戻ってくる仕組みを備えています。

少し仕組みが異なりますが、「個人年金保険」や「学資保険」も積み立て型の1つです。このような生命保険があれば、解約することでまとまったお金を捻出できるかもしれません。

解約して戻ってくるお金を「解約返戻金」「解約払戻金」などと言います。契約してからあまり期間が経っていないと、解約してもほとんど戻ってくるお金は見込めませんが、何年か経っていればいくらか戻ってくる可能性があります。

具体的に解約返戻金がいくらかは、契約するときに保険会社の担当者に作ってもらう保険の設計書や、保険証券などに書かれているのが一般的です。ただ、1年ごと、5年ごとなどおおまかなタイミングでの金額しかわからないこともあります。もし今日、解約したらいくらになるかを知りたいときには保険会社に問い合わせると教えてもらえます。契約者向けのウェブサービスがあれば、そこで確認できることもあります。

ただし注意しなければならないのは、保険を解約すると、当然ながらその後はいざというときの備えはなくなってしまうことです。さまざまな保険に入っていて、これを機に整理するならば解約しても大きな問題にならないケースはありますが、あったほうが安心な保険を解約するのは心許ないかもしれません。

一度解約して、後でまた入り直すことも一案ではありますが、契約時よりも年齢が上がっていれば同じ保険でも月々の保険料は高くなってしまいますし、病気やケガをしたことがあれば告知が必要で、状況によっては保険に入れないことがあります。

そこで、今入っている保険はそのまま確保したうえで、目先のお金を引き出す方法として「契約者貸付制度」があります。

「契約者貸付制度」は、解約返戻金の金額を上限に、保険会社からお金を借りられる制度です。積み立て型の生命保険に契約している場合に使えます。通常は借りたお金には利息がかかりますが、現在は新型コロナウイルス感染症への特別対応として、ほとんどの保険会社で金利を0%にしています。2020年6月末までに受けた貸付について、9月末までは金利ゼロで借りられるところが多いです(2020年5月現在)。

お金を借りるには書類での手続きが必要な保険会社もありますが、保険会社が発行するカードを持っていれば銀行、コンビニ、郵便局などのATMで引き出せるところもあります。また現在は、コールセンターへの電話やインターネットでの手続きだけで銀行振り込みで貸付金を入金してもらえるところもあります。

借りたお金は、指定された期日までに返す必要があります。期日を過ぎると保険が失効してしまいますから、コロナ禍が収まったら返す見通しをもって借りなければなりませんが、当面のお金を確保する手段として活用できそうです。残念ながらいわゆる「掛け捨て型」の保険では解約返戻金がないため使えませんが、自分が入っている保険がどんなものかを改めて確認しつつ、検討するとよいと思います。

確定拠出年金を引き出すのはかなり厳しい

会社の退職金制度の一環として、また自分の老後資金として確定拠出年金を積み立てている人からは、それを引き出せないかと聞かれることがあります。しかし結論からいうと、かなり難しいと思います。

確定拠出年金には、会社員の人が勤務先を通して加入する「企業型」と、20歳から60歳の人なら誰でも加入できる「個人型(iDeCo)」があります。どちらも老後に向けて定期的にお金を積み立てていく制度で、税制面での優遇措置があることから節税にもなると注目されています。

しかし、原則として60歳まで引き出せない仕組みになっています。

「原則として」なので、例外的に引き出すこともできるルールにはなっていますが、現実的には難しいです。

確定拠出年金は老後になってから年金を受給するとき、また現役中に障がい状態になった、死亡した場合にはじめて現金で受け取れるものです。それ以外の理由で引き出すには、制度から脱退して「脱退一時金」を受け取るしかありません。

ところが脱退一時金を受け取るには細かな要件があります。企業型の確定拠出年金の場合、退職して制度の加入者ではなくなった、運用指図もしていない、かつ確定拠出年金の資産額が1万5000円以下であるなど複数の要件をすべて満たしている必要があります。また個人型(iDeCo)でも、国民年金の保険料が免除されている人で、かつ資産額が25万円以下であるなどが問われます。

これらの要件をすべて満たすケースは極めてまれです。引き出そうとしたけれどできなかったという話は聞きますが、引き出せた例はほとんど聞いたことがありません。実際に筆者もかつて、勤めていた会社を退職した後にお金に困って、在職中に積み立てていた確定拠出年金を引き出そうとして失敗に終わった苦い経験があります。

手続き書類が難しく何度も不備で戻り、また加入していた確定拠出年金では手続きのための本人確認書類として印鑑証明書が必要で、当時持っていなかった実印を慌てて作って印鑑登録をするなど、2、3カ月かけて手続きをしました。しかも揚げ句の果てに「要件に該当しない」との理由で脱退一時金を受け取れない旨の通知が送られてきたときには心の底からがっかりしたものです(今思えば勉強不足だったのが原因ではありますが)。

すぐにお金を引き出す手段として、確定拠出年金はあまり現実的ではないと考えておいたほうがよいでしょう。

ただ、この先に出て行くお金を止めることはできる可能性があります。個人型(iDeCo)の場合は掛金を毎月積み立てるのをやめて、それまでに積み立てたお金の運用指図のみすることができます。あるいは年に1回に限り、積み立てる金額を減らすことができます。例えば、それまでは毎月1万円を掛金としていたものを、来月から毎月5000円にするような手続きです。

一方、企業型の確定拠出年金では、勤務先の制度によってしくみが異なり一概にはいえませんが、基本的には積み立てる掛金をゼロにする、ストップすることはできません。企業によって定められた最低金額までなら、掛金を減額することはできます。

何を引き出すにしても焦りは禁物

ほかに、投資をしている人なら株や投資信託を売却する、このタイミングでは株価が下がっていて損失を出したくないなら、証券口座に入っている預り金を出金するなど、持っている資産によってはまだ引き出す余地のあるお金があるかもしれません。


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しかし何を引き出すにしても、焦りは禁物です。

保険にしろ確定拠出年金にしろ、これまで持っていたお金の形は、それぞれに意味や理由をもって自分で契約したものであるはずです。そのときの考えを今一度思い出して、解約して使っても問題ないか、長期的な視点でも見直す必要があります。

コロナ禍で冷静さを失ってすぐに現金化してしまい、長期的にみてもったいないことになるのは避けたいところです。コロナショックから経済が回復する見通しがつきにくいなかではあるものの、この時期だからこそ、先のことも意識しながらお金をやりくりしていきましょう。