「シンジしかいないかな」

 たっぷりと時間をかけて、中村俊輔は言った。

 以前、サッカーダイジェスト本誌で『私的センターハーフ論』という特集を組み、俊輔にインタビューした際、日本人選手で注目している中盤の選手を聞いた。真剣な表情でじっと考えてから、俊輔は小野伸二の名前を挙げた。理由は「意外性や想像力」だった。

 一方、セルジオ越後氏は即答した。編集部との雑談の中で「今まで見てきたなかで最高の日本人選手は?」と問われた日本サッカー界きってのご意見番は、間を置かずに「小野だね」と答えた。

 4月23日発売のサッカーダイジェスト本誌では、『Jリーグ歴代ベストイレブン』と題し、現役選手や元日本代表など総勢50名に“マイベストイレブン”を選んでもらった。選者のひとり、越後氏の言説は変わっていなかった。11人の中のMY BEST PLAYERにも選定した小野について、越後氏は絶賛する。

「彼を超える人はいない。プロ選手として“魅せる”ことが一番の特長で、誰も小野の真似はできない。日本の宝だ。彼のプレーは、味方も敵も見惚れてしまうよね」
 
 同特集で小野を選んだ福西崇史氏も「見ている人だけでなく、味方も楽しませる」と同調すれば、代表やクラブでチームメイトだった坪井慶介氏も「ボールを持つ度にワクワクさせてくれる。大好きなプレーヤーです」とほれ込む。

 とっておきのエピソードを語ってくれたのが、タレントのワッキー氏だ。

「『天才と言えば...』という人。日本サッカーの最高傑作じゃないですかね、小野は。この人のプレーは再現できないんですよ。俊輔と名波のプレーはかろうじて理解できるけど、小野のプレーは常人には理解できない。ステップとか身体の動作の軌道とか『どうなってんの?』って。精鋭揃いの黄金世代がみんな口を揃えて、『小野を初めて見た時は、天狗の鼻が折れた』と言いますもんね。帝京高で不動のトップ下だった中田浩二でさえ、『伸二には敵わないから、僕のポジションはどこでもいいです』って言ったらしいですよ。世代を代表する選手たちにそう思わせるって、どれだけ凄いんだと。人間性も素晴らしい」
 
 過去に川崎や名古屋で指揮を執った風間八宏氏、現在は群馬のGKコーチを務める小島伸幸氏ら指導者たちも、ワッキー氏と同様、“天才”というフレーズで小野を称賛する。

「日本が生んだ天才。高校時代から特別なものを持っていた」(風間氏)

「もう天才。『1番上手い選手は誰?』と訊かれたら、彼と即答します。天才と呼ぶのは、彼のこと以外認めません。どこに目がついていて、いつ見ているんだよっていうプレーの連続でしたからね。それにワールドカップに18歳で初めて出て、最初のプレーで股抜きしちゃうんですからね。ぶったまげて、ベンチでひっくり返っちゃったよ(笑)。その度胸ももちろんだけど、確かな技術に裏付けされた自信を持っていた。天才と言われるのを本人は嫌がるんだけど、彼ほどの才能を見たことがないです」(小島氏)

 同じ静岡県出身の三浦泰年氏は「オランダで日本人選手の評価を高めたあとは、地元清水を盛り上げて、札幌、琉球でもこの国のサッカーの魅力を全国に発信し続けている」と多大な功績について触れれば、Jリーグ名誉マネージャーの佐藤美希氏は「テクニックは圧巻で、プレーがキレイで美しい」と独特の表現で称え、「選手からの人望の厚さも大きな魅力です」と、その人柄にも言及する。

 さらに、元日本代表の岩本輝雄氏はサッカーダイジェストwebでの連載コラムで、小野について「言うなれば、日本のロナウジーニョかな。プロの世界でもサッカーを楽しみながらプレーできる稀有な存在」と褒めちぎり、「彼にしかできないプレーで、再開後のJリーグを盛り上げてほしい」と期待を寄せる。

 なんでもないパス1本、トラップひとつでも魅せられる日本随一の“ボールマジシャン”小野伸二は、ピッチ上のエンターテイナーとして、これからも観る者を魅了し、サッカーの楽しさや面白さを伝えてくれるだろう。

構成●サッカーダイジェスト編集部

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