『さんまのお笑い向上委員会』で、『アメトーーーク』で、それからありとあらゆるバラエティ番組で。いつもとんでもないスピードと鋭いワードでツッコミやガヤを入れ続け、その場を成立させる麒麟の川島明。そんな彼がこのほど、『#麒麟川島のタグ大喜利』(宝島社)を出版した。

もともとは彼がInstagramでやっていた、芸人の顔写真にハッシュタグを大量につけるという遊びからはじまったこの企画。やがて雑誌「smart」の連載にも広がったものが一冊にまとめられている。

「#弁護士の年賀状」な千鳥ノブ


たとえばスーツ姿の千鳥ノブの写真についているハッシュタグはこうだ。

#二世議員のブログのヘッダー画像
#卒業式で初めてその存在を知った先生
#弁護士の年賀状

どれも読んでみると「そうとしか思えない!」という表現ばかり。こんなかたちでこの本には総勢59人の芸人が集合。一人につき川島渾身の大喜利力を発揮した10前後のハッシュタグがついている。


川島といえば、もともと名の知れた大喜利巧者だ。「ダイナマイト関西」をはじめとした大喜利ライブで活躍し、『フットンダ』ではフットンダ王を3度獲得、『IPPONグランプリ』での優勝も経験している。

大喜利は、ワードセンスが必要なのはもちろんのこと、順番もかなり重要だ。一答めでいきなり飛躍した回答を出しても、観客はなかなかついていけない。その点、このタグ喜利はどれも、「うわー、いかにも!」の回答から次第に深みにハマっていく。順を追って読むうち、いつの間にか人ではないものや、果ては概念に対しても「たしかにそうだわ」と納得し、笑わされてしまう。

登場する芸人が好きになる仕掛け


この本を単純なネタ本にしていないポイントがある。まずは、それぞれの芸人に対する川島の想いが見えるところ。各芸人のハッシュタグの一番最後には、川島視点のその芸人の魅力が凝縮されたフレーズが置かれている。

たとえば先ほどの千鳥ノブの写真の最後には「#嘆きの刀で戦う野武士」、ミキ昴生の最後にあるのは「#全てのボケに食らいついていける若武者」。川島が彼らの芸人としての能力をどう見ているのかがわかるこの最後の一文によって、読者はそれまでさんざんおもちゃにされた芸人たちの魅力を改めて思い出す。


もうひとつは、本ならではのおまけとして収録されている、題材となった芸人からの返信。ツッコミを入れる者、無邪気に喜ぶ者、ハッシュタグをお返しする者。これによって彼らのパーソナリティを垣間見ることができ、さらにその芸人を好きになってしまったりもする。

最後にちょっと細かいところだが(そしてこの原稿でさんざん川島さんの名前を呼び捨てにしてきてこんなことを書くのもなんだが)、この本の中で芸人たちを一律に呼び捨てにしていないのも好もしい。「和牛川西くん」「横澤夏子ちゃん」「笑い飯 西田さん」。その呼び方に、お互いの関係性がチラリと見える。

こうやって見てみると、この本は川島だからこそ編むことができた芸人名鑑とも言えるかもしれない。そもそもあまたのハッシュタグを引き出す芸人たちの絶妙な表情の写真も、彼でなければ撮れないものだし。

そして一度この本を読んだら、さまざまな番組で川島が放つフレーズにこれまで以上に耳を傾けたくなるはず。それはテレビをよりいっそう楽しむための近道に違いない。
(釣木文恵)