中国人はお茶だけでなく、何も入っていない単なるお湯である「白湯(さゆ)」を好んで飲む習慣を持っています。白湯を飲むという行為がどのようにして定着して文化となったのか、中国文化に関するYouTubeチャンネルGoldthreadがムービーで解説しています。

Why Do Chinese People Prefer Drinking Hot Water? - Why Chinese (E2) - YouTube

中国のレストランでほぼ必ず見かけるのが、「白湯を飲む」という光景。



中国人は白湯が大好きで、空港には魔法瓶用の給湯器も設置されています。



西洋人は冷たい水を好みますが、中国人は白湯を好みます。「白湯を飲む」というのはもはや中国人のステレオタイプともいえます。



中国文化を専門とするZhang Guowei教授によると、白湯を飲む習慣は、複数の理由から長い年月の中で次第に中国に定着した文化とのこと。



理由の1つは、「寒さ」です。「暖气」と呼ばれるセントラルヒーティング文化と綿衣類が普及する以前、冬の寒さは中国人にとって辛く厳しいものでした。白湯を飲む習慣は、体を暖めるために定着したというわけです。



別の理由は、「殺菌」です。古代の中国人は河川などから水を得ていましたが、そのような水は雑菌の温床で、そのまま飲むと病気になります。中国人にとって最も手軽な殺菌手段が「お湯を沸かす」ことだっため、白湯を飲む習慣が普及していきました。



しかし、白湯を飲む習慣を定着させた最大の理由は、中国に伝わる「伝統医療」です。中国には、「健康は体温に関係している」という根強い信仰があります。



中国人医師のCinci Leung氏によると、中国最古の医学書とされる黄帝内経には、「冷たい水を飲むと、内臓の正常な機能が妨げられる」と記載されているとのこと。



また、中国思想の1つである陰陽では、「お湯を飲むと体内の脾臓や胃などの陽に属する臓器に力が満ち、食べ物の消化・吸収能力が高まる」と解釈されます。



中国人は「内臓が適切に機能していれば、健康面の心配は要らない」と考えるため、内臓を健康にする「白湯を飲む」という習慣が重要視されるようになりました。中国では伝統医療が一般的であるため、白湯を飲む習慣は揺るぎない信仰のようなもので、健康にとって大事なことだと教わります。



しかし、薪(まき)などの燃料が高価だった時代には、白湯は誰もが飲めるものではなく、金銭的な余裕がない場合は、病人や老人、妊婦だけが白湯を飲んでいました。



19世紀になると、白湯専門の喫茶店が登場。ほとんどの人が白湯を飲めるという時代が訪れます。



1930年代には当時の中国政府が「新生活運動」という政策を実施。国民に衛生に注意するよう促し、白湯を飲むことを奨励しました。その結果、白湯文化は中国に完全に定着します。



毛沢東もエナメル製のマグカップで白湯を愛飲していたことが知られています。



1952年には共産党政府が公衆衛生推進運動を実施。白湯を飲むことを奨励しました。



この運動では、白湯を飲むことを奨励するポスターが学校に配布され、視覚的に白湯を飲むことが推奨されたとのこと。



現代の中国では全ての企業にラウンジや休憩室があるわけではありませんが、熱湯を注いでくれるウォーターディスペンサーは至る所に存在します。



そういうわけで、汗ばむような暑さの中でも魔法瓶からお湯を飲んでいる中国人を見かけるというわけです。