日産とホンダは今スポーツモデルに消極的

 トヨタは2019年5月に現行スープラを投入して、2020年4月28日には、一部改良と特別仕様車の追加を発表した。このほかにも86を用意したり、ヤリスに6速MTや高性能なGRを設定するなど、クルマ好きを視野に入れたスポーツモデルの投入が活発だ。

 トヨタに比べると、最近の日産とホンダは元気がない。日産はフェアレディZとGT-Rという2車種のスポーツカーを用意するが、いずれも設計が古い。フェアレディZは発売から12年、GT-Rは13年を経過して、売れ行きも落ち込んだ。

 ホンダはNSX、シビックタイプR、S660を用意する。このうち、シビックタイプRはマイナーチェンジを控え、2020年4月下旬現時点では販売を中断している。NSXは2420万円の高価格車で、北米で生産することもあり、納期が1年から1年半と長い。国内の登録台数は1か月に2台前後で、2019年の年間登録台数は30台を下まわった。価格も高いが、ユーザーは正確な納期が分からないと購入しにくい。ホンダカーズ(ホンダの販売会社)でも、自社のホームページにNSXを掲載しないことが多い。そうなると現時点で普通に買えるホンダのスポーツモデルはS660のみだ。

 トヨタでも現行スープラは、エンジンやプラットフォームをBMW・Z4と共通化して、製造は海外のマグナ・シュタイア社に委託する。セリカ、MR2、カローラレビン&スプリンタートレノなどを自社生産していた時代に比べると、スポーツモデルの扱い方が変わったが、日産とホンダはトヨタ以上に消極的だ。

販売チャネルの統合によりトヨタも決断を迫られる

 このような違いが生じた背景には、複数の理由があり、まずは国内の販売規模だ。メーカーの発表によると、2019年度(2019年4月から2020年3月)の国内販売台数は、トヨタが158万7297台、ホンダは68万8615台、日産は53万4458台であった(いずれも小型/普通車+軽自動車)。トヨタの国内販売台数は、ホンダの2.3倍、日産の3倍弱だから、車種の数も増える。

 また国内市場の重要性も異なる。2019年度の生産と販売状況を見ると、トヨタは世界生産台数の18%を国内で売った。これに比べると、ホンダの国内販売比率は14%、日産は12%で、両社ともトヨタに比べて少ない。

 このようにホンダと日産は、国内販売規模が小さく国内市場に対する依存度も低いため、国内で売られる車種がカテゴリーを問わず減った。そうなると売れ行きが一層下がる悪循環に陥る。

 日産はこの傾向がとくに強く、国内販売順位はトヨタ、ホンダ、スズキ、ダイハツに次ぐ5位だ。そしてデイズ+ルークス+ノート+セレナの販売台数を合計すると、国内で売られる日産車全体の70%近くに達する。

 ホンダの国内販売ランキングは2位だが、N-BOXが国内で売られるホンダ車の30%近くに達して、軽自動車全体なら約50%だ。そこにフィットとフリードを加えると、約80%を占めてしまう。

 つまり日産とホンダにとって、今の国内市場は副次的な存在だから、商品開発の優先順位も下がった。「国内市場は軽自動車とコンパクトカーに任せておけばいい」と判断され、スポーツモデルに対する取り組み方も消極的になっている。

 そこでスポーツモデルはトヨタの弧軍奮闘となったが、今後の行方は分からない。2020年5月からトヨタでは全店が全車を扱う体制に移行するからだ。そうなると以前は東京地区を除くとトヨペット店の専売だったハリアー、ネッツトヨタ店のみが扱ったヤリスを全店が売ることになり、これらの人気車は売れ行きを従来以上に伸ばす。逆に販売が低調な車種は、売れ行きを一層落とす。

 全店が全車を売れば、車種ごとの販売格差が拡大することは、日産とホンダが系列を撤廃した後の動きを見れば明らかだ。両社とも系列を撤廃して全店が全車を売るようになると、不人気車が増えて車種の数を減らした。トヨタもそこを視野に入れ、要はリストラを意識して販売体制の変更に踏み切る。

 スポーツモデルはもともと売りにくい車種だから、全店が全車を扱えば、売れ行きを低迷させる可能性が高い。この流れに任せてクルマ好きの支持を失うのか、それともスポーツモデルの販売に力を入れるのか。トヨタの国内市場に対する思い入れが明らかになるだろう。