19年はそのドウグラスが不整脈の影響で出遅れる誤算。他にも怪我人が相次いで失点が大幅に増え、順位も振るわずに11節終了後にヨンソン監督の退任を発表した。その後、篠田善之コーチが監督に昇格し、なんとか最終節に残留を決めた。
 
 サッカー王国という立場にあぐらをかいても勝てないが、現実路線へ踏み切っても大きな飛躍は図れず。「楽しいサッカーを観たい」というサポーターの願いも叶えられない。J2に降格した15年以降は、そうしたジレンマを突きつけられてきた。

 そんななか敢行したのが、今季の大改革だ。監督、社長、GMの三役が交代し、クラブエンブレムやロゴも変更。なによりサッカースタイルで大胆な方向転換を図った。

 昨季の最大の課題はリーグ最多の失点数(1試合平均2.03失点)だったなかで、守備の整備に定評がある監督ではなく、攻撃的な戦いを志向するピーター・クラモフスキー監督を招聘。リアクション型から脱却し、自分たちが主導権を握るアクション型へ。攻撃し続け、失点を減らすというサッカーに舵を切った。
 
 昨季、横浜のヘッドコーチとしてJ1制覇に大きく貢献したクラモフスキー新監督は、クラブチームの指揮は初めて。大きな賭けだ。ただ、選手たちは成功を信じて前向きに取り組んでいる。立田悠悟が語る「すごくやりがいがあるし、自分の成長にもつながると思います」という感触は、多くの選手に共通しているようだ。

 さらにサッカー王国の復興という意味で明るい兆しがある。

 昨年度の冬の選手権で静岡学園高が静岡県勢として24年ぶりの全国制覇を果たし、女子では藤枝順心高が優勝。昨年の国体でも少年男子が8年ぶりに優勝と、令和元年度で3つの全国制覇を成し遂げた。

 清水の育成組織も安定した好成績を残しており、立田や滝裕太などの有望株をコンスタントにトップチームに送り出している。現在、育成組織でプレーする高校3年生の成岡輝瑠も昨年のU−17ワールドカップに出場するなど将来を嘱望されるひとりだ。
 
 サッカーの定着度では、静岡県はどこにも負けていない。昨季まで清水でプレーしていたGKの六反勇治は「近所の公園に遊びに行った時、子どもとボール遊びするお母さんが本当に上手くてビックリした」と語っていた。
 
 筆者は藤枝市在住で、地元の父親リーグ(草サッカー)に参加した際、やはり「上手いお父さんが多いな」と感じ、中高時代に全国大会に出た猛者もいたりして、なにも出来なかった苦い記憶がある。

 そんな親たちと小さい頃からボールを蹴ってきた子どもたちは、やはりベースが違う。指導者も地道な努力を続けており、その成果が表われつつあると感じている。

 プライドにすがるのではなく、栄光を取り戻すために新たな歩みを始めた静岡のサッカー。今季の清水の大胆な改革は、その流れとシンクロしているようにも見える。“賭け”が当たれば、復興の象徴になれるのではないか。

取材・文●前島芳雄(スポーツライター)

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