パナソニックがタイで実施した展示会では、現地に合わせたシステムキッチンやユニットバスが提案されていた(記者撮影)

パナソニックグループで主に住宅関連事業を展開しているパナソニックライフソリューションズが、アジアを中心に海外事業を強化している。2月上旬、タイ・バンコクで単独の展示会を実施した。

同社にとって東南アジアでの単独展示会は今回が初めて。なぜ今、パナソニックは東南アジアの住宅事業に打って出るのか。

日本のノウハウ生かし東南アジアを攻略

「東南アジアの5カ国(タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナム、マレーシア)は今後も人口増加が続き、住宅の建築ラッシュも続く。その一方で、2020年以降は高齢化が進み、建設従事者が不足するとみられている。その社会的課題に対して、当社は日本で培った技術で貢献できる」とライフソリューションズ社の伊東大三・上席副社長は説明する。

現在でも若い労働力は中国など給料の高い国に出稼ぎに出てしまい、東南アジア各国の労働者不足は深刻化している。東南アジアの住宅建築、特に内装工事はいまだに職人による手作業が中心で、若い労働力が流出したことで後継者が不足するという事態にも陥っている。手作業は工期が長くなり、職人によって技術のバラツキがあることも悩みの種だ。

パナソニックはコンセントや壁スイッチなどの電材事業で早くから東南アジアに進出し、各国で高いシェアを誇っている。しかし近年、東南アジア各国でも労働力不足や高齢化などの課題が深刻になってきたことから、日本で培ってきたノウハウが生かせると判断、本格的に打って出る。

既にヨーロッパや台湾、中国ではショールームを開設し、現地の住宅建築業者や不動産開発事業者などとパートナーシップ契約を結び、マンション内装工事などを手掛けている。また、ヨーロッパでは真空断熱二重ガラスを店舗ショーウインドーや業務用大型冷蔵庫向けに納入、台湾ではシステムキッチンやユニットバスの施工などを手掛けている。

タイでは2020年にシステムキッチンの本格販売を始める。タイは基本的に外食中心で、屋台で食事をとる人が多い。しかし、近年は富裕層を中心に食の安全や肥満を気にする人が増え、家庭での自炊が増えている。

ただ、タイは都市部で地価が高騰し、小さな住宅が増えている。パナソニックは、このようなタイの生活事情に商機を見出し、まだ十分に普及していないシステムキッチンの売り込みを図っている。

日本のように、シンク下などの狭いスペースに食器を効率よく詰め込むことのできるシステムキッチンは、現在のタイの住宅ニーズに合致すると見込む。2019年発表のシステムキッチンは2020年6月に発売される予定だが、「既に現地デベロッパーから引き合いがあり、現時点で受注残が792セットもある」(ハウジングシステム事業部の山田昌司事業部長)。

日本未導入の近未来生活を提案

中国やベトナム、インドでも、システムキッチンやユニットバスの販売・施工を展開していく計画だ。アジア諸国のお風呂事情は、湯船がなく、トイレおよび洗面所と一体となったシャワールームが一般的だ。現地で職人がモルタルを塗り、タイルを貼り付けていく湿式工法がメインだが、工期が14日と長く、職人の腕によって仕上がり品質にバラつきがある。


ダイニングテーブルと一体型のシステムキッチン(記者撮影)

台湾では工場で主要部分を製造して現地で組み立てれば済む「ユニット工法」(乾式工法)を導入し、わずか1日で完成させることができる。この方式を2020年はタイやベトナムなどでも展開していく計画だ。

2月に開催した展示会では、日本でまだ導入されていない近未来生活も提案した。初日だけで約400人が来場した展示会でもっとも目立っていたのが近未来の住宅ゾーンだった。

それは、電動式昇降棚を搭載したカップボードのほか、コンロ台がそのままダイニングテーブルになるシステムキッチンも披露された。対面で4人が座ることができ、調理をしながら食事ができる。

タイでは屋台で購入した食事を温め直して食べる習慣があるが、部屋が狭く、家族全員が座れるダイニングテーブルのスペースがない。「調理台=ダイニングテーブル」という提案はこれまでにないもので、注目を浴びていた。販売時期は未定だが、まずはリゾート地のコンドミニアムなどに提案していく。

ベッドルームも、近未来的な快眠ソリューションの提案があった。天井にセンサーを埋め込み、寝ている人の心拍数と呼吸レベルから睡眠深度を計測。人の睡眠レベルに合わせてエアコンと空気清浄機を制御、温度や湿度、空質をコントロールし、快適な睡眠環境を提供する。


天井に埋め込んだセンサーを使い、「快眠」を提案(記者撮影)

さらに、ベッドルームのセンサーは洗面所やトイレ・シャワー室と連動し、トイレに座ると便座のセンサーを通してストレス度をチェック。ストレス度に合わせて、睡眠・ヨガ・シャワーといったストレス解消方法を勧めている。洗面所の鏡には睡眠データが表示され、ストレス度に合わせて望ましい睡眠時間を提案、入眠時間に合わせてベッドルームの温度・湿度を自動的に整えてくれる。

中国のプレハブ住宅にも注力

この仕組みはまだ1部屋あたり1人分しか計測できないが、2人での利用や睡眠時無呼吸症候群の計測も検討している。

宅配便用の新型スマートボックスも展示されていた。ユニークなのは、宅配荷物の受け取りやコインロッカー、クリーニング受け取りなど4つの機能を融合させた複合型であることだ。タイでは洗濯物をクリーニング業者に出すのが一般的。共働きのためクリーニング店の営業時間内に持ち込みや引き取りができない人も多い。こうした事情に応えるため、2020年1月からバンコク市内30カ所で実証実験中だ。


ライフソリューションズ社の伊東大三上級副社長は、拡大する東南アジアの住宅市場取り込みに意欲を燃やす(記者撮影)

さらに、パナソニックは中国国内で現在、コンテナを利用したプレハブ住宅に力を入れている。中国で建設作業員の人手不足は深刻で、建設現場に作業員の休憩スペースだけでなく、宿泊設備をつくるニーズもある。

パナソニックが提案するのは、1ユニットが幅3m×長さ6mのコンテナで、換気扇や照明、トイレとシャワーがついて最低価格が50万円程度。これを積み重ねれば宿泊施設を簡単に作ることができる。最大6階建てまで建設可能で、2週間ほどで完成が可能。工事が終われば簡単に撤去でき、再利用もできる。

現状、パナソニックのハウジングシステム事業の海外売上高はわずか約50億円。そのうち東南アジアは約2億円しかない。これを、10年後の2030年には売上高1000億円、うち東南アジアだけで約400億円を目指す。

ライフソリューションズの伊東上席副社長は「東南アジア主要国の2021年の住宅着工数は441万戸で、日本の約5倍」と、その市場規模の大きさに期待をよせる。

国内ではビルトイン型食洗機でシェア6割を占めるなど住宅設備メーカー大手でもあるパナソニックだが、国内の存在感がそのまま東南アジアでも通用するかが試されている。