パンデミックは、読書会から仕事終わりの一杯、そして冠婚葬祭に至るまで、私たちが集う機会を奪っている。しかし一方で、集うという行為を見直す機会にもなっている。『最高の集い方』の著者でプロフェショナルファシリテーターのプリヤ・パーカー氏は、外出自粛で社会的孤立が深まる中、「ヴァーチャルに集うことで孤独を食い止めることができる」という--。

※この原稿はThe New York Timesのオピニオン欄に3月17日に掲載された記事の翻訳です。

写真=iStock.com/Tempura
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tempura

■集うことの喜びを通じて救われる命もある

新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、あらゆる「集い」が槍玉に上がっています。

プリヤ・パーカー『最高の集い方 記憶に残る体験をデザインする』(プレジデント社)

トランプ大統領は3月16日に10人以上の集会や外食を自粛するよう要請しました。結婚式や還暦祝いなどの節目の誕生日パーティー、主要なスポーツイベントやコンサートなどはすべて対象になります。

新型コロナウイルスによる人道的および経済的大惨事に加えて、私たちは「集会不況」に突入しています。しかしこれを「孤独ブーム」にしないための方法もあるはずです。

3月15日にはイタリアで1日368人の死亡が報告されましたが、人と集うことの喜びを通じて救われる命もあるでしょう。アメとムチのたとえで言うと、いまの状況においては「集会禁止」というムチが必要な一方で、離れ離れでいても社会的に意味のある集いへの参加できるというアメも必要です。

■そもそも開く意味がなかった?

伝統的なイベントと負けないような体験をリモート集会で生み出すことは可能です。これまでに新型コロナの影響でキャンセルされたすべての集会や会議、パーティーや会議についての「残念な真実」は、それらの多くはそもそも開く意味がなかったということです。

そして、私たちがこの機会に、これまでにないくらい真剣に「集う目的」について考えるならば、この重苦しい時間のなかで、新しい集い方のかたちや、意外な親密さのかたちが育まれることでしょう。そして、人が集まるということは「できて当然」ではない特別な特権であること私たちは心に刻むでしょう。

現在キャンセルされているイベントの多くが実際にどのようなものであったかについて正直に言いましょう。

あなたはこれまでに何度、職場の会議に本気で参加しましたか? これまで会議中に密かにSNSでつぶやいたり、TikTokを見たりしてただ時間が経過するのを待っていたという経験は? 気持ちを揺さぶられるような会合に最後に出席したのはいつでしたか? 新郎新婦の人となりがよくわかる本当に心に残る結婚式に最後に出席したのはいつでしたか?

■「どうでもいいこと」にこだわらなくてよくなった

私は人が集まることについて研究していますが、そのなかでわかったのは、私たちが自分自身や世界を変えようという思いで集まっていながら、実際に集まるときには、往々にしてただ型どおりのことをやっているだけだということです。

いまこそリモートワーク、Zoomミーティング、ライブストリーミングによる読書会、Skypeを使った誕生日パーティーなどを試すときです。

これは、厳しい状況のなかで私たちに与えられた実験の機会なのです。これまで私たちがこだわってきた「どうでもいいこと」にもはやこだわる必要はありません。パーティーで何種類のナイフをそろえたらいいのかなど、心配する必要はないのです。舞台照明やテーマカラーなどももはや気にする必要はありません。

そうではなく、世界保健機関がパンデミックを宣言するずっと前から、私たちが焦点を当てるべきだったことに焦点を当てる必要があります。

イベントの主催者がいま直面している問い「延期するのか? オンラインに移行するのか? 中止するのか?」は、次のようなより本質的な問いに置き換えられます。

「なぜこれを最初に行うのか? 本当に必要なのか? これは誰のためなのか? 誰が決定すべきなのか?」

これは、すべての集まりについて問われるべき問いに私たちを導きます。

「いまこの瞬間、私たちは何を必要としているのか。どうすればそのために集まることができるのか」

これらの問いを手掛かりに、私たちはパンデミックの最中でも、そして恐らくその後でも通用する、新たな集い方を生み出すことができます。

SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト=毎年3月にアメリカ、テキサス州オースティンで行われる、音楽・映画、テクノロジーの大規模フェスティバル)がキャンセルされたとき、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)の芸術編集者であるニーナ・グレゴリーは、こんなツイートをしました。

「アマゾン、ネットフリックス、アップルがSXSWかに出品されたすべての映画を購入し、SXSWのストリーマー(オンラインのライブ配信で稼いでいる人)の映画祭を開いて、その周りにオンラインコミュニティを構築したらどうだろう。映画の買い手も観客もみつかる。インディー映画の作り手とファンにとって、ストリーマーはヒーローなのだ」

■おじいちゃんのお誕生日もお祝いしよう

対面式の集まりがオンラインに移行すると、目的そのものが変わることもありますが、それはむしろいいことです。イベントはより簡素になり、コミュニティの最も深いニーズを反映するようになります。

社会的孤立が高まるなかで、バーチャルな会合の最も重要な役割は、孤独を食い止めることになるでしょう。目的を特定し、それに合った形で行うことで、その集まりを通じて意味とつながりが生まれます。それはバーチャルな環境ではより容易になります。

5歳の娘の誕生日パーティーをキャンセルせざるを得なくなったらどうしますか? 彼女の3人の友達も呼んで、FaceTimeで集まりましょう。同じ型紙を用意して、「パウ・パトロール(少年と子犬たちを主人公にしたアニメ作品。日本含め160カ国以上で放送されている)」の自家製のビークルを組み立ててみてはどうですか。

オンラインで人と会いたいと思う反面、良書を読むいい機会だと思っている人は、友達と集まって(あるいはツイッターやインスタで有志を集めて)一冊の本を一緒に、なんなら一冊丸ごと音読してみてはどうでしょう。これは私がドイツの劇団から学んだやり方です。

友達との交流を深めたいのであれば、オンライン上で「セブン・ソングス」という連続イベントを開催してみたらどうでしょう。参加者が一夜ごとに順番で「私を変えた7曲」を流します。

節目の誕生日もキャンセルしなくても大丈夫です。オンラインで集まって、離れて住んでいるおじいちゃんにお祝いの言葉を送りましょう。そして、おじいちゃんの人生を10年ずつ区切りながら振り返って、それぞれの時代における物語と教訓を語ってもらうのもよいかもしれません。

このような状況においても、気持ちを落ち込ませることなく、自分と自分の周りの人を健康に保つ方法はあるのです。

■家に一緒にいる人たちと何をするか

こうしたことはすでに起こりはじめています。オンライン上で、ハッピーアワー、ダンスパーティ、コーラス、ヨガ、礼拝、持ちよりパーティー、アルコール依存症のリハビリなども行われています。日本ではオンラインで友人たちと飲み会をすることを指す「オン飲み」という新語まで生まれました。

私たちの多くが、ルームメイト、子供、配偶者など、他者とともに自宅待機をしています。その人たちと一緒に家にいるとき、相手の行動をいちいちチェックするより、ともに家にいることに意味をつくりだすことを考えてみてください。

毎晩「どんな人とでも恋に落ちる36の質問(心理学者のアーサー・アーロン氏の論文をもとにした人間関係を深める問い)」に1問ずつ答える、というのもいいかもしれません。

あるいはメトロポリタンオペラが無料で配信している「夜のメトロポリタンオペラストリーム」を一緒に聴いたり、ナショナルギャラリーが毎日やっているオンラインのライブツアーに参加するのもいいかもしれません。家族の読書会や、ポッドキャスト視聴会、ゲーム大会などもできるでしょう。

もちろん、世界中に拠点のあるグローバル企業や、自由に外出できない障害者のコミュニティなど、離れていても意味のあるつながりを実現してきたグループがあります。オートマティック社(ブログサービス、WordPressを手掛けるソフトウエア会社。社員全員がリモートワークをしている)のモー・カーター氏は、オンラインでハッピーアワーや、お別れ朝食会、さらには4時間のあいだ自由におしゃべりしながら働く「ワークアロング」、そして時には24時間のZoomミーティングなどを主宰してきました。

■「離れていても一緒」を意味のある体験に

新型コロナウイルスが私たち個人にも人類全体にとっても大惨事をもたらすなか、キャンセルされた集いの一部は、二度と開催されることはないでしょう。おかしな言い方かもしれませんが、それはそれでよいことだと思います。なくなった集いの一部はまた、別の形で復活するでしょう。

この惨事によって私たちはいやがおうにも「大事なこと」と向き合い、その「大事なこと」とは何かみきわめることを余儀なくされるでしょう。

MITの社会学者で心理学者のシェリー・タークルは、スマホでいつでもどこでも誰とでもつながれる社会で、私たちが逆に「一緒にいても一人(Alone Together)」の状態になっていると指摘しましたが、そうならない選択もできるのです。私たちは一昔前の世代が想像もできなかったようなかたちで、デジタル技術を使って、よりクリエイティブにつながることができるのです。

この予想もつかない、そしてつらいなかでも、創造的で、意味のある「離れていても一緒(Together Apart)」の状態をつくりだしていきましょう

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プリヤ・パーカープロフェッショナルファシリテーター/戦略アドバイザー
MITで組織デザイン、ハーバード大学ケネディスクールで公共政策、バージニア大学で政治・社会思想を学ぶ。15年以上、人種問題や紛争解決など複雑な対話のファシリテーションを行ってきた。著書『最高の集い方(The Art of Gathering)』は、2018年にアマゾン、フィナンシャルタイムズなどでベストビジネスブックオブザイヤーに選ばれた。世界経済フォーラムのグローバルアジェンダ委員会のメンバー。TEDメインステージのスピーカーでもあり、TEDxの動画の再生回数は100万回以上。ニューヨーク在住
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(プロフェッショナルファシリテーター/戦略アドバイザー プリヤ・パーカー ©2020 The New York Times)