「入浴」と「睡眠」は疲労回復のためにとても重要だ。柔道整復師の酒井慎太郎氏は「風呂はぬるめで全身浴、浴槽で脚と上半身のストレッチを。眠るときは体に負荷をかけない『ゼロポジション』の姿勢がいい」とアドバイスする――。

※本稿は酒井慎太郎『絶対に疲れない体をつくる関節ストレッチ』(KADOKAWA)を再編集したものです。

写真=iStock.com/JazzIRT
入浴は関節ストレッチの良きサポート役。ポイントは「少しぬるめ」「首まで浸かる」「1回10分」(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/JazzIRT

■疲労回復には「半身浴」より「全身浴」

慢性疲労を抱えている人にとって、冷えは厳禁です。冷えれば冷えるほど、関節や筋肉が固くなり、血流が停滞し、不調の悪化を招いてしまいます。そのため、冬場に限らず、夏場はエアコン、春秋も空調機などからの風に注意しておくのが賢明です。

冷えを防ぎ、体を温めるための手段として利用したいのは「風呂」です。根本的な問題である関節疲労を治すためには、当然ながら「関節ストレッチ」を実践していただきたいのですが、その“サポート役”としては、かなりお勧めできる手段と言えます。

風呂を最大限に役立てるためのポイントは、39度ほどの少しぬるめのお湯をバスタブに張り、首まで浸かって全身を芯から温めることです。全身浴はのぼせやすいので、1回の入浴でバスタブのお湯に浸かっている時間は、基本的には10分程度にします。

しかし、疲れがひどいときには、長めに20分ほど浸かってもかまいません。それだけで、かなり楽になるはずです。時間に余裕があれば、朝と晩の1日2回入浴してもけっこうです。ただし、その場合はよりいっそう、のぼせに注意してください。

■入浴後の「冷え」に注意

一方で、健康にいいイメージのある半身浴は、あまりお勧めできません。なぜなら、お湯に浸かっていない首が冷えやすいからです。その冷えが背中の筋肉(脊柱起立筋など)や腕の筋肉を伝わって、腰・肩・肘などの関節まで届きやすくなります。これでは、せっかくの温熱効果が半減してしまうので、前述した全身浴をするようにしましょう。

もちろん、入浴後は湯冷めに注意してください。髪の長い人は特に、濡れた髪をドライヤーですぐ乾かすこと。そうしないと、せっかく温まった首がたちまち冷え、その冷えがやはり他の関節まで届く可能性があるからです。

こうした入浴のポイントさえ覚えておけば、バスタイムは疲労対策にとても有効な手段になります。

■入浴中にできる極上ボディメンテナンス

入浴によるメリットを、さらに高める簡単な方法もあります。

1つ目は、バスタブに浸かっているときに、ゆっくりと両脚を伸ばしたり曲げたりする“プチストレッチ”です。両膝を伸ばすときは、両膝の上に両手のひらを乗せ、押し込みながら膝を最大限に伸ばして30秒ほどキープしましょう。一方、曲げるときは、両手を膝下に当て、かかとがお尻につくぐらい最大限に曲げて30秒ほどキープ。そしてもう一度、同じ要領で両膝を伸ばせば終了です。

ポイントは、私たちはいつも膝を曲げていることが多いので、「伸ばす→曲げる→伸ばす」の順で行うことです。固まった関節でも、入浴時には温熱効果で、いつもよりも柔らかくなります。柔軟性を取り戻し、可動域を広げる絶好のチャンスなので、軽い矯正をかけて関節疲労を取り除こうというわけです。非常にシンプルな手法ですが、膝周りだけでなく、脚のだるさ、下半身全体のメンテナンス、疲労回復に有効です。

2つ目は、肩周り〜腕の動きを軽やかにする上半身の“プチストレッチ”です。こちらも非常に簡単で、バスタブの中で腕を下から背中に回し、手の指先をできるだけ上のほうへ持っていくだけ。なるべく巻き肩にならないことだけ気をつければ、やはり肩周りの柔軟性の回復と可動域拡大のメリットが得られます。四十肩・五十肩や肩こりが気になっている人は、ぜひ試してください。

■睡眠中は「ゼロポジション」で関節疲労を癒そう

オフタイムの疲労対策として、風呂とともに重視すべきは「睡眠」です。通常、1日の3分の1程度の時間は眠っているのですから、睡眠の質が体調と関わるのは当然のことです。

写真提供=KADOKAWA

枕を使わず仰向けに寝て、両手のひらを上に向けた状態が、身体に余計な負荷がかからない理想の「ゼロポジション」。 - 写真提供=KADOKAWA

夜眠るときの理想の体勢は、あお向けです。さらに言うと、枕を使わず、両手のひらを上に向けた状態を取れば、「ベストの寝方」になります。この体勢は、「ゼロポジション」というものです。体への余計な負荷がゼロで、骨・関節・全体的な骨格の配列・筋肉・腱など他の組織も含めて「あるべき状態」になっているので、全身のあらゆる健康面で有益なものとされています。体にとって最も無理のない楽な状態なので、関節疲労も自然と癒されていきます。

■少し硬めのマットレスや敷布団で

このゼロポジションの体勢で、少し硬めのマットレス・敷き布団に寝ましょう。少し硬めがいい理由は、柔らかいマットレスでは、ゼロポジションを取ろうとしても、体が沈み丸まってしまうからです。そのため、正確にはゼロポジションを取れないことになります。

もちろん、寝返りなどで体勢が変わりますが、それはいっこうにかまいません。むしろ寝返りは、全身の関節・筋肉を使うという意味で、すばらしい動作で歓迎すべきものです。仮に、眠っている間に寝返りを打たないとすれば、朝起きたときの腰はガチガチに固まっているでしょう。ご家族など周囲のかたは、「寝相が悪い」などと言わず、温かい目で見守ってあげてください。

■高さのある枕はなぜよくないのか

前項でご紹介した「ゼロポジション」のことを講演会などでお話しすると、「枕を使わないで眠れる自信がない」という人がいらっしゃいます。そこで、どのような枕を使っているのかを聞いてみると、かなり高さのある枕を使っているようで驚いたことがありました。

酒井慎太郎『絶対に疲れない体をつくる関節ストレッチ』(KADOKAWA)

背の高い枕を使っていると、頸椎は強制的に前方へ押し出され、首や肩の筋肉が緊張し続けるため、想像以上のダメージを受けます。そのため、枕なしで眠ると、首や肩が驚くほど楽になるケースが多いのです。

ただし、何十年間と枕を使っていた人や、ストレートネックになっている人にとっては、いきなり枕なしでは、寝つけないほどの違和感があるかもしれません。

そうした場合は、枕の高さを少しずつ低くしていきましょう。用意するのは、数枚のタオルだけです。それらのタオルを重ねて、現在使っている枕とほぼ同じ高さに調整し、その「タオル枕」でとりあえず、ひと晩眠ります。高さが同じ枕ですから、これならさほど違和感がないはずです。

翌日からは、1日につき1枚ずつのタオルを抜いていき、タオル枕をほんの少しずつ低くしていきます。こうして、最終的にはタオルが1枚もない状態、つまり枕なしで寝られるようにしていくのです。

■枕は頭の下ではなく顔の両脇に

タオル枕を使わずにいられるようになったら、今度は顔の両脇に、肩幅程度のタオル枕を置くようにしてください。これは、入眠後に左右へ寝返りを打ったときに、枕がないことで肩幅のぶんだけ首が曲がり、頸椎に負荷がかかるリスクを避けるためです。また、肩が巻き肩になるリスクも、かなり防ぐことができます。この方法は、「どうしても横向きでないと眠れない」という人にも有効です。

もし、この方法がうまくできなければ、頭〜両肩〜肩甲骨までを乗せられるぐらい大きく、柔らかい枕を使う手もあります。こうした枕で寝ると、胸椎が若干丸まってしまいますが、高い枕を使うよりはストレートネックや巻き肩の対策になります。ただし、枕なしのほうが断然有効であることは、忘れないでおきましょう。

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酒井 慎太郎(さかい・しんたろう)
さかいクリニックグループ代表
柔道整復師。中央医療学園特別講師。千葉ロッテマリーンズ公式メディカルアドバイザー、中央医療学園特別講師、TBSラジオ『大沢悠里のゆうゆうワイド 土曜日版』レギュラーコメンター。腰痛やスポーツ障害の疾患およびパフォーマンス向上のための施術を得意とする。解剖実習をもとに考案した「関節包内矯正」を中心に、100万人に及ぶ治療実績。著書は100冊以上に及び、「神の手を持つ治療家」として紹介されるなど、マスコミ出演も多数。
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(さかいクリニックグループ代表 酒井 慎太郎)