ひらがなナンバー、全国に4つ 最古は「いわき」

text:Kumiko Kato(加藤久美子)

2020年4月現在、日本に存在するナンバープレートの地名は
北海道:7種類
東北:14種類
関東:35種類
北信越:8種類
中部:18種類
近畿:10種類
中国:8種類
四国:4種類
九州沖縄:13種類

※合計117種類だが、富士山ナンバーが静岡(中部)と山梨(関東)の両方で払い出しされるため、地名の種類としては116種類

ご当地ナンバー制度がスタートして10年以上が経過し、ナンバープレートの地名はひと昔前に比べると格段に増えている。さらに2020年5月11日からは、ご当地ナンバー17種が新たに加わる。

合計123種類の地名がある中で、表記がひらがなであるのは「とちぎ・つくば・なにわ・いわき」の4つのみ。

そもそも、ナンバープレートの地名を決める際の条件に「視認性が十分確保されるよう原則として漢字2文字。やむを得ない理由で例外を認める場合も最大で4文字」という決まりがある。

原則としては漢字2文字なので、ひらがなは少なくなるのも当然。

では、「とちぎ・つくば・なにわ・いわき」はなぜ、ひらがな表記になったのだろうか?

それぞれの事情を調べてみた。

「いわき」と「なにわ」 漢字の表記が複数

「いわき」ナンバー

4つのひらがなナンバーの中で、最も古い歴史をもつのは「いわき」ナンバーである。

1979(昭和54)年4月に福島県陸運事務所いわき支所が開設され、「いわき」ナンバーが登場したのが始まりだ。

4つのひらがなナンバーの中で、最も古い歴史をもつのは「いわき」ナンバー。福島県の自動車のナンバーは、「福島」「いわき」「会津」の3つに分けられている。

いわきの場合は市名や陸運事務所の支所名が「いわき」だったのでそのままナンバーもひらがなとなったが、市名がひらがなの「いわき」に決まるまでは難航を極めた。

「いわき市」は昭和41(1966)年10月1日、平市、磐城市、勿来市、常磐市などの14市町村が大同合併し、当時としては日本一広い面積を持つ市として誕生している。

当時の合併協定書には「常磐地方は古来、石城、岩城、磐城の呼称がつけられており、いずれも文字こそ違えどすべて「いわき」と読み、当地方にとって歴史的にまた住民生活上非常に親しみ深い読み名であり、仮名書は読み方の混乱をさけるため」と記されている。

旧国名としての「磐城」も案としてはあったが、既存の「磐城市」が利することになるため、反対する自治体が多く「いわき市」に落ち着いた。

「なにわ」ナンバー

いわきの次に古い歴史を持つのは「なにわ」ナンバーだ。

1983(昭和58)年11月14日、大阪府大阪市に大阪府陸運事務所なにわ支所が開設されて始まった。

当初は所在地(大阪市住之江区)の「住之江」ナンバーになる予定だったが、事務所の名称が「なにわ支所」であり、市民の強い要望で「なにわ」となった。「なにわ」は管轄区域が大阪市のみ。

なお、「なにわ」がひらがなになったのは、浪速、難波、浪花……と漢字表記が数種類あるため、誰もが読めるひらがなの「なにわ」が採用された経緯がある。

複雑な事情と経緯を持つ「とちぎ」ナンバー

「とちぎ」ナンバーは1999年11月に栃木県佐野自動車検査登録事務所の業務開始と共に登場した。

ナンバーの地名は自動車検査登録事務所の所在地にすることが一般的で(例外あり)、このルールからすれば佐野自動車検査登録事務所管轄のエリアとなる栃木県南部(足利市・栃木市・佐野市・小山市・下都賀郡野木町)は「佐野」ナンバーになるはずだった。

1999年11月に栃木県佐野自動車検査登録事務所の業務開始とともに登場した「とちぎ」ナンバー導入エリア。

しかし、それまで「栃木」ナンバーだったエリアが、「佐野」ナンバーになることには当然ながら(佐野市と周辺の一部地域以外は)大反対。栃木→佐野は格下げのイメージなのかもしれない。

また、栃木市においては「栃木市登録の車両なのに佐野ナンバー」という矛盾(?)にも納得いかなかったに違いない。

これらの状況を勘案して「佐野」ではなく「とちぎ」を採用した経緯がある。

ひらがなの「とちぎ」になったのは、「とちぎ」が登場する前に存在していた「栃木」ナンバーと区別するため。

そして、佐野自動車検査登録事務所管轄以外のエリアは、検査登録事務所が宇都宮にあることから「宇都宮」ナンバーとなった。

実に複雑だが、要するに現在栃木県には以下4種のナンバープレートが存在することになる。

「栃」「栃木」ナンバー

1999年11月12日まで栃木県全域

「とちぎ」ナンバー

1999年11月15日以降 佐野エリア

「宇都宮」ナンバー

1999年11月15日以降 佐野エリア以外の栃木陸運支局直轄区域

「那須」ナンバー

2006年10月10日 宇都宮エリアの一部(大田原市・那須塩原市・那須郡那須町)にご当地ナンバーとして登場

「つくば」 ひらがな、3つの理由

4種のひらがなナンバーのうち、もっとも新しいのが2007年2月13日に交付が開始された「つくば」ナンバーである。

いわゆる「ご当地」ナンバーだ。

2007年2月13日に交付が開始された「つくば」ナンバー導入エリア。 出典:つくば市

「つくば」ナンバーはひらがなナンバーで唯一、地方版図柄入りプレートの設定があり、2018年10月から交付されている。

同時期に交付が始まった図柄ナンバー(関東エリア)の中では断トツの人気だそう。

つくば市は1987年11月30日に大穂町、豊里町、桜村、谷田部町が合併してできた市となるが、市名をひらがなにした理由は、
・「筑波」表記では「筑」を「ちく」と誤読される恐れがある。茨城県筑西市(ちくせいし)、福岡県筑後市(ちくごし)など。
・誕生当時、茨城県筑波郡筑波町が存在しており混同を避ける。(1988年1月31日につくば市に編入)
・新設対等合併の場合、一般的に合併メンバーの一部を指す名称は嫌がられる。「筑波」=筑波郡をイメージさせる。

これらの理由で「つくば市」が誕生し、ご当地ナンバーも「つくば」となった。

ナンバーの地名を決める際の条件の1つに、「既存の地域名と類似せず混同を避ける。」という内容もある。

また、そもそも、「筑波」と「つくば」ではイメージされるエリアも異なるため、市名としても広く親しまれてエリアもより広い「つくば」がナンバー地名として採用されたのである。

4つのひらがなナンバーの由来は、「漢字よりも読みやすいから」などという単純な理由ではなかった。

そこには古くからの歴史的な事情や関連する市町村の利害関係諸々含めた仁義なき戦いがあったというわけだ。