高速バスでは、どう座席が割り振られるのでしょうか。通路を挟んだ隣の席が異性ということもあれば、車両の前方と後方で男女のエリアがきれいに分かれているケースも。対応の違いには、各事業者の座席管理システムが関係しています。

座席割り振り、実は「自動」 事業者で異なる「男女の分け方」

 座席指定制の高速バスでは、バス事業者によって「ウェブ予約の際に座席を指定できる」「予約センターに電話すれば希望を聞いてくれる」といった対応が行われています。それでは、希望を伝えなかった場合や、希望を受け付けてくれない場合、座席はどのように決まるのでしょうか。

 その場合、座席は自動的に割り振られます。ただ、配席の順番は、路線によって異なります。おもに私鉄系などの老舗高速バス事業者が使用する座席管理システム「発車オーライネット」や「SRS(予約サイトとしてのブランド名は『ハイウェイバスドットコム』)」では、おおむね、「前から順に」「窓側から先に」といった配席の仕方を、バス事業者が路線単位で選べるようになっています。


高速バスの座席はどう決まるのか。写真はイメージ(画像:写真AC)。

 また、4列シート車で運行する夜行便の場合は、隣席に異性が座ることを避けるような配席がほとんどです。ただその手法は、老舗の事業者と、ウィラーや平成エンタープライズ(VIPライナー)といった新規参入事業者とで異なります。

 前者では、「あらかじめ女性専用席を設定する」方法か、「女性の隣席には、男性の予約を受け付けない」という方法が取られ、通路を挟んだ席は異性ということもあります。一方で後者においては、乗客の男女比が便によって異なるにも関わらず、車内で女性エリアと男性エリアがきれいに分かれる「女性のみの予約は車両後方、男性のみなら前方」というパターンが中心です。女性が後方なのは、逆だと休憩の際などに女性エリアの通路を男性が通過することになるからです。

対応の違いはシステムの違い 「老舗」と「新規」とで根本から相違

 この差には、座席管理システムの違いが関係しています。鉄道会社をルーツに持つような老舗バス事業者が使うシステムは、鉄道のシステムを参考に作られており、予約成立と同時に座席番号が決まります。運賃が支払われた時点、あるいは乗車券の発券時に初めて号車番号、座席番号を乗客に伝える事業者もありますが、システム上は予約の時点で座席が割り振られています。

 一方、新規参入事業者が使うシステムのほとんどは、旅行会社のシステムがベースです。3列シート車の場合や、座席の希望を聞いた場合を除くと、予約の時点では座席番号を決めず、定員に達するまで予約を受け付けていきます。そして乗車当日、「出発時刻の〇分前」など予約受付終了時刻を過ぎた時点で、座席を割り振ります。男女別配席のほか、続行便(2号車以降)が設定されている場合は、同じ停留所で乗降する人を同じ号車に割り振るなどして、運行を効率化することもできます。


東京駅八重洲口のJR高速バスターミナル。JRバスの乗車券はかつて、鉄道と同じ「マルス」と呼ばれるシステムで発券されていた(2018年6月、中島洋平撮影)。

「予約=座席番号確定」という手法だと、飛び飛びで席が埋まってしまい、あとから複数人で予約をした際に席が離れてしまうこともあります。しかし、座席番号を指定せずに予約を受けておけば、ひとり客の「窓側/通路側」といった席の希望を反映させつつ、複数人予約についてはかためて席を確保することも容易にできます。男性の予約が多くて一般席が満席となっているのに、あらかじめ設定していた女性専用席は空席のまま、という事態も避けることができるのです。

 また、この手法であれば「楽天トラベル」など外部の予約サイトに座席を提供するのも簡単です。実際、こうした予約サイトの活用は、新規参入事業者から始まりました。

 かつては、「公式予約サイトでは満席なのに、外部のサイトでは残席がある(またはその逆)」ということも起こっていましたが、いまや新規参入各社のシステムはもちろん、「発車オーライネット」や「SRS」もこれらの外部サイトとオンラインで接続されており、公式サイトから予約した際と同じように座席が決められます。

 ただし、「公式サイトからは希望の座席を選べるが、外部のサイトからは選べない」というふうに、あえて機能に差をつけている例もあります。

「あとから座席を決めるシステム」大きなデメリットも

 予約時に座席番号を決めないシステムは、便利なことが多い半面、デメリットもあります。乗車前に、号車番号や座席番号を乗客に伝える「乗車受付(チェックイン)」が必要になるのです。

 乗客はそれら情報を知らぬまま乗車地へ集まり、乗車時に自分の名前を伝えて「〇〇さんは……〇号車の〇番の席です」と案内されるのが一般的です。老舗バス事業者のシステムでは、予約確認メールや乗車券に号車番号、座席番号が明記されているので、乗車改札が短い時間で終わるのとは対照的でしょう。


YCAT(横浜シティ・エア・ターミナル)の案内標示。「乗り場」が書かれる便と、「集合場所」が書かれる便とがある(2020年3月、成定竜一撮影)。

 多くの新規参入事業者が、かつて「高速ツアーバス」という形態(募集型企画旅行という形態を採りながら、実質的には都市間移動サービスを提供するもの)で運行していたころは、旅行会社のスタッフが乗車受付を担当し、運行を担当する貸切バス事業者の乗務員は乗車改札などを行っていませんでした。当時、高速ツアーバスの集合場所は新宿や東京駅、梅田といったターミナル駅やテーマパーク周辺が中心で、旅行会社が「センディング・スタッフ」と呼ばれる受付スタッフを配置し、バスが到着する少し前から受付を行っていました。

 しかし、「高速ツアーバス」が制度のうえで乗合バスに一本化された現在では、新規参入事業者でもバス乗務員自身が乗車受付を行うほうが多くなりました。このため、「バスタ新宿」などのバスターミナルで乗車完了まで時間がかかる傾向にあるほか、続行便が設定されている際に、途中停留所からの乗客は自分が何号車かわからなくて不安なまま待つことになるなど、改善が必要な点もあります。

座席管理システムの進化が今後のカギを握る

 余談ですが、半世紀以上の歴史を持つ京王/富士急行の新宿〜富士五湖線は、1994(平成6)年に共同運行化し座席管理システムをSRSに統一する前は、「相互乗り入れ」という形態で、両者が別々に座席を管理していました。

 当時の富士急行のシステムは、一部の大手旅行会社経由の予約については、号車、座席番号が乗車券に明記されていませんでした。京王の新宿高速バスターミナルにも富士急行の職員が常駐しており、こんにちの新規参入事業者と同様の乗車受付を行っていました。旅行会社経由以外の予約については乗車券に座席番号が記載されていたので、折衷型のスタイルだったといえます。

 なお、老舗バス事業者向けのシステムでも、SRSには、ある程度予約が入ったあとであっても複数人の予約をなるべくかたまった席で確保できるような工夫がなされています。また新規参入事業者のシステムのなかには、乗車前にメールやSMS(ショートメール)で座席番号を自動的に配信し、乗車受付を不要としたものもあり、それぞれの弱点を補う工夫が進んでいます。

 高速バス業界では今後、事業者は様々な新しいサービスが求められます。たとえば「ダイナミック・プライシング」と呼ばれる柔軟な運賃変動や、乗客データベースに基づいて「足が不自由なお客様だから前方席へ優先的に配席」といった個別の接遇、さらにはポイントプログラムなどリピーターへの還元策といったものが挙げられるでしょう。各座席管理システムには、単なる座席管理だけではなく、事業者の戦略と現場の運用を上手に結び付け、乗客の満足度を向上させる役割が求められています。