ローソンは意外すぎる「飛び道具」で「アマゾン」へ挑もうとしている(写真:共同通信)

世界を席巻するECサイト「アマゾン」に日本のコンビニ大手はどう対抗しようとしているのか? 流通ジャーナリストの梅澤聡氏の新刊『コンビニチェーン進化史』よりお届けする。

アマゾンをはじめとするEC(電子商取引)市場が急激に拡大する中で、消費者にとって最も身近で便利な商売をするコンビニ業態は、この新たな巨大流通業に、どう対抗すべきなのか。

「消費者と流通業者を結ぶ最後の距離をどう縮めるか?」という「ラストワンマイル問題」は、コンビニ業界の懸案であった。すでにEC事業者による「宅配」が急増し、コンビニも受け取りの拠点として活用されている。クリスマスが近づくと、カウンターの背後に山と積まれたアマゾン絡みの梱包物を、私たちはコンビニで見ることができる。

こうしたEC事業者の単なる受け取り拠点に甘んじることなく、コンビニが自ら顧客のもとに商品を届けられないのか。

「アマゾン対策は何かお考えですか?」

ここ数年、アマゾンが話題になるたびに記者会見でコンビニチェーン・トップは、マスコミから質問を受けてきた。2018年5月、セブン‐イレブンは、札幌・小樽地区で実証実験中の「ネットコンビニ」を全国に展開する意向を示した。実施中の25店舗を2018年7月に札幌市内の100店舗に拡大し、さらに北海道ゾーンから順次全国で展開を図っていくという計画を示した。

セブンの強みは「店舗」と「商品」

これは、利用者がスマートフォンの専用アプリを使って、近隣のセブン‐イレブンに店頭で扱われている商品を注文すると、店舗でピッキングされた商品を最短2時間で受け取ることができるサービスだ。

配達は、大手運輸企業の西濃運輸グループがセブン‐イレブンと業務提携して設立した子会社が担当する。2018年9月6日、北海道を襲った北海道胆振東部地震を契機に一部見直しが入り、当初の計画に遅れは出たものの、現在も継続中である。

このネットコンビニがアマゾンに対して、どのような優位点を持つのであろうか。アマゾンが市場シェアを独占する中、セブン‐イレブンは自らの強みを生かしたECの研究を続けてきた。その結果、2つの強みを軸にしたECに絞り込んだ。簡単に言えば「店舗」と「商品」である。

第1の「店舗」については、店を「在庫拠点」と見ると、全国約2万店にある在庫の総額は1500億円にのぼる。その在庫を有効活用すれば、「お客様に早く、効率的に、お届けすることが実現できる」とセブンの担当者は説明する。

店頭に陳列されている商品は、1日1000人の買物客の目に触れ、購入されていく。その商品を、店の外にいる人たちに情報発信し、スマホアプリ上の陳列在庫と見なしていこうという取り組みだ。

ネットコンビニで利用できる店舗は、自宅の周辺だけではない。職場の近くであっても、旅行に行った先でも、近くに店舗があれば注文が可能である。

第2の強みは「商品」。コンビニ業態は、米飯やパン、総菜といった朝昼晩の食事需要に対して、即食できる商品を多数そろえている。デイリー商品のほか、2リットルの水、米、トイレットペーパーといった、持ち帰るには重くてかさばる最寄品にも需要がある。冷凍食品も、通常の店舗と比較してよく動くという。

コンビニは毎週100アイテム近くの商品が入れ替わる。2800アイテムに固定されず、つねに大量の新商品が提案されることにコンビニの魅力がある。ネットコンビニも新商品を積極的にフィーチャーしていく。

スマホでセブンがもっと便利に

こうしたお届けサービスとして、すでに2000年9月には「セブン・ミールサービス」を立ち上げている。自宅でも店舗でも、弁当や総菜を中心に、一部雑貨も受け取れるサービスだ。店頭では扱っていない、栄養管理士が監修した弁当がスタート時の柱であった。このミールサービスを利用している年齢層は、65歳以上の人たち。一方、宅食サービスのマーケットは、30代、40代の人たちが増えている。

当時セブン‐イレブンの社長であった古屋一樹は、ネットコンビニを次のように説明する。

「ミールサービスだけではなくて、われわれはもっと、お客様に近くて便利なサービスができないのかを考えたときに、いつでも、どこにいても、最寄りのセブン‐イレブンに頼むことができる。ここが原点なのだと認識した。

スマートフォンの保有率が80%になった今、スマホを使って約2800の商品の中から最寄りのセブン‐イレブンに即座に注文ができて、ある程度の時間内に受け取ることができれば、こんな便利なことはない。今回の取り組みスキームは、私はセブン‐イレブンの、今後さらなる成長の大きな柱として期待している」

今後はネットコンビニとミールサービスは、すみ分けをして並走させていくという。

一方で「飛び道具」としてドローンを活用した実験も始まっている。ローソンと楽天は、既存の専用車両による移動販売と、ドローンによる商品配送を連携させた取り組みを、2017年10月31日より「ローソン南相馬小高店」を拠点に試験的に開始した。


店舗が立地する福島県南相馬市小高区は、福島第一原発事故の影響による避難指示区域であったが、2016年7月に指定が解除され住民の帰還が進んでいる。その一方で、食料品や日用品を扱う商店が不足しており、買物環境を向上させる課題が浮上していた。

ローソン南相馬小高店は、避難指示が解除された3カ月後の2016年10月に、新しいオーナーのもとで営業を開始した。小高区に移動販売車による販売を週2回実施し、そのうち週1回で「楽天ドローン」の専用機を伴いサービスを提供する。ローソン社長の竹増貞信は、ラストワンマイル問題への取り組みについて、次のような背景を語っている。

「シニアの方々が核家族化している。その一方で自由自在に動くためのツールが少なくなっている。買物に行くにも、バスが1時間に1本来ればまだいいほう。しかも地方では(スーパーマーケットや商店街などの)買場がなくなっている。そうした核家族化したシニアの方々のニーズをどう取り込んでいくのか、ハードの母店を活用して、そこから移動販売、さらにはドローンにつなげていく。そこに今回の取り組みの意義がある」

「からあげクン」が空を飛ぶ

ドローンを活用した商品の受け渡しと会計業務を簡単に説明すると、次のようになる。ローソン南相馬小高店から商品を積んだ移動販売車が指定の場所に向かう。その間に注文を受けた「からあげクン」のようなファストフードの商品を、ローソンのスタッフが専用ボックスに梱包し、ドローンに搭載する。ドローンの操作は楽天の操縦者が担当するが、タブレットをタッチするだけで、インプットされた目的地に向けて飛行させられる。


ドローンを使って商品を届けるローソンと楽天の実験(写真:共同通信)

ドローンが移動販売車の待つ指定の場所に着陸すると、ローソンのスタッフが商品を取り出し、移動販売車に搭載したレジで会計し、客に手渡すといった手順だ。

ローソンの商品の中で、とくに需要が見込まれるのがカウンターで販売する「からあげクン」などのホットフーズである。移動販売車には手洗い設備がないため、食品衛生法上、本来ならカウンター商材は販売できないが、店舗スタッフが梱包した商品を直接ドローンに積んで送り届ける分には問題はない。もちろん、ホットフーズ以外でも、重量制限以内なら、何でも運ぶことができる。

同じ買物困難者支援というミッションを持つローソンの移動販売車と、楽天のドローン配送がコラボレーションし、今までにない革新的な利便性を提供する機会になると、両社は認識しているようだ。