漫画は「予習」にも「モチベーションアップ」にも「深い理解」にも有効です(撮影:引地 信彦)

「本や教科書を読んでいるのに、なかなか身に付かない」

受験生に限らず、勉強熱心なビジネスパーソンでも、このような悩みを抱えている方は多いのではないでしょうか。

「かつての僕は、まさにそうでした」。2浪、偏差値35という崖っぷちから1年で奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏は、自らの経験を振り返って言います。「でも、ちょっとした工夫で、劇的に改善したんです」。

教科書、参考書だけでなく、あらゆる本の読み方を根本から変えた結果たどり着いた読書法をマンガで解説する『マンガでわかる東大読書』を刊行する西岡氏に、「勉強になるマンガ3選」を紹介してもらいました。

東大生は意外と「漫画」を読んでいる

「東大生は漫画とか読まないんでしょ?」「漫画よりも、難しい本ばっかり読んでそう……」


そんなふうにお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか?

実は、そんなことはまったくありません。東大生にも漫画好きは多いですし、東大生の間で人気の漫画というのも存在します。

東大生の中には、漫画を勉強に生かしている人も多いです。例えば東大生に「小さい頃に読んでいた本」を聞くと、多くは「日本の歴史」の学習マンガを挙げます。

「漫画でざっくりと歴史の流れを知ることができたので、それが勉強に生きた」「漫画という媒体は、絵があってイメージがつきやすいからこそ、勉強にも生かしやすいし勉強の意欲も湧いてくる」と語る学生は多いのです。

今日は、そんな「漫画で勉強した」東大生から聞いた、「大人から子どもまで楽しめる、勉強になるうえに面白い、知的好奇心をくすぐられる漫画」を3つ、紹介させていただこうと思います。春休み中の学生の方から大人の方まで、ぜひ参考にしてみてください。

漫画のいいところは、歴史や理系の勉強など、「身近ではないからとっつきにくい」事柄を、一気に身近に感じられるようになることです。まずはそんな漫画をご紹介しましょう。

漫画なら難しいことが一気に「身近」になる!

1:歴史上の人物を身近に感じる『レキアイ! 歴史と愛』

1つめは『レキアイ! 歴史と愛』(亀、講談社)です。


これは、教科書で学ぶ歴史上の偉人たちがどのように人を愛してきたのかについて描かれた漫画です。4コマ漫画形式で進み、とても手軽にいろいろな偉人のエピソードを知ることができます。

「愛」。

歴史を扱った漫画は数多く存在しますが、「愛」という切り口で偉人たちのことを斬っている作品はなかなか見かけません。そして「愛」で偉人たちのことを見ると、本当にいろんなことが学べるのです。

愛の中には、恋人との恋愛、家族との親子愛・兄弟愛、親愛に友愛など、いろいろな愛があります。どの偉人にも、その生涯のどこかには「愛」が絡んでいて、それを描いたのがこの漫画なのです。

例えば1つのエピソードとして、宗教改革の先導者であるマルティン・ルターという人物の恋愛について描かれています。

僕は歴史の本や教科書を読んでも、彼がどのような人物だったかはわかりませんでした。しかしこの本で描かれるマルティン・ルターの姿は、妻に非常に優しく子煩悩。人権の考え方がまだ確立していない中世の時代に、女性である妻を正しく評価していて、子どもには教育が必要であると捉えている。そんな、人間として尊敬できる姿がありました。

歴史の教科書で読んでしまえば、僕らは偉人たちのことを「自分とはまったく違う、すごい人」としか捉えられません。しかし、この漫画を読むと彼ら彼女らの日常生活・あたりまえの家族との交流や恋愛模様を見ることができ、それによってぐっと心理的な距離が縮まるのです。そして距離が縮まればこそ、歴史上の人物がどうしてあのとき、あのタイミングで、あのような行動を起こしたのかが理解できるのです。

その人の本質的な部分がいちばん色濃く表れているのが、「愛」だと言っても過言ではありません。彼ら彼女らの恋愛や親愛を思えばこそ、無機質な教科書の叙述が、鮮烈なメッセージになってくる。愛というテーマは、歴史上の偉人を深く知るいちばんいいテーマだと言えるのではないかと思います。そんなテーマを学べるという意味で、この漫画はおすすめです。

2:理系の勉強が楽しくなる『薬屋のひとりごと』

2作目は『薬屋のひとりごと』(日向夏 他、スクウェア・エニックス)です。これは中国を思わせる架空の帝国を舞台に発生する事件を、主人公の女の子が「薬屋」としての知識をもとにして解決していくという作品です。


この作品の面白いところは、少し聞いたことがあるような医学・生物学をはじめとする理系の知識が物語の謎を解くキーワードになっていることです。教科書で聞きかじったことがあるテーマが漫画の中で描かれており、知っていれば主人公と一緒に謎を解くことができるのです。

食物アレルギー、海鮮の毒、粉塵爆発など、テーマとしては理系の初歩のものが多く、勉強していれば主人公より早く謎が解けてしまうこともあります。

学校で習う知識は、日常生活ではなかなか使う機会がありません。僕も経験があるのですが、物理をやっても化学をやっても、「これ、将来なんの役に立つんだ?」と思ってしまいます。

しかしこの漫画を読むと、「ああ、あの理系の知識はこういうところに応用できるのか」と考えることができる。そういう点で、この漫画は理系の勉強が楽しくなる1冊だと感じました。

実際、東大の理系の学生にもこの漫画のファンが一定数存在し、この漫画に書かれていることを発展させた内容を今は東大で学んでいる、なんて人もいました。そういった意味で、勉強意欲の湧く漫画だと言えるでしょう。大人から子どもまで楽しめるので、皆さんぜひお買い求めください。

フィクションは現実を「深く考える」きっかけになる

3:戦争をより深く考えるきっかけになる『幼女戦記』

最後は『幼女戦記』(東條チカ 他、KADOKAWA)です。この漫画は、タイトルに似合わずめちゃくちゃ勉強になる本です。僕もライトでポップな内容を期待して読み始めたのですが、いい意味で予想を大きく裏切られました。


この漫画の主人公は『幼女戦記』のタイトルどおり幼女の姿をしています。もともとは会社員をやっていたのですが、電車にひかれる直前に異世界転生をして幼女の姿で魔法の世界に送り込まれ、魔法を使って戦う――今どきのライトノベルでよく聞く、どこにでもありそうな展開でスタートするのですが、話の進め方・設定の作り込み方が異常にガチなのです。

まず主人公はシカゴ学派的な経済学を信奉しているために、合理的な判断を下しまくります。そのうえで私たちの歴史ではドイツと符合する部分の多い国で、世界大戦に巻き込まれながらも賢明に戦っていきます。

この話は架空の世界の話なのですが、現実の戦争について深く考えるきっかけになります。なぜなら、世界大戦になったときに発生する数多くの事例や事件過去のパラダイムの中でしか戦えない国と最新鋭の技術を持つ国の対比戦争と経済・法律との関連性などが深く描かれているからです。

この漫画は、最近のライトノベルで流行のテーマの皮を被ってはいますが、それは本質ではありません。「もしも魔法があったら、そして経済的に合理的な判断を下す人間が世界大戦で戦ったらどうなるか?」という荒唐無稽なテーマを、緻密な設定の中で描き切っている傑作なのです。

そしてそれを知ると、実際の戦争について学ぶときの「見方」が変わります。その結果、現実の戦争について学ぶときの視点がより深くなるというわけです。


著者、西岡壱誠さんの「偏差値35からの奇跡の東大合格」が、NHK「逆転人生」で特集されます。3月30日(月)放送予定。詳しくはこちら

タイトルに合わず終始シリアスで、しかしだからこそ笑えてしまう。歴史が好きな人もそうでない人も楽しめる作品なので、皆さんぜひご覧ください。

ちなみに小説版もありますが、漫画版のクオリティーが非常に高く、専門用語や難しい概念をわかりやすくイラストで説明してくれているので、漫画で読むことをオススメします。

いかがでしょうか? 漫画というとなんとなく「勉強にならない」「読んでも時間の無駄」というイメージがありますが、やはりどんなものにも学ぶべきところは数多くあります

今日ご紹介した3冊は多くの面で学ぶところがあるので、皆さんぜひ、読んでみてはいかがでしょうか?