男性から少女に両腕の移植が行われるという非常にまれな症例で、移植された男性の腕の色が時間の経過とともに変化し、太さも女性のように細く変化していったことが報告されました。医師らも予想だにしていなかった変化とのことで、原因について、いくつかの仮説が立てられています。

Hand Transplant Process at Mayo Clinic - Hand Transplant - Hand Transplant at Mayo Clinic

https://www.mayoclinic.org/departments-centers/transplant-center/hand-transplant/preparing/process

21-year-old student from Pune and the curious case of her changing hands | Cities News,The Indian Express

https://indianexpress.com/article/cities/mumbai/21-yr-old-student-from-pune-and-the-curious-case-of-her-changing-hands-6301734/

2016年、当時18歳だったシュレヤ・シドナゴウダーさんはバスの事故で両手を切断する大ケガを負いました。両手を失ってしまったシドナゴウダーさんでしたが、2017年に20人の外科医と16人の麻酔科医による13時間に及ぶ手術を行い、21歳で亡くなった男性の両手を移植することに成功しました。

手術前のシドナゴウダーさん。



手術後、理学療法士のもとでシドナゴウダーさんはリハビリを続けました。この結果、徐々に腕や手の運動能力を取り戻していったシドナゴウダーさんですが、同時に予想しなかった変化が起こったとのこと。



この変化とは「肌の色が薄くなる」ということ。ドナーとなった青年の肌は暗い褐色だったのですが、時間がたつと共に肌の色が明るくなり、シドナゴウダーさんの肌の色に近づいてきたそうです。



また、移植された両腕は移植当時よりも細くなってきたそうですが、理学療法士のケタキ・ドーク氏はこの理由について、移植された腕の筋肉が「宿主」を受け入れてきたためだと考えています。「神経が信号を送り始める『再神経支配』が起こると、筋肉の機能は体の要求に応じだします。腕の筋肉が女性の体を受け入れ始めたのです」とドーク氏は述べています。

加えて、シドナゴウダーさんの母親はシドナゴウダーさんの指が細く、長くなってきていると述べています。男性から女性への腕の移植は初の試みのため、はっきりとした原因はわかっていませんが、女性ホルモンが変化をもたらした可能性があると考えられています。

21歳になったシドナゴウダーさんはThe Indian Expressの取材に対し「変容がどのように起こったのかはわかりませんが、今はもう自分の手のように感じています。特に気にしたことはなかったのですが、手術後、非常に濃かった腕の色は、今では私の肌の色とマッチしています」と語りました。以下の写真に写っているのが、21歳になったシドナゴウダーさん。顔の色と腕の色はほとんど同じように見えます。



これまでに腕の移植手術が行われた数は世界的にみても200回未満ですが、いずれのケースでも「肌の色が変わる」という変化は起こっていませんでした。一方で、性別が異なるドナーとレシピエントの移植手術は数が限られており、研究や調査自体が少ないという問題もあります。人の肌の色の明暗はメラニンの量に左右されるため、移植された両腕の色が明るくなってきたのは、シドナゴウダーさんの体がドナーよりもメラニンを生成しないからだと医師らは考えています。ただし、はっきりとした答えを出すためにはさらなる調査が必要とのこと。

移植手術のドナーとなったのは南インドのコチという都市の学生・サチンさんで、自転車事故に巻き込まれて脳死を宣告され、家族が腕と他の臓器を寄付することに同意しました。腕を寄付したドナーには義手がつけられることになりますが、多くの家族は体を傷つけられることを嫌がるため、腕の寄付は非常にまれとのこと。

シドナゴウダーさんの神経の一部や指の筋肉はまだ完全に機能していないものの、時間の経過とともによくなっていくものと考えられています。もともとエンジニアリングを専攻していたシドナゴウダーさんですが、記事作成時点では経済学をインドのファーガソン大学で学んでいる最中であり、既に自分の手で試験を受けられるまでに回復しているとのことです。