2019年、大阪府東大阪市のコンビニ加盟店が「深夜時短営業」を表明したことをきっかけに、24時間営業を見直す動きが各地で広がっている。流通ジャーナリストの梅澤聡氏は「当時の経済産業大臣が『意見交換』を求める異例の展開となった。背景には、人件費の高騰と食品廃棄ロスという加盟店の重い負担がある」と指摘する--。

※本稿は、梅澤聡『コンビニチェーン進化史』(イースト新書)の一部を再編集したものです。

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契約継続を訴える大阪府東大阪市のセブン加盟店オーナー、松本実敏氏(左)=2019年12月27日午後、東京都江東区 - 写真=時事通信フォト

■「24時間営業問題」はなぜ起きた?

19年春に24時間営業に関して、東大阪市のセブン-イレブン加盟店が、チェーン本部の許可なく深夜時短営業に踏み切った。この「深夜時短営業」に関する軋轢(あつれき)が、大手メディアで報じられると、ネットやSNSを巻き込んだ騒動に発展した。

発端は深夜帯の人手不足、それを招いた人件費の高騰である。最低賃金は全国加重平均で、08年の703円から18年には874円と、24.3%も上昇している。

一方で、コンビニ店舗の売上総利益は、おおむね伸長しているとはいえ、25%近く高騰した人件費をまかなえるほどは増加していない。多くの加盟店は、店舗運営に投じる総人時数を削減してなんとか乗り切っている。

とはいえ、店舗によっては「アイドルタイム(客が少ない時間帯)」や深夜帯の「ワンオペレーション(従業員が一人で作業すること)」をすでに実施しており、店舗の努力だけでは、今以上の人時削減が厳しいところが多い。AIやITを活用した先端技術によるチェーン本部主導の改革が急務である。

実際に大手チェーンを中心に、1日1人時、2人時と、人時削減に向けた取り組みを推進してはいるが、追い付いていないのが現状であろう。

■加盟店向けアンケートで明らかになった「オーナーの本音」

経済産業省はそのような実態を調査するため、「24時間営業問題」が議論になる直前の18年の暮れから19年にかけて、コンビニ加盟店に向けた大規模なアンケート(意識調査)を実施していた。

騒動を経て、翌4月になると、当時の経済産業省の世耕弘成(せこうひろしげ)大臣が、コンビニチェーン本部トップに「意見交換」を求める異例の展開となった。同月、チェーン本部から一斉に「行動計画」が発表される事態となる。前述した通り、コンビニチェーン大手が出店を抑制して、既存店の活性化に注力すると発表する。コンビニの土台が揺れ動いた。

世耕大臣が最も注視したのが、コンビニの「持続性」である。社会のインフラ、生活のライフラインと呼ばれ、人々の日常生活に密着したコンビニは、単に弁当や飲料、日用雑貨を販売しているだけではなく、宅配の受け取りや、その他サービスの提供、さらには災害時の拠点となるなど、非常に大きな役割を担っている。

ところが、経産省が実施した加盟店オーナーの意識調査を、4年前に実施した同じ調査と比較すると「持続性」の観点から、明らかに赤信号が灯っている。加盟店の環境が厳しくなっているのである。

■深夜帯は「募集しても来てくれない」

調査対象は日本フランチャイズチェーン協会加盟の8社の加盟店オーナー。加盟店オーナーの本心がストレートに聞けるように、回答の回収や送付にチェーン本部が一切関わらないようにした。調査を担当した経済産業省の担当官は次のような問題意識を持って臨んでいる。

「人材不足が大きな社会的な課題となっている。中でも長時間営業をしているコンビニ加盟店は、人手不足と、それに関連した人件費の高騰が、かなり負担になっているのではと考えた。前回の調査から4年を経過する機会に、どのような状況にあるのか、直接オーナーに聞いてみたいと思い実施した」

どのような結果になるのか、ある程度は想定したうえでの調査なのだろう。

人手不足に関して、「従業員が不足している」と回答した割合は、4年前は22%だったのが、61%に上がった。確かに全国の有効求人倍率は、08年のリーマンショック以降は右肩上がりで、14年の1.11から18年は1.61と上がり、日本全体で求人が困難になってはいる。

理由を見ると「募集しても来てくれないから」「必要な一部の時間帯に勤務できる人が少ないから」が上位にある。その集まらない時間帯の多くが深夜帯である。法令で定められた深夜割増を出しても集まらないのだ。

■「経営を続けたい」が20ポイント以上も減っている

チェーン本部との関係についての質問では、「あなたは加盟したことに満足していますか」に対して、不満に思っている加盟店オーナーが5年間で17%から39%へと倍増している。その理由を見ると、一番上位に「想定よりも利益が少ない」とある。この5年間の加盟店の日販を平均すると、維持されているはずだが、最低時給の上昇によって人件費が高騰した影響が大きいのだろう。

今後の展望に関しては、「あなたは次回のフランチャイズ契約更新をどのように考えていますか」に対して、5年前と比較すると、「更新したい(経営を続けたい)」が68%から45%へ、「分からない(無回答、分からない、その他)」が16%から37%へ、「更新したくない(経営を止めたい)」が17%から18%へと変化した。

次回の更新を明確に拒否した割合は、実はさほど変わっていない。しかしながら、積極的に更新を希望する加盟店オーナーが20ポイント以上も減少し、その減少した分が「分からない」と答えている。

社会のインフラ、生活のライフラインとして信頼の置かれた世界に誇れる日本型「コンビニ業態」だが、実は店を経営する加盟店オーナー自身が将来に疑問符を抱いている事実が明るみに出た。

■もう一つのコストは「月額数十万円の食品廃棄ロス」

先の担当官は、「コンビニ第一世代が、そろそろ代替わりとなり、80年代、90年代に加盟したオーナーが後継者を考える時期に来ている。新規オーナーを迎えるにせよ、子どもに継がせるにせよ、夢が持てないと、フランチャイズ・システムは持続しない。その夢を、どこに求めるのか、きちんと考えて、共存共栄を図ってもらいたい」と言った。

「今後の店舗経営を考える際に、不安に感じることは何ですか」の質問に対しては、上位二つは「従業員の費用が上がること」と「従業員を集められないこと」。人件費が毎年上昇する中で、売上や利益の伸長が止まれば、将来的に店舗を維持できない。作業に関わる総人時数の削減を、ぎりぎりの線まで絞っているとすれば、あとはチェーン本部が主導して、店舗の構造改革をスピード感を持って推進していくしかない。

「あなたが経営する店舗において、強化してほしい・新たに実施してほしい取組は何ですか」に関しては、「期限切れ商品のリサイクル」を、実に半分の加盟店オーナーが希望した。食品ロスは、チェーン本部による一部負担もあるが、加盟店にとって非常に重たいコストとなる。米飯のチルド化、惣菜の冷凍食品化により、廃棄コストを徐々に削減している加盟店もあるだろうが、月額数十万円にのぼる食品廃棄ロスは、人件費の次に来る大きなコストであることに変わりはない。

この廃棄金額の削減が、加盟店オーナーの利益に直結するため、店舗の「持続性」の観点からも改善するべき課題になるだろう。各コンビニチェーン・トップは、「意見交換」を経て「行動計画」を発表し、加盟店とチェーン本部とのコミュニケーションを活性化させ、既存店強化の方針を示す格好になった。

■移り変わる「世間の声」は聞き入れるべきか?

前述した東大阪市のセブン-イレブン加盟店が、チェーン本部の同意なく深夜帯を閉店にした件について、現場レベルでは双方に言い分はあるだろう。マスコミでは報じられない細かな話もたくさん聞こえてくる。ただし結果として、深夜休業の是非に関するSNSや匿名のコメントを読む限り、加盟店の主張を世論が支持したことは事実であろう。

その「24時間営業問題」に、セブンが慎重な構えを見せたのに対して、当事者ではないファミリーマートとローソンが、いち早くチェーンの方針を表明している。危機対応のセオリー通り、迅速に「見直し」の検討に入り、具体的な実験にも積極的な姿勢を示したかのように見える。

その後、東大阪市のセブン-イレブン加盟店は、「日曜日休業」をチェーン本部に通告している。本部は休業した時点で契約を解除すると書面で回答し、撤回するように協議を求め、加盟店側も見送る意向といった報道がされた。

この報道に対しては、深夜営業に同情的だった論調が反転して、加盟店オーナーに厳しい言葉も投げかけられている。本部も加盟店も意外だったかもしれないが、世論の移り気を認識するには十分すぎる反応であったかもしれない。

■あの居酒屋チェーンの理念「365日24時間死ぬまで働け」

ただし世論への対応を誤ったために、チェーンの存続が危ぶまれる事態にまで発展した事件を、私たちは「目撃」している。すでに会社側が法的責任を認め、和解が成立しているので、屋号は出さないが、青年実業家として一世を風靡(ふうび)した、カリスマ社長率いる居酒屋チェーンである。

連日の残業により、心身ともに疲れ果てた新入社員の女性が、2008年に過労自殺した事件が起こった。当初、経営者が無理解な姿勢を示したため、世論を敵に回し、店の営業にも大きな打撃を与え、大々的に看板を代える事態にまで発展した。

同チェーンの経営理念集に記されている「365日24時間死ぬまで働け」は、週刊誌などで叩(たた)かれた。今でこそこのフレーズに、一般的な感覚なら拒否感が先に立つであろうが、89年にドリンク剤のCMに使用された「24時間戦えますか」は、その年の流行語に持ち上げられている。もちろん24時間を茶化した側面もあるが、当時は少なくとも拒否反応はなかったはずだ。

■深夜休業には「売上減」以上のマイナス効果が

こうした空気の変遷を、コンビニチェーン本部の経営層は知っているし、居酒屋チェーンの事例から、危機管理の対応を誤れば加盟店の売上に打撃を与える事態にまで発展する可能性を学んでいるはずである。「24時間営業問題」に関して、「スピード感」を持った対応は、そういった背景があるのではないか。

梅澤聡『コンビニチェーン進化史』(イースト新書)

筆者は時短営業を一概に否定する立場にはない。小売業は立地産業である。近年は近隣に複数店を構えるオーナーが増加している。A店は深夜帯に休業するが、近隣のB店は営業すると時間をかけて告知すれば、商圏の顧客は納得するのではないか。あるいは朝昼に客数が集中し、夕方以降は客数が激減する立地などは、見直しの対象にしてもよいかもしれない。

しかしながら、深夜帯の休業は、そろばんを弾いて想定した「売上減」以上のマイナス効果が憂慮されている。深夜帯の休業が昼間の売上減を招くことは、よく知られているが、果たして24時間営業を「当然」としてきた世代にどう影響を及ぼすのか、チェーン全体のイメージをどう変えてしまうのかは、検証するのに時間を要するであろう。

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梅澤 聡(うめざわ・さとし)
流通ジャーナリスト
1961年、札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店に入社し、ロフト業態立ち上げに参画する。1989年、商業界に入社すると、『販売革新』編集部へ。『月刊コンビニ』編集長、『飲食店経営』編集長、編集担当取締役を経てフリーランスに。現在は両誌の編集委員を務める。
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(流通ジャーナリスト 梅澤 聡)