新型肺炎が日系電子部品メーカーにも影響を及ぼす可能性が出てきた。写真は中国・武漢にある自動車向け電子部品の生産ライン(写真:EPA=時事)

「結局、今年度もアップルショックになっちゃいましたね」

京都に拠点がある電子部品メーカーの役員はそう言って苦笑する。

アメリカのアップルは2016年以降、新製品の販売不振や生産調整を行い、それが関連する電子部品業界などに波及する「アップルショック」がたびたび起きていた。

アップルは2月17日、2020年1〜3月期の売り上げ予想630億〜670億ドルが未達になると発表した。新型肺炎の影響で中国にあるiPhone製造工場の稼働率が低下しており、製品の供給不足と中国における需要の落ち込みが直撃するためだ。

当初の想定以上に新型肺炎の影響

1月末に売り上げ予想を公表した時点で、アップルはすでに新型肺炎の影響を織り込んでいたが、当初想定していた以上に新型肺炎の影響が出ていることが明らかになった。

このアップルの業績見通しを受け、アップルの株価は2%程度下落。2月18日の東京株式市場では、iPhoneに使われる主要な電子部品を生産する村田製作所やTDK、アルプスアルパインなど電子部品各社の株価は4〜6%前後値下がりした。


電子部品各社は「今期(2020年3月期)への業績影響については精査中」とコメントするにとどまっており、「顧客(アップルなど)からの発注数量はまだ減っていないようだ」(複数の電子部品メーカー幹部)との声もあがる。

だが、2月20日にはiPhoneを受託製造する台湾の鴻海精密工業が中国の工場の稼働が想定ほど回復しないことから、同社の年間売上高にマイナス影響が出ることを認めた。今後、多くの電子部品各社が業績の下方修正を迫られそうだ。

2019年4〜9月期は自動車市場の低迷で下方修正を迫られる会社もあったが、2019年10〜12月期は5G向けの投資がスタートしたことやiPhoneの販売が順調だったことから、電子部品各社の業績は堅調に推移していた。それだけに、iPhone向け部品の売り上げ比率の高い企業からは「iPhoneの売り上げが改善していただけに、肺炎で影響が出るのは残念だ」(日系コネクターメーカーの幹部)との声もあがる。

中国国内で電子部品や電子機器を製造する工場は、2月上旬まで長引いた春節休暇後も、稼働再開に向けた動きが鈍いままだ。大半の工場は地元政府の許可を受けて稼働を再開しているが、「(稼働率は)平時の3〜5割にとどまる」(複数の日系電子部品メーカー)という。

車載向け電子部品への影響も

深圳市にある台湾系EMS(受託生産)工場のマネージャーは「感染防止のため、地元政府が通常の半分の人員しか現場復帰を認めていない」と明かす。春節休暇で帰省した従業員が交通規制や隔離制限に遭い、職場に復帰できないでいる。必要な部品が1つでも欠ければ、スマホの生産はストップするため、完成品をどこまで供給し続けられるかも今後の焦点となる。

中国における交通規制や税関業務の遅延などのせいで、物流が滞っている地域もある。日本の工場から出荷している最先端部品や現地工場の生産製品が、在庫となって積み上がるケースも一部では出てきた。完成品の生産工場に部品が届いても「稼働率がなかなか高まらず、使用予定の一部部品が積み上がり続けている」(前出の工場マネージャー)。

さらに、一部企業がスマホ以上に懸念しているのは車載向け電子部品だ。村田製作所やTDKの売上高に占める車載向け部品の比率は現在、10%台にのぼる。自動車1台当たりに使われる電子部品点数はスマホの3〜10倍と多く、1個当たりの単価も高いとされる。「スマホ依存」を脱するためにも、電子部品各社はここ数年、車載向け電子部品を新たな成長領域として伸ばしてきた。

ところが、今回の新型肺炎ショックで、中国で生産された車載向け部品の供給が滞り、日本国内の自動車工場が稼働を一時停止するなど生産調整を繰り返している。世界最大の自動車市場である中国の消費が落ち込めば、「成長の牽引役だった車載が実は鬼門」(中堅コンデンサーメーカー幹部)となる危険性もある。

では、こうした状況はいつまで続きそうなのか。工場の稼働率低迷は「少なくとも3月いっぱい影響が続く」(前出の工場マネージャー)とみられている。完成品製造工場の稼働回復がさらに遅れれば、電子部品の在庫が増えてしまい、日系部品メーカーに対する発注抑制につながる恐れもある。

そのため、電子部品各社は「2月末まで様子をみて、影響が一定程度判明するであろう3月半ばごろに、必要なら業績予想を修正する」(電子部品メーカーの役員)と話す。「3月半ば以降に、(業績予想の)下方修正ラッシュが起きるかもしれない」(スマホカメラ部品メーカー幹部)という。

電子部品各社に漂う意外な「楽観論」

ただ、意外なことに、電子部品各社の間には楽観論が漂う。というのも、2020年の半ば以降には5G通信機器関連の需要が一段と拡大すると予想されているからだ。村田製作所は2月上旬に開催された決算説明会で、同社が生産するコンデンサーのうち10%強が5G通信基地局など向けになっていると説明。2019年10〜12月期は前四半期比で数量が1.5倍増となっており、「四半期を追うごとに上がってきている状況」と述べた。


コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

「コロナウイルスによる生産調整の影響が6月まで出たとしても、5G基地局などの通信インフラや2020年秋に投入が見込まれるアップルの5Gスマホなどの需要もあり、通期での売り上げは減少しないだろう」(前出の部品メーカー役員)。新型肺炎の影響で一時的に需要が落ち込んでも、その後のタイミングで落ちた分の需要が「反動増」となって返ってくるとの見立てだ。

2月17日のアップルショック後に値下がりした電子部品各社の株価も、会社によってまちまちだが、買い戻されて、「アップルショック」はなかったことになりつつある。新型肺炎で業績が悪化しても、それが一時的なものであると受け止められれば、電子部品メーカーに対する不安は杞憂(きゆう)に終わるかもしれない。