人気に乗じて買ってしまい後悔するケースも

 このところ、世界的にSUV、クロスオーバーSUVブームが続いている。各自動車メーカーの新型車、それもクラスを問わない多くがSUV、クロスオーバーSUVであることからも、自動車メーカーの儲け頭になっていることは間違いない。

 以前と違い、ライバルだらけのカテゴリーゆえ、各自動車メーカーは最新、最善の技術を詰め込んだ新型SUV、クロスオーバーSUVをリリースしまくっているのが現状だ。

 たしかにSUV、クロスオーバーSUVは視界が高く、悪路や雪道にも強いオールラウンダーな走破性を備え、ラゲッジルームはワゴンのように使えるのだから、オールマイティーのクルマのように思えて当然だ。以前、ミニバンに乗っていて、子離れしたのを機にSUV、クロスオーバーSUVに乗り換えたユーザーも多い。ミニバンの持つ爽快な視界や室内空間のゆとりなどを譲れないのがその理由だろう。

 が、多くのSUV、クロスオーバーSUVは万能ではない。人気に乗じて買ってしまって、後悔することもありうる。

1)シニアな家族がいるケース

 その理由の第一が、フロア、シート位置の高さ。本格SUVはゆとりある最低地上高を確保しているのが普通で、ミニバンなどと違い、フロア、シート位置は高め。家族に足腰が弱ったシニアがいる場合は、こと、乗降性に関してはお薦めしにくい。一例を挙げれば、日産セレナやトヨタ・ヴォクシー&ノア、ホンダ・ステップワゴンのようなMクラスボックス型ミニバンのスライドドアから乗降できる後席のフロア高は、段差のない地上360〜390mmとごく低い。足腰の弱ったシニアでも、Bピラー内側にアシストグリップもあるから、そう無理なく乗降できるはず。

 ところがSUVの後席に乗り込もうとすると、まずはスイング式ドアゆえに、乗降間口がミニバンのスライドドアに対してずっと狭い。乗降時にまたぐサイドシルの高さも、マツダCX-5で490mm、低めの部類の入る超人気のトヨタRAV4で465mmと、多くのミニバンに対して100mmほど高く、しかも多くのミニバンのワンステップフロアではなく、サイドシルとフロアに段差があるため、乗降性は特別にいいとは決して言えないのである。

2)シニアな大型犬と暮らしているケース

 大型犬とSUV、クロスオーバーSUVとの相性は抜群だ。愛犬と思いっきり遊べるような場所は、多くの場合、道なき道の先にある。一歩先まで踏み込めるSUVを相棒にすれば、愛犬との楽しみは格段に広がるに違いなく、また、犬が好きな白銀の世界にドライブしやすいのはもちろんだ。

 ただし、それは愛犬が元気でいるうちだ。わが家のラブラドールレトリーバーは今年15歳になるけれど、若く元気な頃と違い、高い場所には登れない。大型犬は体重もそれなりだから、飼い主が介助して高い場所に乗り込ませるのは大変なのである(ぎっくり腰や筋肉痛の原因に)。

 大型犬をラゲッジスペースに乗せている飼い主はとくに注意が必要だ。世界のステーションワゴンのラゲッジフロア高の平均値は約620mm。これならシニア犬でもなんとか乗り降りできるケースもあるし、介助が必要でもそれほど苦労せずには済む。

 ところがミッドサイズのSUVのラゲッジフロアの高さは、ホンダCR-Vの665mm、ホンダ・ヴェゼルの650mmという例外的に低いクルマを除けば700〜780mmもの高さになる(一見、ラゲッジフロアが低そうに見えるスタイリッシュなボルボXC40でも750mm)。愛犬の乗降どころか、重い荷物の出し入れもやっかいだ。シニアな人ならなおさらだろう。シニアな大型犬と暮らす人(愛犬は今、若くても、あっという間にシニア犬になる)、重い荷物の出し入れの機会が多いシニアな人は、ステーションワゴンにしたほうが使いやすいかもしれない。

3列目を重視する場合はオススメできない!

3)街乗り&近距離乗車専門のユーザー

 SUV、クロスオーバーSUVは遠出、それもアウトドアや悪路を経由したスポットにお出かけするのに向いている、オールラウンド性能が自慢のクルマだ。車重も同クラスのハッチバックやワゴンと比べて重く、当然、燃費性能も劣ることになる。近距離走行ばかりだとなおさら燃費は伸びない。ライフスタイル的に、遠出することも、雪道や悪路を走ることもない。街乗り、近距離走行専門という使い方なら、別の選択肢を考えたほうがいいかもしれない。

 それでも、どうしてもSUV、クロスオーバーSUVのようなクルマに乗りたい……というなら、乗用車ベースで、カッコだけSUV風味のクルマ、たとえば三菱ekクロスのようなクルマだ。いやいや、いつかは雪道や悪路を走るかもしれない……なんていう人は、スズキ・ハスラーのような、本格的な走破性能を持ちつつ、燃費性能にも優れる軽自動車の「遊べる軽」を選ぶのが正解だ。中大型の本格SUV、クロスオーバーSUVではもったいない使い方になる。

4)立体駐車場をよく利用するユーザー

 SUV、クロスオーバーSUVは車高が高いのが普通である。車高は超人気のトヨタRAV4で1685mm、根強い人気のマツダCX-5とトヨタ・ハリアーが1690mm。つまり多くのSUVは、全高1550mm以下でないと入庫できない立体式駐車場には入れない。とくに都心の有料駐車場を利用する機会の多い人は、要注意である。コンパクトなクロスオーバーSUVのダイハツ・ロッキー&トヨタ・ライズにしても、全高は1620mmもあるのだ。ボクがたまに停める都心の駐車場には、パレット式に加え、高全高用の平置きスペースがごく一部あるのだが、ほとんど業者のワンボックスが止まっていて、停められたためしがない……。

 ただし、そんな日本の事情を考慮した国産クロスオーバーSUVもある。本格SUVではないものの、マツダCX-30(全高1540mm)、CX-3(全高1550mm)、トヨタCH-R(全高1550mm)などだ。

5)3列シートを重視する場合

 SUV、クロスオーバーSUVには、三菱アウトランダー、レクサスRX、日産エクストレイルのように2/3列シートの両方を用意しているSUV、クロスオーバーSUVや、マツダCX-8のように3列シートが標準のSUVがある。そこで、ミニバンの多人数乗車性とSUVの走破性を掛け合わせたような上記のクルマに興味を持つ人もいるはずだが、ズバリ、3列目席の実用性、快適性を重視するなら、3列目席がしっかり使えるマツダCX-8は別にして、簡易的な3列目席を備えただけの、基本は2列シートのSUV、クロスオーバーSUVは避けたほうがいい。シートのかけ心地、乗り心地、そして窮屈な居住空間&乗降性は、決して褒められないからである。

 どうしても、本格SUVの走破性と3列シートを両立したクルマが欲しい、というなら、選択肢は、世界でほぼ唯一その要件を満たす、”ミニバンの皮をかぶった本格SUV”と呼べる、三菱デリカD:5(ミニバンですが)、あるいは、国産SUVでは全長4900mm、全幅1840mm、全高1730mmの巨体のマツダCX-8しかない。ミッドサイズのSUVの3列目席は、やはり緊急席、子供席でしかない。