2月22日付のスポーツ新聞各紙は1面トップで中居さんの退所会見を大きく報じました(東洋経済オンライン編集部撮影)

エンターテイナーとしてのスキルで人々を笑顔にさせながら、ビジネスパーソンとしての矜持を見せ、さらに、人間性の豊かさを感じさせる……。

もし番組として放送していたら、どれくらいの視聴率を獲れていたでしょうか。2月21日に行われた中居正広さんの会見は、記者たちが聞きたいことや人々が知りたいことにすべて答える、まさに「100点満点」と言えるものでした。

ここでは中居さんが会見で見せた言動から、ビジネスパーソンの参考になる人間性、スキル、仕事に対する姿勢をひも解いていきます。

会見開始前からなごやかなムード作り

中居さんは会見中、「記者会見とかって、僕は『(登壇者が)先にいたほうがいい』と思っていました。最後に登壇者が出てくるのは暗黙のルールなんですか?」と話していました。実際、中居さんは記者たちよりも早く会見場に入り、談笑したり、カメラテストに協力したりと、スタート前からなごやかなムードを作っていたのです。

中居さんは会見冒頭、「“退所ロングインタビュー”を開催したいと思います。よろしくお願いします」と独特のフレーズを使用。これは“退所会見”というフレーズを避けることで、「堅苦しくない感じでお願いします」という記者たちへの率直なメッセージだったのでしょう。

そんな率直さが最もにじみ出ていたのは、SMAP関連の質問が飛んだとき。再結成について尋ねられた中居さんは、「0ではないですし、『100%ない』とも言えないですね。もちろん1人でできることでもないですし、環境がみんなそれぞれになっていきますから、何かを重ねていかないとできないと思いますけど」とコメントしました。

続いて、たびたび報道された“不仲説”について聞かれると、「『何で知ってるんだろう?』とは思いました。『よくご存知で!』って(笑)。別にいいんですよ。自分たちが分かっていればいいことであって、『あの騒動を経験したことは貴重な経験だな』とか、『報道は常に敏感に目にして』というのはあったけど、それが重なっていくと鈍感になるというか……不仲でいいんじゃないですか? キリがないので、信用する人は信用していいし、そういうところまで来ちゃいましたね」と返しました。

さらに、「5人とマネージャーでジャニーズ事務所を出ることに合意した」という過去の報道には、「何の記事に載ってたかは分からないですけど、そういうのはなかったと思います」。SMAP解散後、ジャニーズ事務所に残ると決めた理由については、「具体的に『これ』という理由はないんだと思います。やっぱり5人だったので。自分のこともそうですけど、『残ることがもしかしたら3人にとっても会社にとっても僕にとっても(いいのではないか)』と思って残ったんじゃないかと思います」と語りました。

このコメントを聞いた人は、「ここまでしゃべってくれるの?」と驚いたのではないでしょうか。中居さんはどこまでも率直であり、同時に「メンバーを代表して僕が話しておこう」という責任感がにじみ出ていたのです。中居さんは解散から3年が過ぎた今もSMAPのリーダーであり続けているのでしょう。

そんな率直さと責任感をにじませつつも、『すべてを話すわけではなく含みを持たせる』のも、中居さんがトーク巧者と言われるゆえん。退所をSMAPのメンバーに報告したときの返事を聞かれても「言えないです。1つ言えるのは(草なぎ)剛くんの返事は1行くらいでした(笑)」、新しい地図の3人と焼肉店に行ったときの話を聞かれても「あなたに絶対言わない(笑)」と笑いを交えながら、含みのある言葉を返していました。

率直さや責任感と、含みある受け答えの使い分け。昨今のエンタメは視覚や聴覚に訴えかける分かりやすいものが主流ですが、中居さんは含みを持たせたトークで見聞きする人に想像して楽しんでもらうプロフェッショナルなのです。

これからも「SMAPの中居くん」で

中居さんのプロフェッショナルぶりは、ファンへの思いにも表れていました。

ファンの「世界に一つだけの花」の購入運動について聞かれた中居さんは、「うれしいですし、もちろん『申し訳ない』という気持ちもありますね。解散のときは会見をしたわけでもコメントを出したわけでもないので迷わせてしまったというか……。(中略)でも知っています。『新聞で何かやってくれた』というのは、当時コメントを出していませんが、耳にも目にも気持ちにもしっかり届いていました」と最大限の謝意を表したのです。

加えて、「それは“みんな”感じていることなんじゃないかなと思います」というひと言を忘れないのも、ファンを思う温かい人柄の表れ。この日、中居さんは「1人では歌えないし、踊れない」などと“1人では”というフレーズを連呼するなど、ファンに5人でいることの素晴らしさを繰り返し伝えていました。

また、新しい地図について聞かれたときも「『頑張っている』と思うし、『好きなことをやっている』と思うので何の心配もしていないですね」、唯一ジャニーズ事務所に残る木村拓哉さんへの思いを聞かれたときも「歌も芝居もやっていますし、『自分の好きなことをできているんじゃないかな』と思います。『思いを伝えること』っていうのは、『直接お話することじゃないかな』と思っています」とファンを喜ばせるコメントを続けました。

極めつけは世間の人々から、“SMAPの中居くん”と呼ばれることについて。「『“SMAPの中居くん”でいいですよ』という感じです、全然!(中略)否定することもないし、『解散したよ』とも言わない」と明るく言い切ったのです。解散後、メディアが「SMAP」というフレーズを避ける風潮があってファンを悲しませていただけに、中居さんの配慮あるコメントで「胸のつかえが取れた」という人は多かったのではないでしょうか。

中居さんの配慮はファンに向けたものだけではありませんでした。

退所のタイミングについて聞かれたとき、「『夏から秋にかけて話そうかな』と思ってたんですけど、ほかにも辞める人がいました。ジャニーズも(自分以外のタレントが)いっぱいいますんでね」とコメントしました。中居さんが恩師・ジャニー喜多川さんの死去や後輩の退所に配慮したことは間違いないでしょう。また、今夏に東京オリンピック・パラリンピックが行われ、年末で嵐が活動休止することを踏まえると、「今春がベスト」だったのです。

次に、「誰かに相談したか」と聞かれた中居さんは、「1人も話してないです。自分1人で決めました。相談するといろんなことを言ってくれますし、それで自分の中で遠回りになることも懸念だったので、自分ですべて決断しました。(中略)マネージャーも社員も1人もいないです。その前からいろいろ動くと迷惑がかかっちゃったりするので、社員さん集めみたいなこともできませんでした」とコメントしました。相談相手への負担や周囲への影響を最優先に考えている様子がうかがえます。

さらに、親交がある松本人志さんへの報告を尋ねられたときは、「『この人には言いました。この人には言っていません』となると、『どうしてこの人に?』……とひずみが生まれますし。(中略)仲のいい友だちにも言っていないから、『何で言ってくれないんだ、おまえ』という感じにならないというか。(中略)『事前に言えば友だち』とか、『言っていないから親しくない』というわけではないです」と語りました。「相手が大物でも地元の友人も、差をつけたくない」「悲しい気持ちにさせたくない」という中居さんの優しさが感じられます。

ファンやSMAPのメンバーから、ジャニーズ事務所の先輩・後輩、業界内外の友人・知人、仕事関係者まで、全方位への配慮が見られたのです。芸能事務所からの独立では異例と言える「すべてのレギュラー番組が継続」できたのは、このように全方位への配慮ができる人柄あってこそのものでしょう。

ビジネスパーソンへ「後悔」のススメ

中居さんは退所の理由を「30年弱やっていましたから燃え尽き(症候群)じゃないですけど、『次のステップに進むためにどういう形がいいのかな』と考えていました。20〜30代のようにギラギラした感じ、ヨダレが出ている感じが、『解散してからいつ自分に湧き出てくるのかな』と思っていたんですけど、『自然に出てくるものじゃないか』と思っていたんですけど(中略)半年から1年経って、2年が過ぎたとき、『そろそろちょっと考えないといけないな』と。たとえば『環境を変えたら、また湧き出てくるのかもしれない』と思いました」と語っていました。

続けて、「1人で老舗の会社を辞めるわけですから、『可能性は狭まってくるんじゃないかな』と思いますし、でも『今までお世話になった会社を辞めてでも、今の環境を変えないといけないな』と思ったんです」とコメント。モチベーションの維持、独立や転職、仁義とリスク……このコメントに考えさせられる30〜40代のビジネスパーソンは少なくないでしょう。

つまり、中居さんはこれほどの人気者でありながら、一般人の感覚にシンクロしたビジネスパーソンでもあるのです。中居さんのMCが評価されているのは、単に「スキルがあるから」ではなく、このように世間の人々に親近感を抱かせる人柄の持ち主だからでしょう。

今回の会見で意外だったのは、中居さんが予想以上に謙虚な人だったこと。今後の活動を聞かれたとき、「僕はずっとアマチュアみたいな感じでやってきたので。『ハッタリでやってきた』という感じですかね。自分のメッキがはがれてきてるのも感じていますしね。そんなに努力を重ねてここまできた感じもないし、(ジャニーズ事務所に)ここまでして(育てて)もらったのは間違いないです」と語りました。

中居さんは自分を卑下したいのではなく、「自分はまだまだ」と感じているのではないでしょうか。ゆえにこの謙虚さは、「独立してもっと力をつけていきたい」という意欲の表れに見えるのです。

もう1つ、ビジネスパーソンに贈るメッセージのような言葉がありました。それは中居さんが“後悔”について語った次のフレーズ。「よく『後悔がなく間違った選択をしないようにしよう』と言われますが、『後悔すると分かっていても飛び込まないといけない瞬間が、人生の中で1度や2度あってもいいんじゃないか』と思えるようになりました。それと、そこに足を踏み入れる勇気や『しっかり後悔を受け入れることも大事なんじゃないか』と思います」。

中居さんは「後悔するかもしれない」と自ら不安を集め、「後悔したくないからやらない」と引いてしまうのではなく、「後悔も人生の一部分」とみなして前へ進む姿勢を示したかったのではないでしょうか。後悔を恐れなくなった中居さんが、今後どんな活躍を見せてくれるのか、大いに期待していいでしょう。

2時間もの長丁場に盛り込んだ笑い

最後に挙げたいのは、人々を引きつけ、笑顔にさせる中居さんのユーモア。約2時間に渡るこの日の会見でも、随所にユーモアを交えることで記者たちを飽きさせませんでした。以下に主なものを挙げていきましょう。

「質問の数は時間もありますので……1媒体5つまで」

東山紀之さんとの電話を誇張したモノマネで再現。

「(確信犯的な顔で)やっちゃいました。オレ、城島くん(TOKIOの城島茂さん)に言ってない。ヤバイ……(カメラ目線で頭を下げながら)城島くん、忘れてました。ごめんなさい!」

「4、5年くらい前はライブをやったら(ファンの人数が)半端じゃないんですよ。ツアーをやるじゃないですか。(会場中に観客が)ウワーッて! あの子たち、どこ行きました?」

「フライデー」の記者に対して、「何だよ、金曜日って(笑)。ウチよく来るよね。本当にしつこいよ、マジで。去年すごくなかった? 一昨年か? まあいいか!」

「(新しい地図が出ていたのは12月)31日でしたよね。大みそかは『紅白(歌合戦)』もありましたし、『(ダウンタウンの)ガキ(の使いやあらへんで!)』もありましたけど、すみません! 僕、“SASUKE派”なんです」

中居さんは「ただ笑わせ続けるだけ」ではありませんでした。突然、思い出したように「あっ! とっておきのエピソードをお話しましょうか? これ、初なんですけど」と切り出したのは、恩師・ジャニー喜多川さんとのエピソード。

「これ持ってきました」と記者たちに見せたのはジャニー喜多川さんの骨でした。その瞬間、会場に「エーッ!?」という驚きの声が飛びましたが、「僕こういう(会見)初めてじゃないですか。会見の成功がどんなことなのか分からないから出たとこ勝負なところがあって」とお守りとして持参したようです。このシーンは多くのメディアで報じられたように、“撮れ高”や“見せ場”を考えた一流のMCらしい演出でした。

脱力感漂う中居にタモリの姿が重なる

中居さんは、「最後の挨拶になりますが、3月を持ちましてジャニーズ事務所を退所し、独立という形になります。今後どういう活動にしていくかは分からないですが、会社名にもあるように今後はのんびりとしていきたいと思いますので、“時には甘く、時には甘く”で見守っていただきたいと思います。本日はわざわざお集まりいただいて、ありがとうございました」と、やはりユーモアを交えた言葉で会見を締めくくりました。

会見の途中、中居さんは「会見って何時まで?」と尋ねたり、その上で「エッ? 嘘でしょ? 18時から収録ですよ」とトボケたり、「マジでそんなにやるつもりなの?」とグチったりなど、時間を気にする素振りをしていました。これは中居さんの飾らない性格を考えると、「本当に早く終わりたい」のではなく、メディアに「時間制限なしの会見」という美談にされることを避けたのではないでしょうか。そんな脱力感を誘う中居さんの立ち居振る舞いは、MCの師匠的な存在であるタモリさんの姿が重なって見えました。

長い文章になりましたが、今回の会見はこれ以外にもピックアップしたいコメントだらけで、これでも減らしたくらいです。それほど中居さんの人間性、スキル、仕事に対する姿勢には突出したものがあり、だからこそ自分だけでなく共演者やスタッフを守り、さらに前へ進める見事なリスタートになるでしょう。