3期連続の赤字で経営再建中の大塚家具が、2019年末、家電量販店最大手のヤマダ電機から43億円の出資を受け、傘下入りした。社長は大塚久美子氏が続投する。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「双方の顧客に家具や家電を売るなどの相乗効果(シナジー)がうまくいかなければ、大塚社長はすぐ交代させられるでしょう」という--。
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記者会見するヤマダ電機の山田昇会長(右)と大塚家具の大塚久美子社長=2019年12月12日、東京都中央区 - 写真=時事通信フォト

■ヤマダ電機の傘下入り大塚家具「まさかの続投」大塚久美子社長の試練

2015年、創業者大塚勝久氏と娘の久美子氏との経営権をめぐる親子対立以来、業績低迷に苦しんできた大塚家具ですが、2019年にヤマダ電機との資本および業務提携。昨年12月には、ヤマダ電機が約43億円を投じ、大塚家具株の51%超を取得。子会社化を発表しました。

これまで貸し会議室大手のTKPや中国企業との提携を模索してきた大塚家具でしたが、それだけでは業績回復のインパクトは小さかったのです。そして今般、ヤマダ電機の子会社となり、ヤマダ電機の力を大きく借りることができるようになったことで、大塚家具は復調のきっかけをつかんだのでしょうか。

ヤマダ電機にとっても大塚家具に期待するところは小さくありません。

今後の業績次第では現経営陣の刷新もありえますが、戦略的なシナジー(相乗効果)とともに、ヤマダ電機の規模や財務力が大きな力となる可能性があります。本稿では2月10日に発表された大塚家具の決算(2019年12月期)をにらみながら、そのあたりのところをこれまでの経緯を踏まえて分析していきます。

■父・勝久氏が去った後、2016年から巨額の赤字を垂れ流し

大塚家具・大塚久美子社長(写真=時事通信フォト)

大塚家具では、2009年に勝久氏の後を継ぎ、久美子氏が社長に就任。その後、2014年に勝久氏が久美子社長を解任し社長を兼務、しかし、2015年に再び久美子氏が社長に復帰というように目まぐるしく経営者が交代しました。この間に親子間の対立は激しさを増していったと考えられます。

2015年初にそれがエスカレートし、株主総会が大荒れになったのをご記憶の方も多いと思います。それを機に、創業者の勝久氏は大塚家具を去り、匠大塚という会社を新たに設立し、再出発。大塚家具は久美子社長のもと、戦略変更を行ってきましたが、ここまではことごとくといっていいほど失敗し、業績は極度に低迷しました。

図表1からも明らかなように、2015年に勝久氏が完全に大塚家具を去って以降、16年からは売上高の大幅減少が続くとともに、営業利益も巨額の赤字を連続で計上するようになりました。残念ながら2月10日に発表された2019年12月期も売上高が前年比で26.8%落ち込み、約57億円もの営業損失を計上するなど、惨憺たる結果となっています。

ここ数年間、大塚家具の財務内容は大きく悪化しました。図表からも明らかなように巨額の損失の連続で、キャッシュフロー(現預金)の流出が続いたからです。

■資金繰りに充てた「投資有価証券」も2019年末にはゼロに

巨額の赤字を出し続けるということは、その分、キャッシュフローが減少します。2015年当時では、それまでの稼ぎがあり、無借金な上に、約73億円の投資有価証券を保有していた大塚家具ですが、図表2を見るとわかるように、その投資有価証券を取り崩して資金繰りに充てました。それも、2019年末にはとうとうゼロとなりました。

さらに会計上の利益の蓄積である利益剰余金も、このままではマイナスとなってしまいかねません。そろそろ反転のきっかけが必要なことは明らかです。

その間、銀行からの借り入れを開始したものの、それまで銀行との借り入れでの関係がなかったことや急激な業績低下で、銀行からの借り入れの依存は小さく、その分、さらに投資有価証券を取り崩して資金繰りを賄っていきます。そして、投資有価証券でこれ以上資金繰りをつけるのが難しくなり、次に、第三者割当増資に頼るということとなりました。

2018年末までは株主からの出資である、資本金、資本剰余金の額には大きな変化はありませんでしたが、2019年9月期には、図表からも分かるように、資本金と資本剰余金の合計額が26億2800万円増加しています。このころは、貸会議室大手のTKPや中国企業との提携をすすめていました。

それが、昨年末の12月期には、さらに約43億7400万円増加しています。これはヤマダ電機が資本を注入した分です(資本金と資本剰余金はいずれも株主から入れたもらったお金で、実質的内容は大きな違いはありません)。

一方、当期純利益も赤字が続いたことで、2014年12月期には74.2%あった自己新比率も低下。2018年12月末で60.8%まで低下しました。それでも、以前が極めて高かったこともあり、十分に高い水準と言えます。

自己資本比率は、一般的には大塚家具のような業態では20%以上あれば問題ないと考えます。短期的な資金繰りの懸念が払拭(ふっしょく)され、現状の赤字から脱却し、今後業績が安定した場合には、中長期的な安定性は確保されると考えていいでしょう。増資を行ったおかげで自己資本比率は、2019年12月期末で68.8%にまで上昇しました。

■大塚家具の売上高300億円弱、ヤマダ電機はその50倍以上

ヤマダ電機の現状も見ておきましょう。大塚家具と比べてヤマダ電機は「巨大」と言っていいほど、規模が大きいことが分かります。

ヤマダ電機の山田昇会長(写真=時事通信フォト)

売上高は、通期の決算が出ている2019年3月期で、1兆6005憶円、営業利益が278憶円です。2020年3月期の予想では、売上高が1兆6740億円、営業利益が426億円を予定しています。

先ほど見た大塚家具の売上高は300億円弱ですから、ヤマダ電機は売上規模では50倍以上あります。ヤマダ電機の短期的な安全性を表す流動比率(=流動資産÷流動負債)も150%程度あり、基準の120%を大きく超えています。

中長期的な安全性を表す自己資本比率も49.7%と問題のない水準です。つまり、ヤマダ電機は、財務的にもとても安定しており、規模的にも大塚家具を十分に救える水準にあるということです。

■ヤマダ電機は大塚家具を子会社化するメリットがあるのか

そして、昨年12月にヤマダ電機は、大塚家具の50%以上の株式を第三者割当増資で取得し、子会社化しました。つまり、経営のコントロールを得たということです。

もちろん、ヤマダ電機は大塚家具を救済する目的だけで子会社化したのではありません。大塚家具の事業とのシナジー(相乗効果)をねらっているのです。

つまり、大塚家具で販売されるような高級感のある家具と家電を顧客に提供することで、総合的に「家電、家具・インテリア、リフォーム、IoT」を含めた住空間の提案を目指しており、そのために家具販売に詳しく、また、良質の家具を提供できる大塚家具を手に入れることは、大きなシナジーがあると考えたのです。

国内での家電販売には、人口減少や高齢化などの限界があり、それを打破するために、総合的な住空間を提供する戦略に大塚家具を組み入れたと言えます。

図表3はヤマダ電機の事業部別の売上高と売上総利益ですが、家電販売事業部がダントツに大きいことが分かります。今後は、家電とともに家具も含めたトータルでの住環境提案を考えていると思われます。

■消費増税、新型コロナ…家電も家具も売れず、再建は困難?

もちろん、リスクもあります。ここまで見たように、大塚家具の経営はここ数年間でかなり弱体化しており、業績も低迷、ブランドイメージも低下しました。ここまでは、売上高、利益ともに非常に厳しい状況です。

それをヤマダ電機の傘下に入ったことで、早急に立て直せるかどうかが焦点です。同社の山田昇会長は、住宅事業と家具販売の親和性が高く「シナジーを最大化できる」「家具は粗利が高い」と発言しています。ヤマダ電機の会員名簿の経営資源を利用して家具を売ったり、逆に大塚家具の顧客である富裕層などにヤマダの家電を売ったりするシナジー効果には双方の経営トップも期待しています。

写真=時事通信フォト
2019年12月12日、記者会見するヤマダ電機の山田会長と大塚家具の大塚社長 - 写真=時事通信フォト

ただ、消費増税の影響で個人消費が落ち込んでいるのに加え、新型コロナウイルスの影響で中国人の訪日客によるインバウンドがさらに冷え込むなど、家電業界には逆風が吹いています。それは、より単価の高い家具業界にも打撃であるに違いありません。

そう考えると、大塚家具の再建はなかなか難しいと言えます。ヤマダは大塚家具を子会社とした以上、業績が振るわない場合には、経営陣の刷新も含めた大きなテコ入れを行うのではないかと考えられます。大塚家具の今後の展開に注目です。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。
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(小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO 小宮 一慶)