■増えるネット上の「顔出し」投稿

昨今のインターネットでは個人が自分の顔を出した写真や動画が日々投稿(アップ)されている。ネット上に自分の顔を公開することは、一昔前のネットユーザーには抵抗のあることだったように思う。だが現在はInstagram(インスタ)やYouTubeでは顔出しの写真や動画があふれ、もはや特別なことではなくなっている。

写真=iStock.com/FilippoBacci
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FilippoBacci

個人が自分の情報をネットにアップすることが一般的に行われるようになったのは、2004年ごろのSNS流行が契機だと思われる。当時隆盛を誇ったmixiは、招待制のクローズドなSNSであり、現実の友人との交流がベースであることや、会員以外には閲覧できないという安心感があってか、個人的な日記や写真が多くアップされており、このころからネットで顔出しすることへの抵抗は薄れていったのではないだろうか。

その後、インスタグラマー、ユーチューバーという言葉も生まれ、芸能人やモデルなどではない、個人の発信がフォロワーを集め、それが職業として成り立つ時代となり、それを目指すユーザーもそれに倣って顔出しで投稿を行っている現状がある。

しかし自分でアップした写真や情報が残ったままになっていることで、問題が起きるケースもある。

アカウントや投稿を削除しないままパスワードなどを忘れ、自分が若いころの恥ずかしい記録(ネット上では「黒歴史」と呼ばれる)が残ったまま消せない、という状況のユーザーがいたり、有名人の過去が暴かれてしまったりしたケースも過去にはみられた。

単に「青臭い」だけの投稿が残っているのであればまだいいが、若いころの犯罪行為や、モラルに反する内容の投稿が残っていることで、信用を失ってしまうケースもある。

こういったトラブルが起こらないうちに、利用しなくなったサービスのデータは消しておくのが将来の自分にとっては最善だといえる。だが、私は自らの個人情報やプライベートな状況を預けるSNSなどの各サービスが「どのように個人情報を扱っているか」にも留意する必要があると考えている。

大手SNSであるツイッター、インスタでアカウントを削除した際、それまで投稿したコンテンツがどう扱われるのか、検証を行った。

まずツイッターだが、アカウントを削除した時点で、該当アカウントでアップした画像はネット上で閲覧できなくなった。

■退会してもURL直打ちで……

しかし、インスタではアカウントを削除すると該当のアカウントや投稿のURLは閲覧できなくなったものの、画像ファイルのURLを直接打ち込むと、画像データを表示することができてしまった。

多くの利用者は「アカウントを削除すれば、投稿した画像も即座に消える」と考えていることだろう。しかし、インスタでは前述の仕様により、見た目上は消えているものの、実際には画像がネット上に残っており、公開時の画像のURLを控えていればしばらくの期間は閲覧できてしまう。検証したところ、退会後2週間ほどは画像を閲覧することができた。

インスタの画像はCDNと呼ばれる、表示速度向上のために閲覧者に近い場所から画像を取得する仕組みを使用している。CDNでは投稿した際に世界中の複数の場所に画像のコピーが置かれることになるため、すべてのデータが消えるまでにはタイムラグが発生する。そのため、このような事態が起こっている可能性が考えられる。

インスタの規約では「利用者がアカウントを削除した場合、弊社はその利用者が投稿したコンテンツ(写真や近況アップデートなど)を削除します」と記述があるが、削除時期に関する言及はなく、退会から削除までの期間が空いても規約上問題はないだろう。

■出会いアプリで残り続ける顔写真

また、アプリを通じて見知らぬ異性と出会うサービス、いわゆるマッチングアプリも注意が必要である。

現状、マッチングアプリでは顔写真を登録せずに活動した場合、出会いのチャンスが極端に減る。そのため顔写真を掲載しないユーザーは少数となっており、事実上は顔写真の登録が必須となっている。

スマホの普及により、現代のインターネットにおける男女の出会いは一般的なものとなった。各社は安全と安心を謳っており、以前の出会い系に持たれていたアンダーグラウンドな印象は薄れている。

12年にリリースされたOmiai、Pairsといったマッチングアプリは、男女が相手に興味を持った際に「いいね!」ボタンを双方が押すことでマッチングが成立し、お互いにメッセージを送れるようになるシステムを採用しているほか、登録には実在する人物が実名で利用することがベースであるFacebookのアカウントが必要なことで、ユーザーの安心感につながっている。

また、従来の出会い系サイトでベースとなっていたポイント制の課金方式ではなく、定額制を採用することで、サクラの存在する意味を薄れさせ、安心感をもたらしたことも成功の一因だったと考えられる。

出会いのチャンスを増やすため、とっておきの写真を投稿するユーザーも少なくないが、画像データの取り扱いには注意が求められる。

調査を行ったところ、退会が完了した場合でも、プロフィールのページは閲覧不能になるが、インスタと同様に画像URLに直接アクセスすることで画像が表示されてしまうアプリが複数確認された。

日本のマッチングアプリの草分けであるOmiaiでは退会と同時に画像データが表示できなくなったが、マッチングアプリ最大手といえるPairsと有名メンタリスト監修のwithでは、インスタと同様に画像URLに直接アクセスすることで、写真を表示することができた。

両アプリとも退会後、1カ月以上が経った今でも画像を閲覧することができているが、規約上では両サイトともに「自己が投稿等をしたコンテンツは運営会社に対して利用する権利を期限の定めなく許諾するものとする」旨が記載されており、運営側が退会後も無期限に保有することに問題はないように思える。

このインスタとマッチングアプリにおける「退会後も画像が保有されている」仕様について、個人情報保護法に詳しいひかり総合法律事務所の板倉陽一郎弁護士にコメントを求めた。

■保有しているだけでは違法とは言い切れない

「個人情報保護法の観点からは、退会後に削除する義務があるわけではなく、削除を強要することは難しい。著作権・肖像権の観点から見ても、保有しているだけでは違法とは言い切れない」

残念ながら「退会後も運営会社がコンテンツを保有している」だけでは、法的な問題はなく、削除を要求することも難しいようだ。

確かに、退会後は画像URLが非公開の情報となるため、通常は画像を表示できない。しかし、逆に言えば「URLさえわかれば、消された写真でも見ることができる」ということだ。

退会前に第三者に画像URLを控えられてしまった場合、インスタでは2週間、マッチングアプリではほぼ無期限に写真が閲覧されてしまう可能性があるうえに、URLの解析、データ流出、ハッキング等によって画像URLが判明する危険性も孕んでいる。

このような懸念を払拭するためには、退会やアカウント削除を行う前に、ネット上に残したくない画像は一つ一つ削除してからアカウント削除や退会を行う必要があるが、そもそも現在はスマホの普及により、スクリーンショットを簡単に撮ることができるため、特別なことをしなくても保存ができてしまうともいえる。

そのため「一瞬でもアップしたものは、誰かに保存されている」という前提でインターネットを利用する、つまり「誰に見られても恥ずかしくない、現実と同じ振る舞いがネット上でも求められる」といえるだろう。

(ITコンサルタント 野渕 恵介 撮影=野渕恵介)