退職届を出したあと、いつやめるかは悩ましい問題です。会社に嫌気がさしたのでなければ、なるべく波風を立てたくないと考えてしまうのが人情。その結果、こんなことになった人もーー。

地元企業をやめて、転職で上京した会社員Aさん(30代)。人手不足を間近で見ていたことから、退職届を出してからも2カ月ほど働き、年度末まで在籍していました。すると、会社から「(退職の)辞令交付式に出てくれ」とのお達しが…。

Aさんは元々、残っていた有給休暇を使って引っ越し、そのまま新生活スタートの予定でいました。しかし、「けじめだから」という会社の押しに負けて、辞令交付式に出ることに。

定年退職する元上司たちに続き、退職辞令を受けとったAさん。社長のあいさつを聞きながら、「自分めっちゃ浮いてるなぁ」とバカバカしく感じたそうです。

せめてもの救いは、会社が「餞別」として封筒に入った2万円をくれたこと。ですが、往復の航空券代にはとても足りませんでした。

●「退職辞令」は面と向かって受け取らなくても良い

「辞令交付式に出る義務はありません」と語るのは労働問題にくわしい江夏大樹弁護士です。

民間企業なら、退職届を出せば、民法上は2週間でやめられます(会社の就業規則とどちらが優先するかは複数の見解あり)。そもそも辞令なんてもらう必要がないのです。

一方、公務員だと少し事情が変わってきます。公務員は法律上、退職届を出せばやめられるという風にはなっていないからです。こちらは任命権者の承認が必要になってきます。

人事院によると、退職のときも「人事異動通知書」が交付されます(「人事院規則8-12」53条)。ただし、免職などでない限り、手渡しである必要はなく、発令をもって効果が発生するとのこと。

なので、公務員も辞令交付式に出なかったからといって、辞められないわけではありません。郵送などで受け取れないか、相談してみると良いかもしれません。

官民問わず、手渡しの根拠がないわけですから、退職辞令を出したいのであれば、原則郵送にしてくれると負担が少なくてありがたいと言えそうです。

【取材協力弁護士】
江夏 大樹(えなつ・たいき)弁護士
東京法律事務所に所属。これまで労働事件を多く扱う。
事務所名:東京法律事務所
事務所URL:https://www.tokyolaw.gr.jp/