前代未聞のニュースが世界を駆け巡った。

 現地時間2月16日に行なわれたポルトガル1部リーグ第21節、ギマラエス対FCポルト戦だ。ポルトの2−1リードで迎えた69分、マリ代表FWムサ・マレガの怒りが爆発した。試合前のウォームアップ時から人種差別的なチャントを浴びせられ、ついに堪忍袋の緒が切れたのだ。

 この日勝ち越しゴールを決めていたマレガは憤慨し、みずから“退場”することを決断。チームメイトらの制止を振り払ってピッチサイドに歩を進めると、ブーイングが渦巻く観客席に向けて中指を立てるなどのジェスチャーで抗議の意を示した。無断でピッチ外に出たため、主審はイエローカードを提示し、ポルトのセルジオ・コンセイソン監督は慌てて交代選手をピッチに投じている。試合はそのまま2−1でポルトが勝利した。

 試合後、マレガは自身のインスタグラムを更新。「人種差別チャントをするためにスタジアムに来ている愚か者にこれだけは言いたい。ふざけんな! それから、僕を守ろうともしなかった審判団にも“感謝”するよ。僕の肌の色を守るためにイエローカードを出してくれた。もうピッチで二度と会わないことを願う。恥を知れ!」とぶちまけた。

 S・コンセイソン監督は「この件に関して我々は完全に憤慨している。国籍、肌の色、髪の色にかかわらず、我々はファミリーだ。我々は人間であり、敬意を払われるに値する」とマレガを擁護。一夜明け、そのムードはさらにポルトガル国内で高まった。

 全国紙『Bola』はギマラエス戦の選手採点で、マレガにフルスコアの「10点満点」を付けた。通常のプレーのみでは滅多にお目にかかれない点数で、「素晴らしいパフォーマンスと、人種差別に対する確固たる態度を示した。我々の想いは彼ととともにある」と称えている。さらに『Record』紙は「マレガ 5−0 レイシズム(人種差別)」と銘打ち、「マレガの圧勝だ。スタジアムから人種差別的な言動を撲滅するために、彼の行動が大きなキッカケとなるかもしれない」と綴った。同じく『O Jogo』紙は「卑劣な罪」と見出しを掲げ、ギマラエス・サポーターの愚行を糾弾している。

 
 ポルトガル・リーグの選手協会もすぐさま動いた。月曜日の午前に声明を発表し、ギマラエスで起きた出来事に遺憾の意を示すとともに、マレガへの支援を呼びかけた。元スペイン代表GKで現在もポルトに籍を置くイケル・カシージャス氏は、ツイッターで「マレガに敬意を、フットボールに敬意を、すべてのものに敬意を」と記している(氏はこののち、スペイン・サッカー連盟の会長選への出馬を表明し、今シーズン限りでの現役引退の可能性を示唆した)。

 なかなか根深く、改善されないフットボール界の人種差別問題。マレガが発露した怒りと自主退場という衝撃的なシーンが、ひとつの大きな布石となることを願ってやまない。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部

【動画】卑劣なチャントに激高するマレガ。異例なアクシデントの一部始終をチェック!