●他で見た人でハネてても意味がない

注目を集めるテレビ番組のディレクター、プロデューサー、放送作家、脚本家たちを、プロフェッショナルとしての尊敬の念を込めて“テレビ屋”と呼び、作り手の素顔を通して、番組の面白さを探っていく連載インタビュー「テレビ屋の声」。今回の“テレビ屋”は、テレビ東京のバラエティ番組『勇者ああああ〜ゲーム知識ゼロでもなんとなく見られるゲーム番組〜』(毎週木曜深夜1:35〜)演出・プロデューサーの板川侑右氏だ。

“ゲームが絡んでいれば基本企画は何でもあり”というコンセプトで、深夜ならが人気を集める同番組。そのキャスティングや企画には、“お笑い番組をつくる”という意識が色濃くあった――。

○■アルピーや三四郎・相田の起用理由

板川侑右1985年生まれ、千葉県出身。明治大学卒業後、08年にテレビ東京に入社し、『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』『ピラメキーノ』『ゴッドタン』『トーキョーライブ22時』などを担当。現在は『モヤモヤさまぁ〜ず2』ディレクター、『勇者ああああ』演出・プロデューサー。


――当連載に前回登場したテレビ朝日の舟橋政宏さんが、板川さんについて「芸人さんがめちゃくちゃスベっているところを延々と放送してたりする。その感覚がすごいなと思うのですが、その狙いがなんなのか聞いてみたいです」とおっしゃっていました。

たぶん他の番組の場合、オードリーの若林(正恭)さんや南海キャンディーズの山里(亮太)さん、麒麟の川島(明)さんのような、圧倒的に天才的なワードセンスのある人が現場にいて、その人たちがオトしてくれるから、テンポよく見られると思うんです。でも、日常生活でそんなに天才っていないじゃないですか。いい大人が集まったらすぐ面白いものができるわけじゃない。30分考えてもなんにもできないときが結構あって、そのときのドキドキした感じを見たいんですよ。

僕は“待てる人”で、奇跡的にアルコ&ピースさんもあんまり忙しくない(笑)。僕は『ゴッドタン』で修業してきたから、“待てる”現場ならではのお笑いがあるってことが分かるんです。あの現場の人たちは、どうしようもない空気になっても、ずっと待ってる。今は視聴者もプロ的な見方ができるようになって、「おい、これ見てらんねえよ」って言うじゃないですか。「見てられない」っていうってことは見てるんですよ。だから、「見てらんねえよ」っていうオチがつくまでドキュメンタリーとして全部見せたいんですよ。

――『勇者ああああ』はどのように生まれたんですか?

もともとは、「eスポーツ元年」と呼ばれた年にゲーム番組をやって盛り上げようという会社の方針があったんです。それまでゲーム番組の企画自体を出している人はいなかったんですけど、僕は入社当時から通るわけがないと思いつつ出し続けていました。

極端な話、『ゲームセンターCX』(CS・フジテレビONE)以降、自分が面白いと思ったゲーム番組がなかったんですよ。ゲーム番組としてもお笑い番組としても中途半端な感じで。それが嫌だなと思ってたから、お笑いファンが見ても面白くて、ゲームファンが見ても“にわか”がつくっていると思わせないような番組をやりたかったんです。

――『勇者ああああ』をつくる際、『ゲームセンターCX』は意識しましたか?

意識しましたね。やっぱり“ゲーム実況の祖”みたいなところがあるんで、そこと同じことをやってもしょうがない。有野(晋哉)さんがわりと上品なお笑いを取る方なので、こっちは飛び道具(笑)。多少嫌われる覚悟を持ってやらないと、埋没するだろうなって。

――アルコ&ピースさんを起用したのは?

もともと2016年の夏に『テレ東世論調査』という番組があったんです。そのときに番宣のニコ生配信で初めてアルピーさんとお仕事しました。この起用は僕の中で“狙い”があったんです。2人の『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)が終わってしまった直後で僕を含むリスナーたちがめちゃくちゃ飢えてる時期で、その人たちを巻き込めば絶対にバズるはずだって。そしたら放送後にやっぱりトレンド1位になりました。でも、会社の上の人たちはそんなこと知らないじゃないですか。だから、「板川の番組に出た芸人がトレンド1位になったらしいぞ」という印象だけが残った。それで『勇者ああああ』の企画が立ち上がったときに、あの人たちならバズるからって提案したらすんなり通ったんです。

また何より、他でまだレギュラーで成功していない人で勝負をしないとお笑いのディレクターとして舐められるっていう思いもありました。

MCを務めるアルコ&ピースの平子祐希(左)と酒井健太=テレビ東京提供


――アルピーの平子(祐希)さんはご自身で「“取り扱い面倒くせぇな、こいつ”界では一番売れてると思う」っておっしゃってましたね。

平子さんは「面倒くさい」というより、いまだに、何考えてるかわからない人。真面目な方なんであれこれ考えてくるんですよね。で、僕らは平子さんをイジメてその考えてきたプランをぶっ壊すのが好きだから、ややこしいことになってるんですけど(笑)

――ナレーションに三四郎の相田周二さんを起用したのは?

三四郎の相田周二


聴いたことのない声の人がいいって話になったときに、放送作家の福田(卓也)さんから「相田さんどうですか?」って言われて即決でした。ナレーター会議、1分半で終わりました(笑)。ラジオ聴いて確かにいい声だなって。しかも一瞬、誰の声かわからない。エンドロールを見て「あ、相田さんなんだ」って思わせる意外性がありますよね。

――先ほど名前が出た福田さんは数多くのラジオ番組も手掛けていますが、『勇者ああああ』をつくる上でラジオは意識されますか?

多少は意識しますけど、ソフトが違いますからね。ラジオは、ファンが蓄積していくものなので、“おなじみのあの流れ”っていうのが自然とできてくる。でもテレビではあまりそれが通用しない。一方で、テレビでは画でわかる面白さがあります。ワードに頼らないボケとか、見た目でわかりやすいボケは多めに使います。みんなが困って目配せしているようなシーンはテレビならではですよね。

ただ、やっぱりラジオのファンに支えられているとは感じます。キャスティングとかはラジオリスナーが喜んでもらえるような人を意識したりもします。テロップにも、ラジオを聴いている人にだけ分かるような言葉を入れたりもしますね。

○■“絶対面白いもの”より“面白そうなもの”

――今おっしゃっていたように、キャスティングがかなり独特ですね。

他で見た人でハネてても意味がないと思ってるんです。よくどこの局を見ても同じ人が出てるって批判されるじゃないですか。忙しくなった芸人さんの名前を会議で出すのは簡単なんですよ。ブッキングするのは難しいでしょうけど。そうじゃなくて、「そんな芸人さん知ってるんだ!」とか「ライブでこの人たち面白かった」というような人をテレビに引っ張ってくるのが本来の僕らの仕事だと思うんです。

基本、若手の芸人さんはネタが面白いって紹介されるじゃないですか。でも、ネタが面白いからって売れるわけじゃない。人間性が面白い人だっている。そういう人たちが平場で活躍できる場をつくりたいんです。任天堂さんやスクエニさんやカプコンさんが作ったゲームをやるんだから盛り上がるに決まってるんですよ。そういう最低限の保証があるところに芸人さんを投げ込んだら、芸人さんたちは頑張ってくれるんで、そのへんの面白さを引き出したい。彼らが平場でどうなるんだろうっていうのに興味があるんです。結果が分かってる人を使ってもワクワクしない。(バイきんぐの)小峠(英二)さんならこういうツッコミをしてくれるって分かる。でも、それって作家の力でもなければディレクターの力でもない。“絶対面白いもの”に興味がないんです。僕は“面白そうなもの”が好きなんです。

――園山真希絵さんのような、普段お笑い番組には出ないような人も出演されていますね。

イジられることがオイシくない人たちの顔が見たいんですよ。「これ、テレビ的に大丈夫ですか?」っていう笑いが見たいんです。ドキュメンタリーとして。

たぶん、僕が『モヤモヤさまぁ〜ず2』をやってるっていうのもあるんですけど、素人の人はそこで笑いを取ることに何の得もないじゃないですか。ただ、さまぁ〜ずさんが来てうれしくて話してる。でも、そこから面白いことが生まれることが結構あるんです。芸人さんだけでやってると誰かがボケて誰かがツッコんで、それを受けて誰かがまたボケるという流れができる。でも、園山さんみたいに、返せない人、返す気すらない人が出てきたときに、まず芸人さんが困る。そのときのザワザワしてる感じ。そういうのって世の中にもあるじゃないですか。この人、話通じないなって。そういう「日常生活のイラ立ちから生まれるお笑い」が自分の中のひとつのテーマなんです。お笑いの文脈を分からない人を投入したときの化学反応を見たい。何にも起きないときもありますけど「何も起きなかった」っていう事実がそれはそれで面白い。

○■過去には『M-1』挑戦も

――『モヤモヤさまぁ〜ず2』と『勇者ああああ』で撮り方や編集の仕方に違いはありますか?

カメラの台数とかはもちろん違いますけど、結構似てるところはあります。どちらも、できるだけナレーションでつながずに、現場の音でつなぐようにしてます。お笑い番組なのにナレーションが多いのはあんまり好きじゃない。現場が面白くなかったって言ってるようなものじゃないですか。だからできるだけ、現場の芸人さんたちの話術で面白いことがずっと続いているように編集するというのが命題としてあります。

ユルく見せる編集のほうが実は難しいんですよ。でも、それは芸人さんたちの熱量とかを全部入れたいから。キツキツに編集して「次のVTRまであと何秒」みたいにカウントするような番組があるじゃないですか。視聴率を獲るためにはそれが正解なのかもしれないですけど、それって出演者に失礼だと思うんです。

――お笑いはもともと好きだったんですか?

小学生の頃から『ボキャブラ天国』(フジテレビ)を毎週VHSに録ってランキングとかメモしたりしてましたね(笑)。同時期くらいにシティボーイズさんにハマって。とんでもない人がいるんだと思ってお笑いライブにも行き始めました。そこからずっとお笑い好きで『爆笑オンエアバトル』(NHK)の審査員やってたり、大学の落研では落語や漫才やったりして、『M-1グランプリ』(ABCテレビ)にも挑戦してました。2回戦で同じ日にアンタッチャブルさんが出てるのを見て、これは無理だと(笑)

●テレビの中の人が“言わされてる”ことを認めたら…



――『勇者ああああ』で最初に手応えがあった企画はなんですか?

最初の収録で、「にわかゲーマー一斉摘発 芸能界ゲーム風紀委員」って企画をやったんです。お笑いが起きる瞬間ってみんなが思っている共通認識を刺激した瞬間だと僕は思うんですよ。どこかでゲーム好きのタレントさんを嫌いだって思ってたゲーマーはたくさんいたはずなんです。そのみんなが漠然と思っていた悪意を刺激した瞬間にドカンとウケたんで、これはイケると思いました。

同じ回にやった「コマンド危機一髪」も分かりやすくて。ライターの火を点けるのを失敗した人が負け、みたいなよく合コンとかでやるゲームを、「波動拳」でやってるだけなんですけど、みんなの共通認識の中にスーファミのコントローラーだと「波動拳」が出にくいよなっていうのがある。それと連帯責任で罰を受けるバラエティでよくあるパッケージが合体したときに、なんか新しいものがつくれたなって。

自分にはゼロイチで新しいものをつくる才能はないと思っているので、今まで見た面白いバラエティのパッケージを、どうやったらゲームの世界と組み合わせられるかなっていうのをずっと考えていますね。

――これまでの『勇者ああああ』の中で会心の企画だと思うのはなんですか?

「名作ゲーム人狼」(※)ですかね。僕は、何か面白くないものとか、嫌いなものとかに対して、何がつまらないんだろうっていうことを考えるのが好きなんです。それで、バラエティ番組に“背負ってる人”が出てくると意味が分からないなあって。

(※)…名作ゲームが大好きな人が集まって魅力を語り合うが、メンバーの中には、そのゲームを全く知らない人が。モニタリングして、にわかゲーマー(=人狼)を推理して探し出す企画。

――“背負ってる人”ですか?

たとえば、タレントさんが出てきて「今日は美味しいスイーツを僕が調べてきたんで紹介します」って言うじゃないですか。でも、大抵の場合、この人が本当に調べているわけじゃなくてリサーチしてるのはスタッフで。要は、番組側の意思をタレントに背負ってもらっていて、調べてもない人が今渡された原稿を読んでるだけ。この誰の熱もない状態が僕にはウソに思えるんですよ。っていうか「そのウソ必要ある?」っていう。しかも、視聴者も言わされてることに何となく気づいてる。

だからもし、テレビの中の人が言わされてるってことを認めたら面白いだろうなっていうのがどこかにあって、ひな壇バラエティでみんなが好きなゲームの話をしてるのに、そのうち1人だけが、全然やったこともないのに“背負わされている”。で、その人は誰かを当てるっていうクイズ企画が生まれたんです。オーディションやっても、本当にゲーム好きな人って2〜3人しかいないんですよ。ほとんどの人は事務所からいわれて付け焼き刃で勉強してきた人たち(笑)。オーディションやってて分かるから、これはクイズになるなって。

○■テレビにおけるゲームの認識を若返らせる

――本当にゲームが好きな人がそのゲームをプレゼンする「ゲーマーの異常な愛情」からはヤマグチクエストさんやノブオさん(ペンギンズ)のような番組発のスターも生まれましたね。

ヤマグチさんとかノブオさんって、選んでくるゲームのラインがちょうどいいんですよ。『moon』とか『LIVE A LIVE』とか、「あ、そこをついてくるんだ!」って。ゲーム好きな人なら絶対知ってるんですけど、ゲームを知らない人からすると「なんですか、それは」って驚く。正直、プレゼンに関しては、めちゃくちゃ打ち合わせして一緒につくり上げていくし、編集もしてうまく見せることはできる。でも、ゲーム好きはこの辺を紹介してほしいんだっていうライン取りは本人の愛がないとできない。そこが巧いのがその2人でしたね。結果、ノブオさんはアルピーさんより仕事が増えてるっていう(笑)

ヤマグチクエスト


ゲーム番組というとファミコンの『スーパーマリオブラザーズ』をやってみたり、「『魔界村』難しいですよね」みたいなレトロゲームの話をずっとしてて、いつまでその話してるの?と思ってたんですよ。テロップをドット文字にしてみたり。僕は物心ついた頃には家にスーファミもプレイステーションもあった世代だから、8ビットの文字にピンとこないんですよ。だからオープニングもプレステ風にしてるんです。テレビにおけるゲームの認識を10年は若返らせたいなって。それとRPGのようなテレビ番組では扱いづらいものをこのコーナーで取り上げられるようになったのもうちの強みだと思います。

――テレ東さんでは、2018年から「eスポーツ」を題材にした『有吉ぃぃeeeee!』も始まりました。

最初は正直言うと「潰される!」と思いましたね(笑)。向こうはスターが街ブラしてるじゃないですか。見てられるんですよ。でも、逆にやりやすくなった。もっとむちゃくちゃなことをやっても「差別化をはかった」って言いはれるようになった(笑)。さらなる飛び道具で勝負するしかないですから。アルピーさんで街ブラしてもねえ(笑)

――『勇者ああああ』はどんな人に見てもらいたいですか?

意外と家族で見ても面白いのがあると思うんですよね(笑)。もちろんダメなのもありますが。別にゴールデンを目指してはないですけど、深夜まで起きて疲れているサラリーマンとか奥さまとかが夜中にゲラゲラ笑って、これは子供にも見せてもいいなって思ったのだけ、お子さんにも見せてほしいなって。深夜のお笑い好きだけのためにつくってるわけではないので。

先日、公開収録のイベントをやったら、寒い中、パニックになるくらい集まってくれたんですよ。子供たちも盛り上がってくれた。番組発信のものでこれだけ人を集めることができたのはうれしかったですね。今後は有料イベントとかアプリをつくったりとか、お金を生むようなことも考えたい。視聴率をこれ以上上げるのは難しいと思うので、番組を続けるためにも、番組ファンの方たちにお金を落としたいと思わせるものをつくっていきたいです。

――番組で紹介した野田クリスタルさんがつくったゲームがアプリにもなりましたね。

商品化された瞬間に、うちが手つけとけばよかったって(笑)。芸人さんもいっぱいアイデアを持っているし、本業じゃない人がやる面白さもあると思うんですよ。うちから発信してどんどん外で活躍してくれれば、僕らが見つけたって言いやすいんで(笑)

●各局が連携をしないと業界が終わっちゃう

――『勇者ああああ』以外で今後やってみたいことはありますか?

各局の面白いテレビをつくってる人たちでフェスをやりたいです。弊社の予算規模では難しいですけど(笑)。どっちを見ようかってザッピングしながらワクワクしてるのが昔のテレビの原風景だと思うです。それはフェスで会場を移動してるのと似てる。夢みたいな話ですけど、各局が連携をしないと業界が終わっちゃう気がするんですよね。

――板川さんは、伊藤隆行さんと佐久間宣行さんというテレ東を代表するお笑い番組のプロデューサーのもとでディレクターをされていたわけですけど、影響は受けましたか?

伊藤さんは、敏腕なプロデューサーってこういう人のことを言うんだって背中で見せてくれる感じですね。とんねるずさんやさまぁ〜ずさんを連れてきてテレ東に出てくれるタレントさんのラインを引き上げてくれる一方で、『池の水ぜんぶ抜く』みたいないかにもテレ東っぽい企画も出す万能型ですよね。

佐久間さんはこだわりの人。普通はあり得ないんだけど、映画の『キス我慢選手権』も全部1人で編集してる。応接室で腰を痛めながら(笑)。テレビをつくるのが本当に好きで、スベりたくないっていう思いが強いんだと思うんです。2011年の震災のときも、すぐに編集をしてました。その直後に『マジ歌ライブ』が控えていたんですけど、ライブができるかどうかも分からないのに、そのオープニングVTRをつなぎ直してたんです。それでまだ震災の不安とかを抱えたままのお客さんを前に、HIGH-LOWSの「千年メダル」に合わせて「笑おうぜ」っていうテロップを出す。それを見て観客全体が「うおー!!」って言いながら泣くんです。ちょっと狂気じみてる。でも、プライドみたいなものでしょうね。お笑いディレクターとして全力でふざけようっていう意地。カッコいいなって思います。

伊藤隆行氏(左)と佐久間宣行氏


――今は「若者のテレビ離れ」などとも言われます。

僕はNetflix、Amazon Prime、Hulu、dTV、Paravi、FOD…と全部入ってるから、自分もテレビから離れてしまうのは分わかるんですよ。退屈しないですもん。そこに負けないコンテンツをつくらなきゃいけないとは思うんです。けれど、現状は視聴率を獲ることがテレビ局においては「勝ち」。でも、その番組が何度も見返したいものかというとそうでもない。家帰ったら座ってテレビ見るって文化が復活することはないと思うんで、本当は、リアルタイムで見てもらえる番組と何度も見返したい番組を二極化してつくっていければいいと思うんですけどね。

――「テレビは規制が厳しくなってきた」とよく言われたりしますが、現場で感じることはありますか?

正直、感じたことはないですね。なんでかっていうと、規制がかかっている時点でお笑いに関して言えば、笑えないってことだと思うんです。たとえば昔はLGBTの方たちをイジって笑いを取った時代もあったんでしょうけど、今やっても全然おもしろくない。規制がかかっているというより、時代とか新しい常識とかに合わせてお笑いの流派も変わってきてるだけ。その時代に則った笑いをつくるのがディレクターの仕事。ここはまだ空いてるぞ、まだ誰もいじってないぞ、ていうのを見つけるのが面白いんじゃないかと思うんです。

○■「『勇者』に出てるアルピーが好き」が一番うれしい

――ご自身が影響を受けた番組を1つ挙げるとすると何ですか?

高校生のときに見た『水曜どうでしょう』(北海道テレビ)ですね。得体のしれない人がどんどん売れてスターになっていく過程が見られるのがテレビの面白さのひとつだと思うんです。当時はただの大学生だった大泉洋さんが信じられないような悪口だったり愚痴だったりを言ってガンガン笑いを取ってて。お笑い芸人が面白いと思っていた僕からするとわけが分からない。ローカルで無名だっていうのを全部武器にしてお笑いに振り切ってる。こういうのがテレビ的なんだと思うんです。

大泉洋さんが好きというより『どうでしょう』に出てる大泉さんが好き。だから、アルピーが好きって言われても別にうれしくはないけど、『勇者』に出てるアルピーが好きって言われると一番うれしい。番組を通してその人の魅力を全部引き出したいんです。

――いろいろお話を聞かせていただき、ありがとうございました。最後に、気になっている“テレビ屋”をお伺いしたいのですが…

フリーのディレクターの水口健司さん。うちの番組の現場では超優しいんですけど、他の現場では鬼のような顔になることもあるらしい。『ガチンコ!』(TBS)出身で、『水曜日のダウンタウン』(同)のようなゴリゴリのお笑い番組から、『ジョブチューン』(同)のような情報系バラエティもやっている。しかもオードリーのような芸人さんとも仲がいい。切り替えの早さとストライクゾーンの広さがすごくて、頭の中、どうなってるんだって思います。

○著者:戸部田誠(てれびのスキマ)

ライター。著書に『タモリ学』『1989年のテレビっ子』『笑福亭鶴瓶論』『全部やれ。』などがある。最新刊は『売れるには理由がある』。