転職をする際に即戦力といえば40代、50代のはずだが、なぜ実際は20代、30代のほうが求められるのだろうか?(写真:プラナ/PIXTA)

「空前の売り手市場」に背中を押されて、転職を考えている中高年もいるかもしれない。だが、ちょっと待ってほしい。売り手市場の恩恵にあずかれるのはごく一部の人だけだ。

中高年が売り手市場を鵜呑みにしてはいけない理由を、『転職の「やってはいけない」』の著者であり、これまで3000人以上の転職・再就職をサポートしてきた郡山史郎が解説する。

転職事情は転職希望者の年齢によって大きく異なる。採用担当者が評価するポイントは20代、30代、40代、50代でそれぞれ違うからだ。

転職希望者が20代の場合、採用担当者は100%、その伸びしろ、つまり成長する余地で採否を判断する。前職で「チームの売り上げを2倍にしました!」というような華々しい実績がなかったとしても問題ない。新卒で入った会社で社会人としての経験はすでに積んでいる。早く組織に馴染んで会社に貢献してくれる潜在能力があればいい。

30代の場合は伸びしろ50%、実績50%で判断する。ある程度ビジネスの経験を積んでいるので、即戦力になるし、まだまだ知識やスキルを吸収して伸びる可能性もある。両方を兼ね備えているので、例えば35歳くらいで英語ができて、海外交渉ができて「海外でもどこでも行きます!」というやる気のある転職希望者なら、どんな企業からも採用されるだろう。

40代は100%、実績で判断される。企業は即戦力として働いてくれることを期待しているので、その人の持っている知識やスキルが求人側の求めているものとマッチすれば、採用される可能性はある。逆に、その人の知識やスキルがその会社で役に立たない場合は採用されることは難しい。伸びしろはまったく期待していない。

50代はちょっと厳しい言い方になるが、採用されることはかなり難しい。たとえ、その人が持っているスキルや知識が求人側の企業にとって役立つものだったとしても、である。

なぜ40〜50代の転職は難しいのか

さて、「転職市場では今、20代と30代に需要がある」「企業は今、即戦力を求めている」ということはこれまでの項で説明してきた。この2つに矛盾があると思う人も、もしかしたらいるかもしれない。即戦力が必要なら、むしろ実績がある40代、50代のほうが有利のような気もする。

実績のある40代、50代よりも20代、30代が求められる理由は、即戦力には「知識やスキル、経験」だけでなく「適応能力やコミュニケーション能力」があり、後者にもウェイトが置かれていることが理由の1つに挙げられる。また、これ以外にも会社側の深い事情が2つある。

1つはコストの問題だ。40代、50代を採用したら会社は年齢に応じた高い給料を払わねばならない。それよりもコストの安い20代、30代を雇用し、早く組織に慣れてもらって戦力になってもらったほうが、費用対効果が高い。

これは芸能界にたとえるとわかりやすい。テレビ番組では大御所芸人やタレントが出演すると高いギャラを支払わねばならず、実は取り分が少ない。一方、将来性のある若手をギャラが安いうちにキャスティングして、その番組の人気が出てくると利益が大きい。

私はかつて映画と音楽の仕事も手がけたことがあるが、これは映画やコンサートでも同じだった。ある大御所歌手がコンサートをやったときは、ギャラは高いしセットや衣装などに対する注文も多く、大赤字だった。

芸能界で無名の人が有名になるプロセスで儲けるのと同じで、企業も若くて給料も安くてすむ年代の人ほど、働いてもらう価値があると判断し、その「伸びしろ」に投資するのが一番利益になるのだ。

日本は「年功序列型組織」

2つ目の理由は、日本の年功序列型組織に対応するためだ。最近では外資系のような成果主義の会社も増えつつあるが、日本では依然として年齢や勤続年数とともに役職や報酬が上がる「年功序列」を採用している企業が多い。そのなかに40代、50代の人が途中で入ってくるのは、まわりの社員が非常にやりづらい。

40代、50代はコストがかかると述べたが、そうすると「給料は安くても構わない」といい出す輩もいる。私のところにも某企業の事業部長だった55歳の人が「俺はあの若造より仕事ができる。あんな35歳の若造に1000万円も払うなら、俺は同じ仕事を500万円でやってやる」と言ってきたことがあった。

私は半ばあきれて聞いていた。その人も管理職としてこれまでに採用に関わってきたはずだ。私は「じゃあ、あなたが事業部長で、あなたのところに500万円で働くといって55歳の人が来たら採用しますか?」と聞いた。すると、「俺は採用する」と言い張る。

そこで私が「人事部はそれを認めますか?」と聞いたら、「人事部は絶対認めないだろう」と答え、ようやく自分の要求の理不尽さに気づいたようだった。

仮にその人が「300万円でもいい」といっても、どこの企業も採用しないだろう。いくら人件費が安くつくといっても、35歳の人がやるべきポジションに55歳の人がつくとなれば、上司も使いにくいだろう。少なくとも人事部はそう判断する。それに5年経ったら定年である。「組織の若返り」を目指す企業が多いなか、そんな時代に逆行するような人事はありえないのだ。

このような想像に至らないところがすでに適応能力がないわけで、やはり50歳以上の転職には厳しいものがある。この適応能力やコミュニケーション能力こそがまさに「伸びしろ」であって、こうした能力があれば、知識やスキルはあとからすぐに身に付けられると企業は考える。それが20代、30代のほうが需要がある理由なのだ。

中高年の転職には「大きな壁」がある

建前を言えば、本来は求人票に「40歳くらいまで」「20歳〜30歳」など年齢制限を載せてはいけないことになっている。雇用対策法が改正され、2007年10月より事業主は労働者の募集および採用について年齢に関わりなく均等な機会を与えなければならなくなったためだ。


求人票には年齢不問としながら年齢を理由に応募を断ったり、書類選考や面接で年齢を理由に採否を決定したりするのは違法行為となっている。

しかし、求人側の企業は組織のバランスや収益における人件費の比率などを考慮して採用するわけで、その条件に合わなかったら書類選考にパスしないのは当然のこと。その条件のなかに年齢が大きなウェイトを占めるので、企業が年齢で差別するのは極めて当たり前なのだ。

転職においていちばん基本的な条件は、年齢である。30代と40代の間には壁があり、40代と50 代の間にはさらに大きな壁がある。

法律がどうあれ、この壁を越えて採用されることは難しい。転職希望者はそれを頭に入れ、それぞれの年代に応じた対策を講じる必要があるといえよう。