スズキ「新型ハスラー」2019年12月24日に実施された発表会にて(筆者撮影)

日本は今、SUV(スポーツ・ユティリティ・ヴィークル)ブーム真っ只中にある。日本車と輸入車、合わせて100近いモデルが新車として販売されているのだ。こうしたトレンドは、軽自動車にも影響を及ぼしている。

注目されるのが、2020年1月に発売されたスズキ「新型ハスラー」と、2020年央に発売が予定されているダイハツ「タフト」だ。

この2つのモデル、自動車専門メディアではガチンコライバルのように報じるられる。だが、どちらも実車を見て関係者の話を聞いてみると、どうも状況が違うように感じた。

登場した順に、新型ハスラーとタフト、それぞれの実像をご紹介したい。

軽クロスオーバーSUVの立役者

まずは、新型ハスラーだ。2019年12月24日、東京都渋谷区内のイベントホールで、新型ハスラーのメディア向け発表会が行われた。


「新型ハスラー」発表会に登壇した鈴木俊宏社長(筆者撮影)

その冒頭で、スズキの鈴木俊宏社長が「6年前の同じ日(12月24日)、初代を発表してから、ハスラーは軽にクロスオーバーSUVという新しいジャンルを作った」とハスラーの功績をたたえた。

初代ハスラーは、2013年末の発売以来、2019年度まで一度も販売台数が前年比減とならずに右肩上がりを続け、累積販売台数は発表時点(2019年11月末)で47万6981台にも達した。

なぜ、ハスラーはここまで大成功したのか。その背景には、業界で「(鈴木)修会長の(コンピューターならぬ)勘ピューター」と呼ばれる、スズキ独自のマーケティング戦略がある。

時計の針を少し戻すと、2013年末、筆者は新宿区内での初代ハスラーの記者発表に出席した。

会見で当時の鈴木修会長は、「全国の販売店をまわっていると『会長、ジムニーのような感じのクルマを出してください』と言われることが多かった。ジムニーのモデルチェンジはだいぶ先になりそうだったので、別のクルマを考えるよう、私が直接(企画と開発部門に)指示して、このクルマが生まれることになった」と誕生秘話を披露した。


2013年12月24日に発表された「初代ハスラー」(写真:スズキ)

これは決して、鈴木会長の自慢話ではなく、草の根活動で集めた現場の声をしっかり商品開発につなげていることを明かしているにすぎない。

そうした草の根マーケティングの現場を筆者は2019年秋、実際に体験した。ハンドル式電動車いす(セニアカー)の取材で、スズキ本社営業部の関係者らと長野県内のスズキ販売店や直系ディーラーでの営業活動に同行した。

その際、軽自動車や登録車を含めて、スズキが日頃からどのようにして市場の声を聞き、各地域で情報を集約したうえで本社と協議するのか、そのプロセスを肌感覚で理解できた。

こうしたスズキ独自のマーケティング戦略によって、ハスラーはジムニーのようなラダーフレームによる本格的な四輪駆動車ではなく、アクティブに遊びを楽しむファミリー層にアプローチするクルマとすることで、新たな市場をスズキ自らが作り上げたのだと感じた。

欠点だった乗り心地を改善

第2世代となる新型ハスラーでは、初代ハスラーの世界感を継承し、さらなる楽しさを訴求している。

外観をパッと見ただけでは初代と大差ないように感じるが、よく見るとボディ形状全体がよりスクエア(四角い箱)となり、室内スペースも拡大している。「外観のデザインは初代を継承している分、車内に入った際の驚きと楽しさを演出した。若手デザイナーのスケッチを思い切って採用した」とは、デザイン部門幹部の話だ。

クルマ全体として見て初代に比べての大きな変化は、乗り心地とハンドリング性能の大幅な向上である。

ハスラーの走りについては、全国各地から「乗り心地をもっとよくしてほしい。とくに後席は下から突き上げが強くて乗っていて辛い」という声が多かったと、スズキ本社営業部関係者が打ち明けてくれた。

新型ハスラーの開発統括者は「初代で大きく2回、各部のブッシュ(連結部のゴム)などを改良して乗り心地の改良に臨んだが、問題は車体そのものにあり、効果は限定的だった。今回、車体を刷新したことで、乗り心地とハンドリングの向上にしっかりつながった」と、開発の経緯と成果を説明する。

本稿執筆時点(2020年1月中旬)で、新型ハスラーのメディア向け試乗会は行われておらず、初代と2代目のハスラー、筆者が個人所有する新型ジムニーとを乗り比べた印象については、別の機会に紹介したい。

タフトを象徴するガラスルーフ

2020年1月10日、「東京オートサロン2020」開催初日、ダイハツブースで「TAFTコンセプト(以下、タフト)」の実車を確認した。コンセプトモデルとはいえ、発売まで半年を切っており、ほぼ量産車の状態だ。


「東京オートサロン2020」で公開された「TAFTコンセプト」(筆者撮影)

タフトは、2019年にフルモデルチェンジした「タント」から採用している新型プラットフォーム「DNGA」を採用。全長と全幅はタントと同値で、全高はタントより25mm低い。コンセプトモデルは2WDのターボ車だったが、量産型ではタントと同じく4WDやノンターボのグレードがあってもおかしくはない。

写真で見ると、タフトはハスラーに比べて“ジムニー寄り”のタフな商品イメージがあるが、実車を見た印象はその逆で、かなりファッショナブルなアイテムだと感じた。そうしたダイハツの意向を象徴するのが、ガラスルーフの存在だ。


「TAFTコンセプト」に装着されていたガラスルーフ(筆者撮影)

ガラスルーフは、閉じた状態でも車内空間が開放的に感じることができるとして、1990年代から2000年代にかけて、欧米や日本車で採用するモデルが増えた。ボディ剛性とガラスの強度を高める技術開発が進む中、前席から後席までの天井のほとんどをガラスルーフ化する高級車も登場した。

だが、2010年代以降はトレンドではなくなり、近年ではCセグメント(日本での中型車)以下ではオプション設定もないクルマが増えた。

その理由について、近年ガラスルーフをオプション設定している国内高級ブランド車の開発責任者は「高い位置に重量物を持てば当然、走りに影響が出る。正直なところ採用したくなかった」と本音を漏らす。

小型で軽量の軽自動車であれば、ガラスルーフの走りへの影響が大きいのは、当然のことだ。タフトがガラスルーフを標準装備するかは「未定」(ダイハツ関係者)というが、広報資料でもガラスルーフを強調しているところを見ると、オプションなどなんらかの形で装着できるのだろう。やはりタフトは、オシャレでファッショナブルな商品なのだ。

またダイハツ関係者は、ファミリー向けのハスラーに対して、「タフトは前席に乗る人(1人、または2人)を重視したクルマ」(同)と打ち明ける。つまり、ダイハツはタフトを“ハスラーのガチンコライバル”とは見ていないのだ。

テリオスキッドのような新型車を開発中か?

それよりも、ダイハツにとってタフトとは、トヨタグループ内でのクロスオーバーSUVラインアップのポジショニングのほうが重要なのではないだろうか。

Cセグメント(中型車)のトヨタ新型「RAV4」、Bセグメント(小型車)のトヨタ「ライズ」/ダイハツ「ロッキー」、そしてAセグメント(軽)のタフトとトヨタ向け兄弟車というポートフォリオである。こうした縦のラインの重要度が、ハスラーのような他社の個別モデルへの対応よりも上位にあるのだと思う。 


「テリオスキッド」はダイハツが1998〜2012年に生産していた軽自動車SUV(写真:ダイハツ)

そうなると、気になるのが“ジムニー寄り”の軽SUVの存在だ。これについて、筆者も各種執筆している自動車専門雑誌『ベストカー』では、2020年1月上旬に独自スクープとして、2021年12月に「テリオスキッド」のようなFR四駆の登場を予測している。

時期や技術的な構成の真偽はともかく、現時点でタフトの商品性を見る限り、この話は十分にありうるだろう。さらには、ホンダ「Nシリーズ」の派生車がハスラーやタフトの対抗馬となることも当然、考えられる。2020年代前半は、軽クロスオーバーSUV戦国時代になりそうだ。