全4回で日本の怪獣文化を「モダンアート」との関係性から考える特集、第2回の対談テーマは「日本の怪獣と海外のモンスターとの違い」と「怪獣デザイナーの作家性」。
文・構成/ガイガン山崎
写真/安田和弘
企画/飯田直人
デザイン/桜庭侑紀
怪獣放談シリーズ一覧(全4回)

「怪獣」と「モンスター」

海外のモンスターと日本の怪獣の違いについて、もっとくわしくうかがえますか。
山崎 いろんな生き物を掛け合わせるという方法論は、成田亨さん以外の方々もやっていて、たとえばゴジラにしたって、ティラノサウルスにステゴサウルスの背びれを付けて、ワニ皮で覆ってるわけじゃないですか。非常にわかりやすい。
『ゴジラ2000 ミレニアム』より怪獣王ゴジラ
山崎 さっき(前回の記事で)も話したように、ただ生物を大きくしただけという怪獣だって少なくなかったんです。ある時点までは、海外のモンスターとの違いはほとんどなかったと言っていい。それが、ビフォー・アフターじゃないですけど、ウルトラ怪獣の登場によって、日本の怪獣の作り方は大きく変わってしまった。でも向こうは、昔とそう変化はないんじゃないかなぁ。もちろん、以前よりリアルに作れるようにはなってきてますが、そもそもリアル志向ですからね。そんなに突飛なものを混ぜたりはしない。
小谷 混ぜ方自体がわかりやすいし、かなりうまく結合させてる感じですもんね。逆に『メッセージ』(2016)の宇宙人みたいに、これだったら最後まで姿を見せないほうがよかったんちゃうか? みたいなのもけっこういる(笑)。宇宙人とかに関しては、明らかに日本産のほうが創造的でグッとくるものがあって、それはどうしてかなと思ったりもするんですけどね。
山崎 単純に僕らが日本人だから、それに見慣れてしまっているだけかもしれないし。
小谷 そうなんですよね。何にこの世界のリアリティを求めているか、どういったものに現実感の手応えを感じるのか、そういう違いなのかな。
山崎 『パシフィック・リム』(2013)を撮ったギレルモ・デル・トロは、ウルトラ怪獣のことを「クレイジー」と表現してますね。あの映画のモンスターって、どれも日本の怪獣を強く意識しているし、彼自身はウルトラ怪獣も大好きなんだけど、あそこまでクレイジーなものにはしなかったと言ってました。それはどういうことかというと、もう少し地に足のついたデザインにしたかったということなんだと思います。たとえば、最終決戦に出てくるライジュウというモンスターは、相手を威嚇するときに外殻を開いて本当の顔を見せるんですね。これ、要するにコンセプトとしてはガボラと一緒なんだけど、ガボラの外殻って、表側はメタリックな感じで、裏側がポインセチアの花びらみたいにド派手。そこが面白いところなんだけど、向こうの人の感覚からすると少しやり過ぎということなんでしょうね。
『ウルトラマン』よりウラン怪獣ガボラ
小谷 それと日本の怪獣が、諸外国のモンスターから独立した個性を手に入れることができたのは、着ぐるみのお陰じゃないかなと。もちろん、デザイン上の制約は大きかったけども、逆に着ぐるみという制約された条件のお陰で、こんな形のものとして成立するようになった。
山崎 向こうのモンスター映画は、コマ撮りから始まっていて、人間の形に縛られずに作ることができましたからね。もちろん、そうやって作った人形を1コマ1コマ動かすのは大変だったけど、少なくともデザイン上の制約は何もない。
レイ・ハリーハウゼン
の『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)に出てくる骸骨剣士みたいな怪獣って、ちょっと着ぐるみでは作りようがないもの。シーボーズも骨の怪獣だけど、あれは骨の奥に黒い中身が詰まってますもんね。
『アルゴ探検隊の大冒険』より骸骨剣士
『ウルトラマン』より亡霊怪獣シーボーズ。画像は、『ウルトラファイト』(1970)版となる
小谷 僕もハリーハウゼンは大好きだけど、あれは何に近いのかというと、昆虫とかを見てしまう感覚ですよね。一方、日本の怪獣は、明らかに人が動いてる感じ。いくらこっちが見ないようにしていても、どうしても中の人が見えてしまうときがあるじゃないですか。だけど、その人型の奥行きこそが怪獣の魅力なのかもしれない。
山崎 それこそ『パシフィック・リム』のモンスターは、敢えて人が中に入れるものっていうデザイン上の制約を設けてましたね。フルCGだからって、好きなようにデザインしてしまうと、もうそれは怪獣ではなくなってしまうと。かつての日本人スタッフは、成田さんも含めて、必死になって人間のシルエットを消そうしていたのに、逆にそこが最大の個性で魅力になっていたというのは、皮肉といえば皮肉だし、すごく面白い現象ですね。
小谷 あと、海外のモンスターも、昔のものだとユルいヤツがいっぱいいたじゃないですか。
山崎 『金星人地球を征服』(1956)の金星ガニとか?
『金星人地球を征服』のポスター
小谷 そうそう! 金星ガニを初めて見たときは、「なんだ、このB級丸出しのユルい怪獣は?」なんて思ったもんだけど。そのキッチュさがとても印象に残る。
山崎 僕も大好き。『海獣の霊を呼ぶ女』(1956)のシークリーチャーや『暗闇の悪魔 大頭人の襲来』(1957)の大頭人もそうだけど、ポール・ブレイズデルが造形したモンスターって、どことなくマンガチックで怪獣っぽいですよね。
『海獣の霊を呼ぶ女』のポスター
小谷 怪獣っぽい! うん、まさにそうなんですよ。
山崎 金星ガニって、昔から日本人にも人気がありますけど、あれは怪獣っぽいからなのかなぁ。『エイリアン』(1979)のゼノモーフもそうじゃないですか。人骨とペニスとメカニックっていう組み合わせが怪獣っぽい。パッと見では、何がモチーフが分からないと、怪獣っぽく感じられるのかも。あと、『大アマゾンの半魚人』(1954)のギルマンも、カリスマ的な人気がありますよね。
『エイリアン』よりゼノモーフ
『大アマゾンの半魚人』のポスター
小谷 たしかにギルマンは、今でも色褪せないし、好きですね。
山崎 半魚人をデザインするとき、ギルマンの影響から逃れることはほぼほぼ不可能な気がします。成田さんのラゴンだって、ほとんどギルマンですしね。
『ウルトラマン』より海底原人ラゴン
小谷 成田さんが怪獣の原型を作ったように、ギルマンもまた半魚人の原型になったといえるかもしれない。
山崎 成田さん、ラゴンに関しては“ごくあたりまえに半魚人をデザインしたものです”って、すごく素っ気ないコメントを残してるんですよ。御本人としても、もっと創意工夫できたらっていう後悔もあったのかもしれませんね。でも、できなかったんだなぁ。
小谷 あれ(ギルマン)は女性がデザインしてるっていうのもけっこう大きいんでしょうね。
山崎 ミリセント・パトリックですね、『宇宙水爆戦』(1955)のメタルーナ・ミュータントのデザインも担当した。この人も天才でしょう。
小谷 うん、メタルーナ・ミュータントもいい。男が作った怪獣とは違って、どこか艷やかでエロティックな魅力がありますよね。だから、ひょっとすると女性がデザインに参加していたら、怪獣の概念もまた大きく違っていた可能性もあるのかも……なんて思ったりもします。

成田亨を継ぐ者

先ほどの話によると、実際の作り手たちは着ぐるみという表現方法について、必ずしも肯定的に考えていなかったということになりますが。
山崎 円谷英二だって、可能であればコマ撮りでやりたかったはずですよ。
小谷 おそらく成田さんがいちばん困っていたのは、着ぐるみでやらなくちゃいけないという前提条件の部分だと思います。ただ、成田さんの後釜として入った池谷仙克さんは、それを逆手に取って、ツインテールみたいな傑作を残してますね。
山崎 成田さんも、中の人を増やしてドドンゴやペスターを作ったり、あるいは頭と肩を一体化させてジャミラを作ったり、人間のシルエットが浮かび上がってこないようなものを何体か作ってはいるんです。で、そのいずれも傑作デザインだと思うんですが、個人的には池谷さんのタッコングやツインテールのほうがスゴい気がする。
『帰ってきたウルトラマン』より古代怪獣ツインテール
小谷 あぁ、タッコングも秀逸ですね。だから成田さんも一生懸命試したけども、それが信じられない形で結実し始めた頃なんだと思う。結局、成田さんが考えつかなかった着ぐるみの応用の方法を発見してますよね。ツインテールは、本当に傑作。よくこんなもの思いついたもんだと思います。
山崎 単純にカッコいいのは、対戦相手のグドンのほうなんだけど……あっ、そういえば成田さんの怪獣の顔って独特じゃないですか? もちろん、テレスドンみたいに分かりやすくカッコいい面構えの怪獣もいるんですけど、ケムラーとかペギラとかオッサンみたいな顔してるでしょう。もうそういうもんだと思ってるから、別にカッコ悪いみたいなふうには思わないんだけど。
小谷 オッサン顔、意外と多いよね(笑)。怪獣同様、ふてぶてしいですからね。
山崎 ツインテールに関しては、わりとそのオッサン顔の系譜にある気はするんですけど、基本的に池谷さんの描く怪獣はストレートにカッコいい顔してますよね。
小谷 たしかに顔の作りはそうですね。『シルバー仮面』(1971)の宇宙人とか、けっこうデザイン的。ただ、『(怪獣大奮戦)ダイゴロウ対ゴリアス』(1972)は……。
『怪獣大奮戦 ダイゴロウ対ゴリアス』より恐怖星獣ゴリアス
山崎 ゴリアスはもう、あの何にもない感じがね!(笑)
小谷 好きですか?
山崎 主役のダイゴロウは、汚いムーミンみたいでそんなにですけど、ゴリアスは大好きです。テレビの前にフィギュアも飾ってる。
小谷 えーっ!?(笑)
山崎 さっきの話と矛盾するようだけど、別にすごくカッコいいわけではないんですよ。たぶん、池谷さんも延々と怪獣を描き続けてきて、この頃になるともう完全に飽きてる感じなんです。何のモチベーションもなく、ただただ強そうで悪そうな怪獣を描いたんだろうなっていうのが、ひしひしと伝わってくるでしょう(笑)。同時期の『ファイヤーマン』(1973)に出てくる怪獣もそうですね。正直、創意工夫の欠片もない……でもそれがいい。
小谷 そりゃあアイデアも枯渇しますよね。もう無理、何も出ない! みたいな。
山崎 そうそう。そのギブアップ感がいいんですよ。『シルバー仮面』の宇宙人までは、まだいろいろと試してみようという意欲が感じられるんですが、翌年の『アイアンキング』(1972)の真ん中くらいから疲れ果ててる感じが出てきます。とくに、このトンガザウルスってのはいいですよ。もう本当に仕事をしてない。ただのブロントサウルス(笑)。
『アイアンキング』より怪獣ロボット トンガザウルス
『怪獣幻図鑑―池谷仙克画集』(東宝出版事業室)掲載
小谷 うわっ、たしかにこれはスゴい。もう作家性がまったくない! これがいいっていうのは……もう完全にドープですよ(一同笑)。
山崎 トンガサウルス、ビックリすることにフィギュアになってますからね。気になった方は検索してみてください。しかしこれ、オリジネーターのひとりだからこその枯渇っていう感じもしません? もっと後年のデザイナーになると、今度は成田さんや池谷さんが作ったものをコラージュしていこうみたいな発想になっていくじゃないですか。でも池谷さんは、完全に新しいものを生み出そうとしてたぶん、アイデアが尽きたことでモチベーションも失われてしまったのかなと。
小谷 その見方は正しいと思いますよ。たしかに池谷さんは、何かを生み出そうとしてましたよね。たぶん、パパッと脚本を読んで、すぐにイメージが浮かぶタイプだったんじゃないかな。空間演出とかに長けていて、だから映画の美術制作とかのほうに行かれたんでしょう。しかし初期のデザインは、本当に瑞々しいですね。『セブン』のどこからでしたっけ?
山崎 ダリーです。やっぱりカッコいいですね。で、それからダンカン……じゃない、その間にリッガーとアギラがあるのか。こいつらはまぁ、普通かな(笑)。トンガサウルスほどじゃないけど、たまに普通の恐竜っぽいのが混ざるんですよ。それが池谷さん。
小谷 だから成田さんは、そこの抽象化が極度に上手だったのかもしれない。禁じ手にしていたということもあるけど、普通の恐竜みたいな怪獣が1体もいなかった。
山崎 ただまぁ、リッガーに関しては、デザイン画だけ見ると普通の恐竜なんだけど、着ぐるみになったときのバランス変更によって、ちゃんと怪獣として成立してはいるんですよね。あの頭と目の大きさで、一気にキャラが立ったというか。
小谷 たしかにリッガーは、造形段階で幻想をまとった感じがあるかも。
山崎 妙に印象に残りますよね。パンドンだって、デザイン画よりも着ぐるみのほうが断然いい気がします。双頭の赤い鳥怪獣が、どうしてあんなトンカツみたいな姿になったのかわからないけど、でもトンカツのほうがカッコいいですよ。
『大決戦!超ウルトラ8兄弟』(2008)より双頭怪獣キングパンドン。池谷仙克のデザイン画バージョンのパンドンをもとにしている
小谷 パンドンも、造形で救われてる部分がだいぶありますね。あと、成田さんの理屈(前回の記事で触れた三原則)だと、こいつは完全に奇形でアウトでしょう。だから、やっぱり成田さんが絶対にやらない方法論でデザインされていたということなんだなぁ。
怪獣放談シリーズ一覧(全4回)

次回は1/30(木)公開