コンビニ店主の窮状が盛んに報じられている。弁護士の明石順平氏は「コンビニ本部の進める集中出店で、一部のオーナーは共食いを強いられている。追い詰められた家族からは自死も出ている。儲かるのは本部だけだ」という――。

※本稿は、明石順平『人間使い捨て国家』(角川新書)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/egadolfo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/egadolfo

■増えまくるコンビニ

コンビニをはじめとするフランチャイズの店舗数について、2003年=100として指数化したものの推移を見てみよう。

(出典)日本フランチャイズチェーン協会(https://www.jfa-fc.or.jp/particle/29.html)

見てのとおり、他のフランチャイズと比べてコンビニ店舗数の増加が著しい。2003年と17年を比較すると約1.4倍に増えている。このコンビニの増加は、小売分野の労働者数増加に大きく影響している。業種別雇用者数について、2012年から2018年の増加数を見てみよう。

(出典)総務省「労働力調査」(https://www.stat.go.jp/data/roudou/longtime/03roudou.html)

医療、福祉がダントツの1位で、これは明らかに高齢化の影響と言えるが、2位につけているのが卸売業・小売業である。これはコンビニの増加が大きく影響しているだろう。

平成28(2016)年経済センサスによれば、コンビニの就業者数は65万0578人。そして、コンビニの数は4万9463。すなわち、1店舗当たり約13人。店舗が1つ増えると、オーナーを除けば12人も雇用者が増える計算となる。

コンビニが全国の至るところで増えていることが大きく影響し、卸売・小売が雇用者数増加で2位になっていると言える。

■コンビニと飲食サービスの共通点

なお、3位に飲食サービス業も入っているが、これもフランチャイズが多い分野である。私はとある飲食チェーンのフランチャイズオーナーの個人破産事件を担当した際、その現実を見た。

多額のロイヤリティを取られる上、食材も本部が提供するものを買わされる。オーナーの手元には非常に少額の金しか残らない。結局閉店することになったが、開業資金はオーナー自身が借金して用意したし、不払いとなっていたロイヤリティは保証人が払ったので、閉店に伴う本部の損失はゼロであった。

聞けば、その飲食チェーンは8割がフランチャイズであり、直営店は2割しかないという。凄(すさ)まじい搾取が可能だからこそ、店を出せば出すほど儲かり、多店舗展開が可能になるのである。

■店主一家が「コンビニ奴隷」になる

オーナーは多額の借金をして開店資金を捻出している場合がほとんどである。だから、途中で辞めると借金が返せなくなってしまう。また、契約書に高額の違約金条項があるので、途中で辞めるとその違約金も発生してしまう(あまりに高額なので争う余地があるとは思うが)。そして、辞めたら生活の糧を失う。

つまり、辞めたくても辞められない。その上、コンビニ会計によって本部に多額のロイヤリティを搾り取られてしまい、高い給料も出せないので、アルバイトもなかなか集まらない。そこでどうするのかというと、ひたすら自らシフトに入る羽目になる。

オーナーが自らシフトに入れば入るほど、その分人件費は削減できる。だが、1人では限界があるので、家族に手伝ってもらう。家族総出でずっとコンビニのレジに立ち続けるという状態に追い込まれていく。

このようにして追い込まれたオーナーが失踪した事件がある。2019年3月31日で閉店した「セブン‐イレブン東日本橋1丁目店」(東京都中央区)のオーナー齋藤敏雄さん(60歳)は、本部から2月末に閉店の通知を受けた後に失踪した。

■閉店に追い込んだ本部の自己都合

閉店に追い込まれた原因は、地域に集中して出店する「ドミナント戦略」というものである。特定の地域に集中出店することで、ライバルチェーンを追い出し、地域での優位性を確保することが狙いである。すべてが直営店だったら、店同士が共食いを起こしてしまうので、採算が合わない。

ところが、「コンビニ会計」等のおかげで、本部は店を出せば出すほど儲かる仕組みになっているため、こんな戦略が可能になるのである。オーナーたちは近隣店舗と共食いを強いられ、売上はどんどん落ちていく。

敏雄さんの店舗もドミナント戦略の実施前は好調な売上を記録していたが、ドミナント戦略実施後はみるみる売上が落ちていった。敏雄さんの妻の政代さんは、アルバイトの給料を払うため、コンビニのシフトに入る傍ら、別のドラッグストアで働いていたという。

近隣店舗が時給を上げたため、アルバイトの獲得競争にも敗れ、シフトは家族で埋めるしかなくなっていった。齋藤夫妻の2人の息子たちも学業の傍らコンビニを手伝った。長男の栄治さんは、大学に行く資金が無いため、進学を諦めた。将来を悲観したのか、栄治さんは2014年9月、コンビニの夜勤後に自ら命を絶った。

■コンビニに破壊された店主一家

まさに地獄のような状況である。その後、耐え切れなくなった妻と次男はコンビニから手を引き、敏雄さんと別居した。それでも敏雄さんは営業を続けたが、突然、2019年2月28日になって本部から閉店通知を受けた。敏雄さんは翌日失踪。約1カ月後の3月26日夜に北海道旭川市内で警察に保護された。

敏雄さんは「寒いところに行けば、持病の心筋梗塞で死ねるかもしれないと思い向かった」と言ったそうである。現在、敏雄さんの店があった場所の半径200メートル以内に、セブン‐イレブンの店舗が4つもあるという。異常な「ドミナント戦略」が、家族を破壊したのである。政代さんは言う。

「長男まで亡くしながら必死で働いたにも関わらず、結局店も取り上げられ、夫も追い込まれた。本部はまったく血も涙もない、とんでもない会社だとわかった。本当に許せない。少しでも加盟店の働きに報いる気持ちがあるなら、その行動を取って欲しい」

なお、敏雄さんは、同年7月11日、遺体で発見された。死後数日が経過しており、死因は不明である。

皆さんはどう思うか。これを「自己責任」と切り捨てられるだろうか。「ドミナント戦略」で地獄に追いやられたことは、自己責任の範疇に入るだろうか。私はそうは思わない。ドミナント戦略自体、コンビニ会計をはじめとする異常な搾取構造があるからこそ成り立つものである。

コンビニ本部の利益は、オーナーとその家族の命を削って生み出されていると言うべきである。こんな状況を、許しておいて良いだろうか。

■搾取のしわ寄せ「ブラックバイト問題」

フランチャイズの中ではコンビニが代表格であるが、フランチャイズを利用した多店舗展開は、小売、飲食、介護、学習塾等、あらゆる業界に見られる。いずれも本部が多額のロイヤリティをオーナーたちから搾り取る仕組みがあることは共通している。

この過剰な搾取のしわ寄せを受けるのがアルバイトであり、いわゆる「ブラックバイト問題」が発生している。ブラックバイトとは、ブラックバイト問題を専門に扱う労働組合であるブラックバイトユニオンの定義(広義)によると「学生の無知や立場の弱さにつけこむような形での違法行為が当たり前となっているアルバイト」のことである。

残業代不払い、パワハラ・セクハラ、退職妨害等が横行する点は今までのブラック企業問題と共通する。

私が実際に担当したある飲食店の事件では、休みなしでの4カ月連続勤務の強制や、残業代不払い・暴行・脅迫が発生していた。条件が悪く、みな辞めていってしまうので、おとなしく従順なアルバイトに狙いを定め、暴行・脅迫で縛り付け、辞められないようにしていたのである。

被害者は毎日のように暴行や暴言を吐かれ、「辞めたら家族に数千万円の損害賠償請求をする」等と言われていた。その被害者の前にも、似たような立場に追いやられたアルバイトがいたが、結局もたなくなり、店を辞め、大学も辞めてしまったという。

■暴行、脅迫、正常な思考力が奪われ…

被害者は社外労働組合に駆け込み、店を辞めることができたが、そうしていなければ、どうなっていたかわからない。アルバイトのせいで授業に出ることもできず、単位が取れていなかったからである。助けを求めなければ、大学を辞める羽目になっていたかもしれない。

「嫌なら辞めればいい」という考えは、被害の当事者ではないから言えることである。暴行・脅迫で正常な思考力を奪われる場合はもちろん、「お前が辞めたら店が潰れる。それでもいいのか」等と言われたら、心情的になかなか辞めることはできない。現在「退職代行」業者が流行しているのも、そういう心理を持つ労働者がたくさんいることを示している。

なお、法律的には、無期契約の場合、原則として2週間前に言えば辞めることはできる(民法627条1項)。有期雇用契約であっても、「やむを得ない事由」がある場合は、同様に辞めることができる(同法628条)。残業代が支払われず、長時間労働を強いられている場合や、パワハラ・セクハラの被害を受けている場合は「やむを得ない事由」があると言ってよい。

また、「辞めたら損害賠償請求してやる」という脅し文句は非常にポピュラーなものだが、損害賠償責任が認められる場合はまずないと言ってよい。辞めるだけで何か会社に損害が発生するなら、そのような脆弱な体制にした経営者に責任があるのであり、労働者側には何の落ち度も無いからである。

■温床となっているフランチャイズ店

このブラックバイト問題であるが、私が直接見聞きした事案は、飲食店、コンビニ、学習塾等である。すべてに共通しているのが「フランチャイズチェーン」であること。

明石順平『人間使い捨て国家』(角川新書)

本部にロイヤリティを搾り取られるので、利益を確保するため、アルバイトの人件費を無理やり抑え込むという構造になっている。フランチャイズのいびつな構造が是正されない限り、ブラックバイト問題が無くなることは無いであろう。

とはいえ、アルバイトから搾取していることを繰り返していると、さすがに人が集まらなくなってくる。そこで、人手をたくさん必要とする労働集約型産業(介護、飲食、小売、製造等)が触手を伸ばしているのが、外国人労働者である。

みなさんも特にコンビニや飲食店で外国人労働者をよく見かけるであろう。低賃金で使い潰せる日本人労働者が足りないので、外国人労働者にも手を伸ばしたのである。

----------
明石 順平(あかし・じゅんぺい)
弁護士
1984年、和歌山県生まれ、栃木県育ち。弁護士。東京都立大学法学部卒業、法政大学法科大学院修了。主に労働事件、消費者被害事件を専門に弁護を行う。ブラック企業被害対策弁護団事務局長。
----------

(弁護士 明石 順平)