ネット掲示板の投稿で、名誉を傷つけられたとして、都内の不動産会社が、ソフトバンクを相手取り、発信者情報の開示をもとめた訴訟で、東京地裁は昨年12月、氏名や住所、メールアドレスだけでなく、「ショートメッセージサービス(SMS)」のアドレスとして、携帯電話番号の開示も命じる判決を下した。

プライバシーや表現の自由の観点から、発信者情報は正当な理由がないと開示されないことになっている。開示される場合も、総務省令で、氏名や住所、メールアドレスなどに限られており、携帯電話番号は含まれていなかった。

そのため、非常にまれな判決といえるが、ポイントはどこにあるのだろうか。インターネットの法律にくわしい最所義一弁護士に聞いた。

●あくまで「SMSメールアドレス」の開示が認められた

まず、重要な点なのですが、正確には携帯『電話番号』の開示が認められた、というわけではありません。

あくまでも、『SMSメールアドレス』が、開示対象となる「電子メールアドレス」(プロバイダ責任制限法の発信者情報を定める省令第3号)に含まれるとして、裁判所が開示を命じたというのが、正確な表現になります。

総務省令は、開示の対象となるものを列挙していますが、その中に『電話番号』は含まれていません。

そのため、プロバイダ側は『SMSメールアドレス』の開示は、開示対象とされていない携帯『電話番号』の開示そのものであるから、開示対象とされている『電子メールアドレス』には該当しないとして、『SMSメールアドレス』の開示は認められないと主張していました。

ただ、実質的に、携帯電話番号が『SMSメールアドレス』の一部として利用されていたとしても、それは、事実上の話であって、法的に『SMSメールアドレス』=『携帯電話番号』とみなされるものではありません。

そのため、『SMSメールアドレス』の開示が認められたとしても、開示対象となっていない携帯『電話番号』の開示を認めたということにはなりません。

たしかに、総務省が、携帯『電話番号』を開示対象とすべきではないと考えていたことは事実でしょう。

その意味では、事実上とはいえ、実質的に携帯『電話番号』が判明してしまうこととなる『SMSメールアドレス』の開示は認められるべきではない・・・このように、総務省が考えていたというのも、あながち間違いではないのだろうとは思います。

ただ、当然のことですが、省令は、法律の委任を受けて制定されるものですから、総務省がどのように考えていようが、法律に違反した内容のものを定めることはできません。

今回のケースでは、省令において開示対象とされている『電子メール』に『SMSメールアドレス』が含まれるのかという点が、正面から問題とされました。

●複数の条文を順番に確認していくと・・・

裁判所の理屈は、非常に単純です。複数の法令の条文を順番に確認していくと、『電子メール』に『SMSメールアドレス』が、当然に含まれることがわかります。

その過程は、条文『解釈』というより、より単純な、条文『操作』あるいは、条文『確認』と言ったほうが良いかもしれません。法令の流れを追うと次のようになります。

(1)総務省令に開示対象として『電子メールアドレス』との記載があるが、『電子メール』そのものについての定義はない。↓(2)根拠法令であるプロバイダ責任制限法(プロ責法)を確認すると、3条の2第2項に『発信者の電子メールアドレス等(公職選挙法142条の3第3項に規定する電子メールアドレス等をいう)』と定義されている。↓(3)公職選挙法142条の3第3項に『電子メール(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律2条第1号に規定する電子メールをいう』と定義されている。↓(4)特定電子メールの送信の適正化等に関する法律2条第1号に『電子メール 特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器・・・・であって、総務省令で定める通信方式を用いるものをいう』と定義されている。

ここで、電子メールについて、『総務省令で定める通信方式を用いるもの』と言っている。↓(5)そこで省令を確認すると、次のように記載されている。

『特定電子メールの送信の適正化等に関する法律2条第1号の総務省令で定める通信方式は、次に掲げるものとする。

一 その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式

二 携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式』

このように『電子メール』に『電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式』である『SMSメールアドレス』が含まれていることが明らかとなります。

要するに、条文を一つ一つ追いかけて読むと、『電子メール』に『SMSメールアドレス』が含まれていることは明らか、というより、そうとしか読めません。

●「ごく当たり前の読み方だった」

ごく当たり前の読み方を、裁判所に対して示したところ、裁判所もそれを認めた・・・これが今回の判決になります。

SMSメールアドレスの開示ですが、今回の判決以前にも認められたケースはあります。

ただ、正面から、この点が争点となって争われたケースで、裁判所が明確にみずからの判断を示したというものは、今回のケースが初めてだと思います。

近年、セキュリティの観点から、2段階認証をおこなう際に、SMSメールアドレスが利用されているケースが多くあります。

2段階認証で、本人確認のために、SMSメールアドレスが利用されていることからも明らかなように、発信者の正確な特定には、SMSメールアドレスは極めて有用な情報です。

また、プロバイダとしても、必要な情報として、SMSメールアドレスの情報を保有するケースが増えていますので、発信者の特定に至らないというケースを減らすこともできると思います。

その意味でも、今回、地裁が『SMSメールアドレス』が『電子メールアドレス』に含まれると判断したことの意義は極めて大きいです。条文の素直な読み方を説明(発見)した原告代理人の功績は非常に大きいといえるでしょう。

【取材協力弁護士】
最所 義一(さいしょ・よしかず)弁護士
東京大学農学部農業工学科(現生物・環境工学専修)を卒業後、IT技術者や病院事務職(事務長)を経て、弁護士に。一般企業法務や知的財産問題のほか、インターネット関連のトラブルの解決に精力的に取り組んでいる。
事務所名:弁護士法人港国際法律事務所湘南平塚事務所
事務所URL:http://minatokokusai.jp/office/hiratsuka/