このころテレビや新聞、雑誌などで取り上げられている問題に、通販サイトの不正レビューがあります。

高評価のレビューを大量に付けることで、ライバルよりも良い製品であると認識させ、購入へと持ち込む手法は、ここ数年、すっかり定着しています。また"二重価格"と言われる、販売実績のない価格を基準にした"○○%オフ!"表示も多数見かけますね。

そんなことわかっているよ! と思うかも知れませんが、実は看過できない問題でもあります。なぜなら、不正を行っていない真っ当なメーカーの製品が、検索の下位に沈んで売れなくなるという現象が起きているからです。

棚に並んでいるもののなから選ぶのではなく、検索などの切り口からリストを見て製品を購入する通販サイトでは「いかに目立つか」が勝負の分かれ目。その部分で不正が横行すると、わたしたち消費者自身も「何を選べばいいのか」がわかりにくいだけでなく、「本当に欲しい商品」へとたどり着くための手間が多くなってしまいます。

とりわけ「Amazon.co.jp」は不正レビューによる問題が根深く、単純に「そんなのに騙されるのが悪いのでしょ?」とは言えない状況があります。 この不正レビュー問題はかなり根深く、実に多岐にわたる問題を内包しているのですが、今回の記事ではその背景と"なぜEngadget読者にとっても重要なのか"についてお話ししてみましょう。

"工場を持たない"ガジェットブランドがお手軽出品

実はAmazon.co.jpにおいて、不正レビューで売上げブーストを図るブランドが多いのには理由があります。日本のAmazonは、深センなど中国のデジタルガジェット生産地にあるファブレスメーカー(自社では工場を持たないメーカー)が、極めて簡単な手続きで出店しやすいうえ、ちょっとしたテクニックで売上げを加速させることができるからです。

他国にもAmazonは進出していますが、日本は突出して中国のファブレスメーカーが出品しています。日本語ができる中国人が多いことや地理的な近さもあるのでしょうけれど、日本のAmazonが提供する流通サービス(Fulfillment By Amazon:略称FBA)は出品者(セラー)が登録するための基準が甘く、日本に拠点を持つ必要もありません。

このため、出店者(出品者・セラー)としての登録を失ったり、あるいはAmazonへの出品を製品ごとに取り消されたりしたとしても、ダメージをほとんど受けることなく再登録を(セラーとしても、また製品単位でも)繰り返すことができます。不正をすることで得られる利益と、不正に対する罰のバランスが取れていないため、ズルをした方がお得......な状態なんですよね。

実際、日本での不正レビュー商品、あるいはよく似たガジェットが多数のブランドで急増した背景には、商品の返品先が国外になっているセラーでもFBAを利用できるようになったことが挙げられます。

FBAを使えば商品の在庫や発送、返品管理など、流通に関わるほとんどの業務をAmazonが代行してくれます。以前は国内に返品先(Amazonにメーカーが預けている在庫の返品先)がなければ利用できなかったため、海外の会社がFBAを利用するには一定のハードルがありました。

ところが、返品先が中国だとしてもFBAが利用できるようになり、大規模なガジェット生産地である深セン地区を中心に、工場を持たないどころか倉庫さえ日本に持たないファブレス、倉庫レスのブランドが大量発生したわけです。同じようなブランドは電子ガジェットだけではなく、スポーツ用品やスポーツウェアなどでもありますよね。

"工場を持たない"と書きましたが、実際にはそもそも"商品開発部門さえ持たない"のが普通です。人気商品ジャンル......たとえば、現在ならワイヤレスイヤホンなどのデジタルガジェットを生産する業者がいて、一定以上の数をオーダーするとメーカー名をマーキングし、好みの色で製品を作り、パッケージもカスタマイズしてくれるからです。

ファブレスメーカーは、たくさんの候補の中から選び、それらの製品を自分たちのブランドで販売する、いわば現代のセレクトショップのようなものとも言えるでしょう。

不正レビュー問題の根深さ

"不正レビュー問題"というと違法性や質の低い商品を売り付けるイメージを持つかもしれません。しかし近年、そのようなことは希です。中国・深セン地区生産されているデジタルガジェットは、どれもそこそこの品質を備えています。

実際、私自身もSound Peatsと並んで人気のワイヤレスイヤホンブランドDUDIOSの「Tic」という完全ワイヤレスステレオ(TWS、True Wireless Steleo)を評価したことがあります。Amazonレビュー投稿はしないレビュー内容は監査を受けない報酬はもらわないその際は上記の条件で送ってもらいました。

約束なのでYouTubeにも掲載しましたが、音質はかなり"まとも"なんです。単純に商品として捉えた場合、低い質感やタッチ操作の不確実さなどもあり、一流とは言えないものの、決して粗悪品ではありません。

一方でAmazon.co.jp上での表記は、消費者に対してフェアなものになっているとは言えません。

たとえば、ある製品について話をしましょう。違法なわけではないので、具体例を挙げるのではなく、あくまで仮名で進めます。

ある完全ワイヤレスステレオイヤホンは、本来の価格が2万1800円にも関わらず、取材時点では2400円で購入可能でした。音質や機能は大きな問題がないため、「低廉だけど必要充分な音質を備えるお買い得製品」となるでしょう。本当にIPX7など防水に対応しているかは試すことが難しいため、基本的にレビューでは評価できません。

定価は2万1080円に対し、81%オフとありますが、Amazonの価格を追跡するサービスを利用してみると、もっとも高価だった発売直後でも4600円でした。現在は3999円で、さらに1599円のクーポンが発行されているため、実質2400円で購入できるという仕組みです。


▲前述製品の価格追跡グラフ。定価2万円超える製品価格設定にもかかわらず、一度も4600円を超える価格では売られていない。それだけでなく、クーポン併用で実質的な価格は2400円

これは明らかな二重価格(正確に言えば三重価格)ですが、この商品には「バリエーションモデル」というテクニックが使われています。バリエーションモデルとは、ある商品の「派生版」を同じ商品の括りとして登録できるAmazonの仕組みで、以前に作った評価の星数をそのまま引き継げてしまうというものです。

派生モデル登録の悪用でいくらでも評価は引き継げる

今回調べた商品は、2018年から販売され、それなり多くの評価を得ている製品に、新たなバリエーションが生まれたという建て付けで、デザイン、そしておそらく設計・生産元も異なる製品を登録し、評価を引き継いだまま新製品として売り始められるのです。


▲バリエーションとして登録するとまったく異なる製品でもレビュー結果を引き継げる。製品ジャンルの変更さえも可能

実はこのテクニック、「同じカテゴリの製品」だけで使えるものでもありません。「後継モデル」として登録する際に、まったく異なる商品に入れ換えることすらできてしまうのです。たとえば別のあるUSB Type-Cケーブルでは、クリアボトルやバスタオル、PCキーボードなどのレビューが国内外入り交じり、いったいなんの製品なのか意味不明でした。

ネットでこうした問題商品が話題に上がるとAmazon自身がコメントの削除を行っているものの、抜本的な改善には期待できない状況です。何が理由でコメントが消されたのかわからないうえ、有効な評価がなくなったとしても商品ページ、出品者アカウントともにそのまま。単価が安くシンプルな機能(ケーブルは典型例です)の場合、消費者は星の点数やレビュー数は見ても、実際にレビューの中身までは見ないことが多く、騙されてしまう人も一定数はいるのでしょう。

ところがさらに突きつめていくと、MFi(Made for iPhone)認証を取得していないにもかかわらず、取得しているかのように見える(見せている)商品もあります。近年、AmazonはタイトルでMFi取得を謳う製品を取り締まるようになりましたが、商品写真にMFiロゴを紛れ込ませるテクニックまでは取り締まれていません。


▲ランキングで約3万8000位の旧モデルが持っていた評価を引き継ぎ、二重価格とクーポンなどを使ってブースト。その結果、一気に4000位台まで引き上がっている

なぜこの話が"僕ら"に関係あるのか

どんな商品であれ、安くそこそこのものが手に入るならいいんじゃない? と思うかもしれません。実際、返品・返金のリスクはあるため、本当に品質の悪い製品では、海外セラーも大儲けなんてできません。

「製品に問題がなければいいじゃない」

しかし話はそれほど単純なことではありません。

MFiの詐称は本当にごく一部の不正であり、たとえばモバイルバッテリーの刻印だけを変えて古い型の粗悪な電池を大容量モデルに見せかけ、電源の安全性が確保されていない製品が元で発火するといった事件も起きています。

たとえば2017年11月、クルマのジャンプスターター機能を持つモバイルバッテリーが充電中に発火し、火災が起きるという事件がありました。Amazonなどのプラットフォーマーは、セラーに対して機会を提供しているだけであるため、こうした事故では製品製造者に責任追求するための情報提供を積極的には行ってくれません。

実際、上記の例でプラットフォーマーは弁護士を通しても、販売者の詳しい情報を教えてくれなかったそうです。いや実のところ、詳細を把握できていないのでしょう。

なぜなら、Amazonへのセラー登録はとても簡単に行えるからです。もし、問題を起こして出品を取り消されても、同じ製品を別途登録できますし、たとえセラーとしての登録を消されても、また新たなセラーとして登録すればいいだけだからです。

そう考えると、何を信頼していいのかわかりませんよね?

そのイヤホン、防水と書かれているけれど、本当に防水なのでしょうか? Amazonも、レビュアーも信用できません。音が満足できれば充分? 結局は値段が安ければ許せてしまうのでしょうか。だんだんただの不正レビュー問題じゃなさそうだぞ? と感じてきた人もいるでしょう。

そして実のところ、こうした直接的な影響以上に困るのが、間接的な影響で「悪貨が良貨を駆逐する」という現象が起きています。

Amazonのアルゴリズムを使った、簡素なハッキング

ハッキングと言えるレベルではないと思うでしょうけれど、不正レビューを平気で行うセラーは、常日頃からAmazonのアルゴリズムを活用しています。

「Amazon's Choice」は売上げ数や評価の星、コメント数など多様な要素をみて決定されます。そこにAmazonの人為的な操作はありません。言い換えればAmazonのシステムを誤認させれば、Amazonの推奨品に仕立て上げられるわけです。

Amazonに限らず、現代のECプラットフォームは多様なアルゴリズムで推奨製品が決められることが多いのです。しかし、アルゴリズムに入れるパラメーターが操作されていれば、どんな結果が起きるでしょう?

どんなにアルゴリズムを調整しようとしても、入力するデータに不正があれば結果は違ったものになります。不正レビューの投稿パターンなどを工夫して、Amazon 's Choiceを獲得していたり、信頼できないセラーなのにPrimeマークが付いていたりする状況で、何を頼りに消費者は製品を選べばいいのでしょうか? 検索で発見される順番さえも、簡素なハッキングや大量の類似製品の出品で、公正な出品をしているセラーの製品が埋もれています。

こうした簡素なハッキングは、ネガティブキャンペーンでも使われていることがわかっています。しかも、ものすごく単純です。

単に不満を漏らしているコメントに大量の「役に立った」ボタンを押して、コメントを目立つ位置に引き上げるだけ。こうしたことが繰り返されて起きているのは、品質の管理をしっかりと行い、スペックなども詐称していないブランドの売上げ低下です。Amazonへの依存度が高いブランドは、軒並みこの問題で苦しんでいます。

この問題は、それぞれのセラー、ブランドが、自身で別のプラットフォームへと軸足を移すなど、対策を図るべきものですが一方で、我々消費者も、ECプラットフォームをどう使いこなすのか、あらためて考え直す必要があるでしょうね。