香川県では子どものネット・ゲーム依存問題に対し「ゲーム」を規制する条例を検討。なぜ行政が規制する必要が出てきたのか(写真:Blue flash/PIXTA)

「子どもが中2になってから1度も学校に行かない。毎日ゲームをして昼夜逆転の生活を送っている。成績が落ちたことで(母親である)私とぶつかり、逃避みたいにしてゲームにハマってしまった。本人は『もう卒業も無理』と思い込んでいる」

私が講演で回った中学校で相談された事例の最多は、「ゲーム依存」と言っていい。ゲーム依存で不登校になっている生徒は各学校に最低1人以上おり、不登校にまでならずとも予備軍の生徒も複数名いた。中には、はるばる他県までネット依存外来に通い始めたという生徒もいた。学業不振や友人との不和などから逃避的にゲーム依存、不登校となった生徒のほか、ゲームにハマりすぎることで結果的に不登校になった生徒もいる。

「テストの前なのに遅くまでゲームをやっていたらしい」「学校でいつも眠そうにしている」という話は何度も耳にした。ゲーム関連のトラブルの多くは男子生徒だ。以前取材した教員は「休日は1日10時間とか12時間遊んでいるという生徒の話はよく聞く。平日でも夜中まで5、6時間くらいはやっているようだ」と言う。

香川県はなぜ「ゲーム」を規制するのか?

2020年1月9日、香川県はスマートフォンやゲーム機の利用を制限する「ネット・ゲーム依存症対策条例」(仮)の素案を明らかにした。4月の施行を目指しており、制定されれば全国初となる。大阪市の松井一郎市長も、スマホの使用時間をルール化することも視野に、実効性ある対策を検討するよう市の教育委員会に指示している。

このような動きに対して、ネット上では賛否両論のようだ。今注目を集めるネット・ゲーム依存問題について見ていきたい。

香川県の法案には、ゲームとスマートフォンの利用時間制限が盛り込まれている。具体的には、コンピュータゲームに対して「18歳未満の使用時間の上限は平日は1日60分、休日は90分」と設定。また「スマートフォン等の使用時間帯は中学生以下は午後9時まで、高校生は午後10時まで」としている。ただし、努力義務はあるが罰則規定などはない。

大阪市内の旭区でも、2014(平成26)年にスマホやゲームを午後9時以降は使用しないなどのルールを決定している。しかし、市教委として統一したルールなどはなく、ルール化しても罰則や制限強制などは難しいという。

制限反対派には、「制限は家庭がするもの」「行政が家庭に介入して制限すべきではない」という声が多いようだ。確かに、子どもにスマホやゲームを持たせるのも、制限できるのも保護者しかいないし、「行政が家庭に介入」と考えれば警戒心を抱くのは当然だろう。

実質的な強制力は持たないにもかかわらず、なぜこのような条例が検討されたか。背景として、小中学生の保護者の多くが子どもの「ゲームのやりすぎ」または「YouTubeの見すぎ」を悩んでいる実態がある。

「いくら注意してもやめない。どうしたらやめさせられるのか」と真剣な顔で相談してくる保護者はあまりにも多い。ある保護者に制限案について聞いたところ「それで子どもが(利用時間を)守ってくれるならいい」と言っていた。

2014年にも、愛知県刈谷市が市内の小中学生を対象に、午後9時以降は携帯電話・スマートフォンの利用を禁止している。子どもが夜中までLINE対応に負われることを言い訳として、スマホを使わないようにするのを目的にしたという。

このときは、「学校が決めてくれたほうが子どもに守れと言いやすい」と保護者の9割以上が賛成。中学生へのアンケートでも、「勉強に集中できるようになった」(29.0%)、「睡眠時間が増えた」(19.3%)、「精神的に楽になった」(4.8%)などと全体に好評だった。自治体がゲームを規制するのは「学校などがルールを決めて規制してくれたら助かる」という保護者が一定数いることも理由だろう。

同時に、確かに制限できるのは保護者だが、問題があったときは学校に問題が持ち込まれやすいことも影響していると考えられる。ゲームのやりすぎで子どもが不登校になっても、LINEのやり取りでトラブルが起きても、解決を求められるのは学校や教員だ。だからこそ、自治体が条例という形で提案せざるをえなかったのではないか。もちろん、制限をしない保護者に対するメッセージという側面もあるだろう。

韓国や中国も「規制」に力を入れている

ほかのアジアの国も、未成年のネット利用をすでに規制している。韓国では、16歳未満のユーザーは午前0時から6時までオンラインゲームを禁止する「青少年夜間ゲームシャットダウン制」を導入している。中国でも、18歳未満の子どもは夜10時から朝8時までオンラインゲームを制限し、平日は1回につき90分、休日は3時間以内などに制限する指針を発表している。

どちらもオンラインゲームのみを対象としたものだ。ところが、日本の場合はオンラインゲームに限らず、ネットやスマホの利用全般が制限対象となっていたり、少なくともそのようにとらえられるものとなっていた。この部分に対して、「インターネット利用を制限する弊害が大きい」と反対している人が多かったため、香川県の条例案は当初の「スマートフォンやゲームなどの利用時間を制限」するものから、対象がゲームのみに変更された。

経済協力開発機構(OECD)の国際学力調査「PISA2018」を見ると、日本の15歳の学生たちは、「チャット」「1人用ゲーム」「多人数でのオンラインゲーム」などの利用はOECD平均より利用率が高い一方で、「宿題や学習などでの利用」は逆に低くなってしまっている。

そもそも、子どもの間ではスマホによる消費目的でのインターネット利用が増えており、生産的な活用はほとんどできていない。単純なスマホ・インターネット利用制限は、より一層この傾向に拍車をかける危険性もある。香川県が利用時間制限の対象に関して、インターネット規制と間違われやすいスマートフォンをコンピュータゲームに変更したのは、妥当な判断だったのではないだろうか。

「ゲーム障害」から抜け出すのは超困難

ゲームの長時間利用には悪影響があることがわかっている。2019年11月、厚生労働省の補助事業として国立病院機構久里浜医療センターが10代、20代男女を対象に「ゲーム障害」についての実態を調査したところ、「6時間以上」の人は、学業や仕事に悪影響があったり、心身に不調を感じてもゲームをやめられない傾向にあった。

「学業や仕事に影響が出てもゲームを続けた」(24.8%)、「腰痛や頭痛など体の問題があっても続けた」(40.5%)、「睡眠障害や憂鬱など心の問題が起きても続けた」(37.2%)など、明らかに問題が大きいことがわかる。長時間利用によって実生活や心身に弊害があり、弊害が生じてもやめられないことが1番の問題なのだ。

オンラインゲームは、対戦したり協力プレイするなど、相手がいることが依存を促進させると言われている。同時に、スマートフォンでいつでもどこでも遊べることも、コントロールを難しくしている。

オンラインゲームの依存性の高さは事実であり、子どもだけでコントロールするのは困難だ。また、1度自由に使い始めると、後から制限をかけるのが難しくなる。使い始めの時期に利用時間についての約束を決め、制限機能なども活用しながら、保護者が利用時間をコントロールする手助けをしてあげてほしい。

子どもが、実生活や心身に支障が出ない範囲でコントロールしてネットやゲームを楽しめるようになることを願っている。