ロイヤルホスト川崎店」の外観(画像提供:ロイヤルホールディングス)

令和時代初の年明けとなった2020年は、以前と比べて世の中も変わりつつある。

その1つが「正月ぐらい休もう」という風潮だ。

これまで1月1日から営業してきた大手小売業や外食チェーン店でも、それを目指す取り組みが目立った。例えばスーパーの「イトーヨーカドー」や「ヨークマート」、コンビニの「セブン-イレブン」「ローソン」は一部の店での元日休業を実施した。東京都内の百貨店は例年どおり、ほとんどが1月2日「初売り」だった。

「接客対応者の確保が大変」「人件費が高騰している」「働き方改革に取り組まなければならない」など、理由はさまざまあるだろう。実施したなかには、大半の店で3年続けて元日休業を行い(2020年は219店中203店)、この年末年始は初めて大晦日も休業した、レストランの「ロイヤルホスト」(ロイホ)がある。

その結果はどうだったのか。ロイヤルホストの佐々木徳久社長に聞いた。

「何で休むのだ」という声はなかった

「元日休業は3年連続となり、休業に対する世の中の理解も深まったようです。お客さまから『何で休んだのだ』という苦情は届いていません。私どもの対応も進化させました。


店舗ではこうした貼り紙で告知した「ロイヤルホスト桜新町店」(画像提供:ロイヤルホールディングス)

以前は告知が不十分の店もあり、例えば入口が2階にある店は『階段を上がっていったら休みだったじゃないか』とお叱りも受けました。そこで公式サイトやメールマガジンの配信、店の駐車場や入口、2階の店なら階段の下など、さまざまな場所に事前に貼り紙なども用いてお知らせしたのです」

佐々木氏はこう説明する。休業への苦情がなかったのは、「ガスト」「ジョナサン」などの店舗ブランドを持つ、競合のすかいらーくホールディングスが、年末年始の時短営業(全店舗の約8割にあたる2700店で大晦日は18時で閉店、元日は12時に開店)を行い、ロイホとも比較してメディアが報じたことも手伝ったようだ。

佐々木氏は、「実は今回初めて、大半の店で大晦日も休みましたが、2日連続休業というのは大変な取り組みだったのです」と本音を明かす。どういうことか。

「48時間利用しないため、食材の中には食品衛生上、保存できないものもあり、そうした食材の在庫はゼロにしなければなりませんでした。今まで経験がないので、再開後、安全・安心な飲食がスムーズに提供できるよう、実は半年ほど前から対策チームを立ち上げて、シミュレーションも行っていたのです」

早くから準備したかいもあり、物流面を含めて総じてうまくいったが誤算もあった。

「1月2日にお客さまから『今日はやっていますか?』という電話が殺到し、その対応に追われた店も多かったのです。そうした点も含めて今後の課題にしたいと思います」

再開後の2日から5日まで売り上げも約1割増、人員確保も問題なく配置できたという。

「久しぶりに親戚に会えた」料理長もいた

今回の取り組みには、働き方改革もある。店舗スタッフの感想はどうだったのか。


ロイヤルホスト社長・佐々木徳久氏(撮影:ヒダキトモコ)

「2日連続して休めるので、新幹線で実家に帰った店長もいました。料理長の1人は帰省し、『久しぶりに家族や親戚にも会えた』と喜んでいましたね」(佐々木氏)

佐々木社長自身は例年どおり、元日も営業する一部の店舗を回った。外食の経営者にはこうした人が多く、「お客さんに、店で甘酒を振る舞うのが元日の行事」と話す他社の社長もいた。

それまでロイヤルホストは、従業員に金銭で報いてきた。大晦日と元日に出勤した店舗スタッフは、2018年から社員もアルバイトも「時給(日給)35%増し」だったという。

一方で働き方改革にも取り組む。「各店舗に調理人を置き、店でひと手間かける」が持ち味だが、店内作業の一部機械化も進め「ひと手間」の中身を細かく見直してきた。

ビジネス現場で話題になる言葉に「誰も幸せにならない」がある。例えば、元日から営業する飲食店は便利だが、お客が殺到すると、限られた人員でこなす店はパニック状態になる。

接客業なのに顔を引きつらせながら対応するスタッフ、なかなか注文を取りに来ず、飲食の提供の遅い店にイライラするお客――という構図だ。こうした経験はないだろうか。

現時点では、同社の年末年始休業は、お客にも従業員にも「納得」されているようだ。

最近の注力商品はステーキ

年末年始に人気を呼んだ、ロイヤルホストの限定メニューに、例えば「黒毛和牛ZEN 和牛ステーキご飯&海老と帆立のあつあつグリル(小)」と「サーフ&ターフ 〜オマール海老とアンガスサーロインステーキ〜」がある。


(上)「黒毛和牛ZEN」、(下)「オマール海老とアンガスサーロインステーキ」(手前はステーキ225グラム、奥は同100グラム)(画像提供:ロイヤルホールディングス)

前者は、和牛ステーキ60グラムが乗ったご飯、海老と帆立のあつあつグリル小など(2480円+税。一部店舗は2530円+税)。後者は、ステーキ100グラム(2480円+税、一部店舗は2530円+税)と同225グラム(3480円+税。一部店舗は3530円+税)をそろえた。

同社は中期計画で「ステーキメニューのブラッシュアップ」を掲げており、年明けに店で「令和二年 新春のご馳走」というメニューを開くと、ステーキが多く表示されていた。これ以外にハンバーグメニューも人気だという。

業績は好調だ。2019年(通年)は対前年比で、年間売上高=103.7%、来客数=100.0%、客単価=103.6%を記録した。好調の原因を佐々木氏に聞いてみた。

「いろんな方に、使い勝手がよいのだと思います。お客さまの行動特性はさまざまで、例えば14時過ぎに1人で来られる常連の個人事業主の男性もおられれば、銀座の店では18時頃に女性が1人で来られて、ワインを飲みながらステーキを楽しまれる。休日の郊外店は3世代で来られて、祖父母が子どもと孫の一家にごちそうする光景もよく目にします」

2016年に社長に就任した佐々木氏は、それまでは取締役営業本部長だった。大学時代から府中店などでアルバイトを始め、キッチン研修も経験。卒業後に入社し、現場作業も管理業務も経験してきた。社長就任後、強みを生かせるメニューとして「ステーキ」に注力したという。現在は100グラム、225グラム、450グラムの3種類の分量の肉を提供する。

「調理職ならチルド(冷蔵)で運ばれた肉を店で切る、野菜も店で切る。これらは、おいしさの追求として『店でひと手間かける』部分として残しています」(佐々木氏)

今でこそ好調なロイホだが、2000年代には「サイゼリヤ」などの低価格路線に押されて低迷した。15年連続して既存店が前年割れするなど業績は悪化し、運営方針も迷走。一時は調理人採用も凍結した。

2007年には当時の首席料理長・田島澄夫氏(故人)が、経営陣に「料理の味を守るためにコックを育ててほしい」と詰め寄り、それが受け入れられずに退社する騒動もあった。2011年に矢崎精二氏が社長となり、田島氏は「料理顧問」として復帰。ここから新経営陣は「ロイヤルホストブランド」を見直し、業績回復につなげていく。

低迷していた2000年代、同社が消費者アンケートをした際に、こんな回答があった。

「ロイヤルホストは、元カレです」

かつては愛したが、今は気持ちが離れた。でも心底から嫌いになったわけではないという意味のようだ。一方、最近のSNSでは「東京ディズニーシーのレストランみたい」というコメントもあった。こちらはレトロで少し本格的という意味だろうか。

「御三家」が通用する時代ではない

かつてロイヤルホストは「ファミリーレストラン御三家」と呼ばれた。ほかの2つは「すかいらーく」と「デニーズ」だ。

だが、こんな意識で商売ができる時代ではない。多くの業界で「御三家」は過去の話となった。例えばシティーホテル御三家は「帝国ホテル」「ホテルオークラ東京」「ホテルニューオータニ」といわれたが、今や国内資本だけでなく外資も入り乱れて集客を競い合う。

佐々木氏に「自宅の食事とは違い、外食店がお客に約束することは何か」を聞いてみた。

「いい時間を過ごしていただくことだと思います。飲食がおいしい、店が清潔、接客が心地よい、それとお客さまの楽しみ方で『いい時間』になる。そのお手伝いをしたいですね」

低価格訴求も多い現在のファミレス業界で、ロイホが競合と一線を画すのは「上質感がある」ことだろう。前述したステーキの価格も安くはないが、「少し奮発して利用できる価格」だ。消費者心理も専門の筆者は、「脱日常」よりも「異日常」の時代性を感じる。

忙しく働いても収入が伸びない時代、サラリーマンのお小遣い調査(新生銀行調べ)などの数字も、男性会社員で月3万6000円台となっている。

そんな時代に、例えばステーキ店なら、目の前の大きな鉄板で調理人が細かくカットしてくれる高級店は、多くの人には現実的ではない(非日常)。それよりも、自宅とは違う空間で1000円から2000円台で食事が楽しめる(異日常)。こちらを好む人も多いだろう。

ロイヤルホスト東京進出の成功モデルとなった「馬事公苑店」(東京都世田谷区)を1980年代に利用した筆者は、最近の復調を「1周回ってロイホ」だと感じている。先ほどの表現を借りれば、「元カレも意外に誠実でよかった」と再評価されたのではないだろうか。