「1005」

 1月19日、カンプノウで行なわれたグラナダ戦で、バルセロナが挑んだパスの本数である(うちパス成功は921本)。多くのチームは、1試合で500本前後のパスしか回せない。彼らはその2倍ものパスを回した。

 数字は数字でしかないが、象徴的でもある。

 エルネスト・バルベルデ監督の解任を受けて、新たにバルサの指揮官に就任したキケ・セティエンは、リオネル・メッシのゴールで1−0と勝利を飾っている。白星以上に、プレー内容の変化は如実だった。1000本を超えるパスは2012−13シーズン以来で、進むべき道を示した。

 ボール支配率はなんと82.6%だった。支配率が7割近くになると、一方的な試合という印象になり、相手チームはほとんどサッカーをしなかった感覚になる。ジョゼップ・グアルディオラ監督時代の2010年4月に記録した86.5%には及ばなかったが、久々に80%を超えた。

「できたら、もっと速くボールを回したい」

 セティエンは言う。ボールプレーで敵を打ち負かす――。バルサはその”御旗”を取り戻したのだ。

 バルサ指揮官としてのデビュー戦となったグラナダ戦で、セティエンは変則的な4−3−3を用いている。

 左サイドバックのジョルディ・アルバが左ウィングに近いポジションを取って、左上がりの陣形。メッシとアルバのコンビネーション攻撃は出色で、ストロングを生かした形だろう。右サイドバックのセルジ・ロベルトが中に絞るために、3バックのようにも映った。アルトゥーロ・ビダルが3トップとMFをリンクさせるプレーも特徴的で、3−3−1−3にも近かったか。

 セティエンは、ボール技術と連係力を用いて相手を圧倒した。

 攻守の切り替えの強度も顕著だった。ボールを握って攻めることが第一だが、失った瞬間、取り戻すためのインテンシティも徹底されていた。アントワーヌ・グリーズマン、アンス・ファティの2人は前線から激しく守備。すぐにボールを取り返すことで、カウンターを防いでいたし、ボールプレーの継続を実現させていた。

 先制点も、交代出場のリキ・プッチ(リカルド・プイグ)が果敢に敵陣深くまで追い、ボールを奪ったところから生まれている。


グラナダ戦の後半26分から途中出場したリキ・プッチ(バルセロナ)

「自分たちがボールを持っていれば、得点の可能性は増えるし、失点することもない」

 ヨハン・クライフがバルサに植え付けた攻守一体のプレースタイルを、セティエン・バルサはデビュー戦で取り戻した。

 得点は、エースであるメッシの1点だけだった。決定力の点では物足りない。相手選手が2枚目のイエローカードを受け、退場者を出すという”恩恵”も受けていた。しかし、バルサの攻撃が相手を、反則せざるを得ないほどに追い込んでいたのも事実である。

「我々はプレーをコントロールできていた」

 試合後、セティエンは語っている。

「グラナダ戦に向けて、『勇敢な戦いをしよう』と話していた。我々は後ろからボールを追うようなことはなかった。失ったら、強く奪い返した。その点、私は満足している。前半、4つの決定機を作って、それは決められたシーンだった。ただ、ゴールする、しないは、コントロールが難しい。(個人の)インスピレーションによるところだからだ」

 セティエン・バルサが、好スタートを切ったのは間違いない。予想以上の変化、改善があった。

 たとえば今シーズン、不振にあえいでいたセルヒオ・ブスケッツは、縦横に顔を出し、パスをさばき、チーム最多のボール奪取を記録し、別人のように見えた。バルベルデ監督時代は、バックラインまで下がらざるを得ず、プレーリズムを失ってミスを連発し、フォームを崩していた。グラナダ戦は相手のパスを分断する一方、攻撃でも簡単にラインを越え、プレーの渦を作っていた。

 そしてセティエン・バルサの象徴は、今シーズン初出場のプッチだろう。バルベルデ監督時代は、「フィジカルが弱く、バルサBで絶対的プレーを見せられていない」という評価で、トップ起用はほとんどなかった。しかしグラナダ戦では、ラ・マシア(育成組織)育ちの価値を示した。持ち前の技術とビジョンで、パススピードを上げていたのだ。

 セティエンは、バルベルデ時代からプレーモデルをガラリと入れ替えた。カウンター主体、フィジカル重視の流れを断った。すべてはボールありき。それはバルサの伝統と一致する。1週間足らずのトレーニングで成果が上がったのも、必然と言えるだろう。

「(グラナダ戦は)”私が望むバルサ”のたくさんの断片を見ることができた。チームを大きく変える必要などない」

 セティエンはそう言う。

 勝負は時の運。バルベルデ以上の成功を収められる保証はない。しかしバルサはバルサらしさを取り戻し、新たに船出した。