大学入試センター試験が1月18日、19日両日、実施される。今年は55万7699人が志願、全国の各会場で受験する。

そんな受験生たちを狙って痴漢をするよう呼びかける投稿がインターネットの掲示板やSNSで毎年のように現れる。「入試は遅刻厳禁だから、女子高生を痴漢し放題」「センター試験に遅刻できないから、痴漢しても我慢するので狙い目」といったものだ。

そこで、痴漢から受験生たちを守る活動「#withyellow」が始まっている。センター試験日に「黄色いもの」を身につけ電車に乗り、痴漢行為を見つけたら被害者を助けたり、通報したりするというもの。痴漢被害があった場所がネット上でわかる「痴漢レーダー」を開発した企業が呼びかけてスタート、誰でも参加できる。見守る人たちが連帯して、受験生に負担がかからないようするという。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「センター試験の受験生を狙った痴漢」うながす投稿に愕然

この活動は、痴漢レーダーの開発企業「QCCCA」(キュカ )のCPO、片山玲文さんが呼びかけてスタートした( https://www.voiceaction.net/ )。痴漢レーダーは痴漢被害に遭ったり、目撃した時に通報できるシステムで、2019年9 月にリリースされた。

リリース直後、痴漢被害についてネットで検索していた片山さんは、センター試験の受験生を狙って痴漢行為を促す投稿があることに気づいたという。

「掲示板やツイッターで、『センター試験の受験生なら痴漢されても泣き寝入りするはずだ』『●●線にみんなで乗ろう』という書き込みを見つけて、愕然としました。なんて卑劣なんだろうと。そこで、受験生を守るために何らかの行動を起こせないかと考えたのが、#withyellow でした」

方法は簡単で、黄色いものを身につけ、痴漢レーダーをインストールして電車に乗る。痴漢レーダーでは、「見守り機能」を新たに実装。近距離通信の技術を使い、痴漢被害者が痴漢レーダーで通報すると、近くのユーザーに届き、痴漢を警戒することができるという。

「痴漢の通知が届いたら、まわりを見回していただき、受験生を痴漢から助けてあげてほしいと思っています」

●水面下に多くの痴漢被害者

実際に過去の受験日に、痴漢被害はあったのだろうか。「私も被害者の方を探していましたが、なかなか見つかりませんでした」と片山さん。しかし、「#withyellow」の活動がニュースで報道されるようになると、実は試験日に被害に遭いました…とネットで告白してくださる人が少しずつ増えていきました」と話す。

痴漢レーダーは現在、登録者数が約5万3000人、被害レポート数は約2400件に及ぶ。「痴漢レーダーはスタートしてまだ半年ですが、すでに警察が発表している年間の被害件数約3000件に迫る勢いです。痴漢レーダーの利用者数はまだ少ないですが、仮に日本の人口で考えて推計すると、年間数十万件は痴漢が起きている可能性があります」

背景には、痴漢を捕まえて警察に通報することは、被害者の負担が大きく、泣き寝入りせざるを得ない状況がある。まして、センター試験という人生で大切な日に、受験生にそんな負担をかけたくないと片山さんたちは考えている。

「受験生には、不要な恐怖や不安を持って欲しくないです。『#withyellow』を通じて、被害者を痴漢から守ろうする第三者の目がこんなにあるんだという横の連帯を広げていきたい」

1月18日には、活動の支援者らが集まり、東京・渋谷でイベントも行われる。「センター試験をきっかけに、今後も春の入学式や入社式、夏祭り、ハロウィンのイベントなどでも、痴漢は絶対に許さないという活動に育てていきたい」

●もしも痴漢に遭って遅刻しても、試験は受けられる

しかし、それでも実際に痴漢に遭って遅刻してしまったら…。弁護士ドットコムニュースが独立行政法人大学入試センターに取材したところ、「もしも被害に遭って遅刻してしまっても、救済措置があるので、受験票に書かれた問い合わせ番号にまず電話して欲しい」という。

広報担当者は「仮に受験生が警察への聞き取りに協力して遅刻したということであれば、証明できるものを出していただいたり、試験場の大学から警察に事実関係を確認させていただきます。申し出ている通りであれば、当日に時間をずらして受験していただいたり、別の日に追試験するなど対応方法があります」と話している。