にわか投資家たちが持ち続ければ持ち続けるほど損する投資信託、見せかけの高配当株、格安だけど万年低位株を買いまくり......こんな「ざんねんなNISA運用」をしている人も

昨年6月に浮上した「老後2000万円問題」で、健全でオトクな資産運用法として、一気に注目が集まったNISA(ニーサ)。

これで日本人の「お金の教養」も一気に向上......と思いきやNISA口座における人気投資先ランキングを見てみたら妙な企業がいくつも含まれていた。

なぜこんな事態に?? 初心者が陥るワナを徹底解説!

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■「オトクな制度」と浸透はしたけど......

日本中の働く男たちが震撼(しんかん)した「老後2000万円問題」で、運用益が非課税になる資産運用法「NISA(少額投資非課税制度)」が、がぜん注目を集めたのは昨年6月。

しかし、それから半年たった現在、投資ビギナーが多いためだろうけど、NISAの本来の趣旨からかけ離れた"ざんねんな運用"があふれ返っているという。すでにNISAを運用している人にも、これから始める人にも貴重な「他山の石」となること間違いナシ!

以下、そうした具体例をのぞいてみよう。

【ケース1】持ち続けると損する商品を買っている

10月、SBI証券が発表する「ジュニアNISA」の週間買付額ランキング1位に「日経平均ダブルインバースETF」が登場し、ネット上は騒然となった。

これは、日経平均とは逆方向に2倍の振れ幅で動く、いわば"逆張り"の上場投資信託(投資信託を株のように上場させて手軽に取引できるようにした金融商品)なのだが、ではいったい、何が問題なのか。

以下、1級FP技能士の古田拓也氏に解説していただいた。

「正直、これが1位になっているという状況にものすごく驚きました。きっと、瞬間的な値上がり率が高かったタイミングで、何も知らない初心者が買ったのでしょう。

"ダブルインバース系"の商品は本来、相場の動きを読める上級者向けのもの。日経平均が下げそうなときのリスクヘッジとして短期的に使う投資先です。複雑になるので詳しく立ち入るのは避けますが、商品の設計上、長期で持っていれば必ず元本が目減りします。

ですから、長期投資が目的のジュニアNISAで投資するのにはまったく向きません。仮に2014年にある日経平均ダブルインバースETFを100万円分購入していたと仮定すると、2019年には元本は約17万円になっています」

「ジュニアNISA」は子供の長期的な資産形成を目的とする制度で、子供が18歳になるまで原則として途中解約できない。つまり、ジュニアNISAでダブルインバースETFに投資すると、お金がどんどん減っていくのを指をくわえて眺めているほかないのだ!

知らないうちに子供のための資産がごっそり減ってるかもしれないなんて、なんともざんねんすぎる......。


ジュニアNISA口座で(なぜか)人気No.1となった「ダブルインバース」は、長期では価格が下がり続ける、実は上級者向けの金融商品だ

【ケース2】高配当目当てで買ったのに即、減配に!

株価は"安め"なのに配当金は"高め"、つまり配当利回りの高い「高配当株」は、NISA制度の開始時から常に保有高ランキングの上位を占める。ところが最近、高い「配当利回り」に引かれて投資したら、程なくして配当金が減らされたという悲劇が続出している。

例えば11月、一時は6%超の配当利回りで人気だった日産自動車が、業績不振により中間配当金の減配(配当金を減らすこと)を発表した際は、ネット上に怨嗟(えんさ)の声があふれた。前年までひと株28.5円だった中間配当金は10円に、年間を通じての配当金は前年の57円から「未定」となってしまったのだから無理もない。

「配当利回りは配当金を株価で割って算出します。ということは、高配当株の企業は、配当金額に比べて株価が低調だということです。株価が低調なのは、株式市場がその企業のビジネスの見通しは暗いと考えている証拠でもあります。高配当株は意外とリスクが高いんですよ」

とはいえ、ケース1とは違い、高配当株への投資そのものがダメというわけではないと古田氏は言う。

「重要なのは銘柄選びです。高配当株を買うなら、配当性向(純利益から配当として支払っている金額の割合)が高すぎる銘柄は避けることです。配当性向が高すぎる企業は、今後なんらかの事情で業績が落ち込んだ場合に配当を維持することが難しくなります」

ほかのポイントは?

「配当を支払う企業が景気に左右されやすい業種かどうかにも注目しましょう。景気に敏感な企業は業績に波があるため、不景気時には減配しやすい傾向があります。ちなみに、日産のような自動車産業は景気に敏感な業種の代表格とされています」

配当性向や配当金額の推移はネットで簡単に調べられる。配当金に飛びつく前に、まずはググるべし!

【ケース3】とりあえず「格安株」を買ってみる

「低位株」などと呼ばれる、ひと株当たりの株価が安い銘柄もNISAのランキングでは常連だ。

例えばSBI証券発表の12月2日から12月6日にかけてのNISA週間出来高(売買された株の数)ランキングでは、2位はひと株当たり12円の企業で、3位はひと株当たり8円だ(両社の株価はいずれも6日の終値)。手を出しやすい値段な上に、「もしかしたら今が底値で、株価が上がれば大儲けできるかも?」なんて考える人も多いようだが、古田氏は「非常に危険な行為」だと言う。

「そもそも、両社のような極端な低位株がNISAを使った投資の対象になっていること自体がおかしい。株価が低迷している場合は、基本的には業績見通しが暗いことなどが理由なのですが、ひと株数円レベルの極端な低位株にはそれ以外の要因が絡んでいることもあるのです。

例えば、資金調達手段として社外の第三者に株式を乱発していたり、です。本来、第三者への株式の新規発行は既存株主の持ち株比率が減るため慎重にすべきことで、乱発するものではありません。

最悪の場合は、株式を乱発したせいで第三者に経営権を奪われ、事業や経営者がコロコロ入れ替わる『ハコ企業』となっているケースもありますから。そのような企業は、NISAの制度趣旨である『長期の資産形成』には適しません」

でも、なぜそんな危険な企業の株が人気なの?

「まずは、やはりひと株当たりが安いからという理由でお試し感覚で買う投資入門者が多いからでしょうけども、しかし株は企業価値を判断してから投資すべきもので、ひと株当たりが安いという理由だけで買うのは本質を見誤っています。

また、超低位株は1円でも値上がりすれば値上がり"率"のランキングで上位になるので、ランキングだけ見て買ってしまう人もいるのでしょう」

ケース1も同様だが、「値上がり率ランキングを見て安い株を買う」という行為は、実はものすごく危険ということだ。

「また、超低位株は違法な株価操作で利益を得ようとする『仕手』のターゲットにもなりやすい。仕手筋は株を買い集めて価格をつり上げ、ネットなどを使って、その株を買いあおります。そして一般人を巻き込みながらさらに株価をつり上げ、仕手筋自身は一気に売り抜けるという寸法です。

仕手が売り抜けた後の株価は、また低位に戻ってペンペン草も生えないありさまに。値上がり率ランキングだけを見て買うと、買いあおりの時期に引っかかって大損してしまう危険もあるんです」

これまで見た3つのケースには共通点があるという。

「いずれも、投資を決める視点が"現在"にしか向いていないのが問題ですね。現在の配当、現在の株価、足元の値上がり率。あくまでも株式投資は、企業の"将来"の成長とそこから得られる利益を考えて行なうのが基本です」


株価が安すぎる企業は、「お買い得銘柄」ではなく「倒産寸前の危険企業」である場合も。初心者が安易に飛びつくべきではない

【ケース4】夢の新技術銘柄に便乗して大損......

さて、"将来の成長"といえば「最新技術による夢の新製品とか、難病を治療できる画期的な新薬の開発に成功しそうな企業の株なら、確実に儲かるのでは?」といった考えが浮かぶはず。実際、新技術に関する報道が流れるたびに、NISAの各種ランキングには関連銘柄が浮上している。

わかりやすい例が、再生医療に用いる再生細胞薬を開発するサンバイオ社だ。同社は2018年末に「慢性期外傷性脳損傷と脳梗塞を改善できる世界初の新薬の臨床試験が順調に進んでいる」と発表し、株価が上昇した。

それに伴いNISAランキングでも上位にランクイン。実験結果が出る時期に期待が膨らみ、株価は3000円台から1万2000円台まで上がったが、一転してその8日後に脳梗塞の臨床試験にクリアできなかったと発表。株価は2000円台まで暴落した。この件について古田氏はこう語る。

「よりによって初心者がいきなりバイオ系のベンチャー企業に手を出すのは悪手でしょう。この分野は、新薬が開発できるまでは赤字を垂れ流しつつ、外部からの資金調達でなんとか生き延びている企業も多い。はっきり言って死屍累々(ししるいるい)の分野です。

画期的な新薬の開発に成功する確率は、まず、とんでもなく低い。その上、開発が順調と報じられていても、途中で状況が変わることも大いにありえる。ですから技術だけに目を向けるのではなく、企業として利益を出せているかにも注目したほうがよいでしょう」

確かにサンバイオ社も、臨床試験の経過が順調だという発表はあったが、決して新薬の開発に成功したわけではなかった。

「企業の将来像を考えて投資するのが基本ではありますが、限度があります。あまりにも不確実性の高い業種で一攫千金(いっかくせんきん)を狙うのはやめたほうがいいでしょう」

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こうした投資にチャレンジするなら、派手な成功例以上に、こうした"ざんねんな運用"から学ぶことは多いようだ。

取材・文/西田哲郎 イラスト/渡辺貴博