ニコンは2019年11月22日、ミラーレスカメラのミドルレンジモデル「Z 50」を発売した。
レンズマウントは「ニコン Z マウント」だが、イメージセンサーはフルサイズではなく一回り小さいニコンDXフォーマット(APS-C)を採用する。

ボディ単体で10万円台前半、標準ズームレンズ「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」付きのレンズキットもプラス2万円ほど、標準ズームレンズと望遠ズームレンズ「NIKKOR Z DX 50-250mm f/4.5-6.3 VR」をセットにしたダブルズームキットは10万円台後半で購入できる。

イメージセンサーをDXフォーマットとしたことによって、コンパクトで価格を抑えたモデル化を実現した戦略的なモデルである。

Z 50は、コンパクトなボディにニコンらしい「一眼」デザインと、しっかりと握れるグリップを搭載しているところが、道具としての良さを出しているように思う。携帯性と使い勝手の良さを兼ね備えており、スナップショットや本格的な望遠撮影もこなせる、ニコンらしいカメラづくりがうかがえる。

イメージセンサーはフルサイズ(35mm判換算)の1.5倍相当となる2088万画素のCMOSセンサーを搭載する。秒間5コマの連写や瞳AF、4K動画撮影などミラーレスカメラのトレンド機能は押さえているので安心だ。さらに、自撮りに対応するチルト式の背面モニターや、視野率100%の236万ドットで見やすい電子ビューファインダーは、このクラスのミラーレスカメラを使う層に普段使いにワンランク上の心地よさを提供する。

今回は、写真撮影可能なライブイベントでZ 50ダブルズームキットの使い勝手と画質をチェックしてみたいと思う。

撮影に協力いただいたのは、東京アイドル劇場主催と、2019年12月1日に開催された「東京アイドル劇場アドバンス」から、「C;ON(シーオン)」公演を撮影させていただいた。

C;ONは、楽器奏者とボーカルによる5人組のガールズユニットで、石橋佳子さんのアルトサックスと、聖奈さんのユーフォニアム、バストランペット、そしてリサさんのバイオリンの生演奏、栞音さんと絹井愛佳さんの2人のパワフルなボーカルで開場を熱くする、今注目のガールズユニットである。




まず、Z 50の標準ズームレンズだが、ライブではなかなか使い方が難しいレンズでもある。


広角側で撮影。距離が離れていれば、ステージ全体を押さえることができる


ステージから5m以上離れた位置からの撮影では、広角でも望遠でも散漫な絵になってしまうからである。あくまで、ステージ全体を押さえるという使い方となる。とはいえ、最前で撮影するには、35mm判換算で24mmよりもっと広角が必要となることもあり、悩ましいところである。


望遠側でも1人をクローズアップすると言う撮影には向かない





望遠ズームではどうだろうか。望遠側は250mmの指標があり、35mm判換算で375mm相当の超望遠撮影が可能となる。そのかわり、レンズが一番伸びた状態が倍ほどの長さとなる。とはいえ、長時間撮影しても疲れない重さであるため、初心者にも優しいのではないだろうか。


横位置で撮影すればステージの雰囲気を使える写真撮影が可能だ



縦位置なら、1人をクローズアップした写真となる


イベントの撮影レギュレーションや座席の位置によって条件は変わってくるが、基本的に望遠ズームレンズがあれば、バリエーション豊富に撮影することができるだろう。

ライブ撮影では、ダンスなど激しい動きに対応できるよう、シャッタースピード優先オート(Sモード)もしくはマニュアル露出(Mモード)を使用することをオススメする。シャッタースピードは、シンプルに速ければ被写体ブレがない綺麗な止め絵になるのだが、それに伴って高感度撮影が必要となる。

今回試用した望遠レンズの開放F値が4.5-6.3と暗いため、あまりにもシャッタースピードを速くするとオートで設定できる最高ISOの上限近くでの撮影となってしまう。ISO感度が上がれば上がるほど、色再現や解像感など画質的にはマイナスとなってしまうので、あまり感度が上がりすぎないよう設定しておきたい。

そこで、シャッタースピード優先オートの設定を1/250秒にし、ISO感度は上限最大のオートで撮影することにした。
なお、ダンスでの止めの動きがわかっていると、タイミングをあわせて撮影することでそれほど高速なシャッタースピードを必要としない撮影が可能だ。こういった撮影現場での阿吽の呼吸は、パフォーマンスを知り尽くした常連にならないと難しい点でもある。

とはいえ、シャッタースピード優先オートと連写機能を使えば、初心者でも満足のいく撮影が楽しめるのが最近のカメラの良いところだ。

マニュアル露出以外での連写機能を使う上で一つ注意したいことがある。
ライブステージでは、一般的な撮影とは異なり、刻一刻と照明が変化する。色や明るさが一瞬で変化するため連写中に切りかわった明るさが反映されないことがある。
これは連写中に「AEロック」が有効になってしまっていることで起きる。
最初にシャッターボタンを押してセットされた露出設定(明るさ)で固定されるため、連写中に照明が変わった際に明るさが反映されず白飛びしたり、真っ暗になったりしてしまうのである。


1枚目以降も同じ露出設定にロックされたため、照明が強く当たったシーンでは、肌が白飛びしてしまった


デフォルト設定でシャッターボタンのAEロックがオンになっているので、ライブ撮影やイベント撮影をする前には、シャッターボタンでのAEロックをオフにしておくことをオススメする。
なお、撮影データは通常JPG形式で保存することが多いと思うが、同時にRAWデータも記録しておけば、RAWデータの現像作業時にある程度は白飛びを回復させることができる。またホワイトバランス設定を調整し、肌色が綺麗に見えるように処理することも可能だ。


RAWデータからの現像処理で肌の白飛びをある程度回避できた


初心者でも失敗しないライブ撮影のコツは
・速めのシャッタースピードにする
・シャッターボタンのAEロックはオフにする
・RAWデータも同時記録しておけば、後から良い結果をもたらすことができる


F4.5|1/250秒|ISO3200|51mm



F6.3|1/250秒|ISO6400|250mm



F6.3|1/250秒|ISO4000|250mm



F6.3|1/250秒|ISO3600|250mm



F6.0|1/250秒|ISO3600|220mm



F6.3|1/250秒|ISO5000|250mm



F6.3|1/250秒|ISO3200|250mm


Z 50をライブステージで使ってみた所見だが、
オートフォーカスのエリアが広い範囲で使える上に人物撮影に最適な、顔認識AFや瞳AFが便利だ。顔認識AFや瞳AFを使うことで、構図を決め打ちしてからの撮影もできた。ミラーレスカメラのメリットはここにある。

一方で、フルサイズのデジタル一眼レフカメラの場合、中央にAFポイントが集中しているため、動く被写体を撮影するには被写体が画面中央に寄ってしまう傾向がある。

とはいえ、Z50のように構図が自由になるからと言って上手く写真が撮れるとは限らない。
特に、動きのある被写体の場合は、伸ばした腕がフレームアウトしてしまうこともよくあるからだ。
これは前述した通り、アーティストのパフォーマンスを把握し、決めポーズでどんな構図になるのか考えてシャッターが切れるように準備しておくなど、撮影テクニック以外にも必要な要素もある。

こうした失敗をなくすためには、慣れるまではフレームに収まるようギリギリまで望遠撮影するのではなく、手足が伸びてもフレームアウトしない程度の余白を持たせた構図で撮影し、撮影後にトリミング処理する方法が良いだろう。




2088万画素のZ 50なら横位置で撮影した写真から縦位置にトリミングしても長編が3712ドットの900万画素相当となる。


横位置で撮影したデータを縦位置にトリミング


ライブ撮影に慣れてきたら、前後の動作を把握してフレームアウトしないように集中して撮影しよう。

押さえておきたいコツは、マイクを持っていない方の手が動く余白をあらかじめ計算して構図を決めておくと良いだろう。


F5.3|1/250秒|ISO5000|155mm



F6.3|1/250秒|ISO6400|250mm



F6.3|1/250秒|ISO4000|250mm



F6.0|1/250秒|ISO4500|200mm



今回のライブ撮影のほとんどが、キットレンズの望遠ズームレンズによるものだ。途中、レンズ交換をした際に、センサーについた埃が望遠側で写り込んでしまっていた。レンズ交換は細心の注意をはらうべきだったと反省している。

キットレンズは、望遠側のF値が高いため必然的に暗くなってしまうために高いISO感度での撮影が必要となる。そこで気になるのが高感度での画質だ。Z 50のノイズ処理は、暗部のザラつきはあるものの、明るい部分とくに人肌などはノイズが少ないことで、思ったよりも高感度の撮影で良い結果が出ている。

将来的にニコンZマウント用の70-200mm F2.8などの大口径望遠ズームレンズが登場すれば、ISO感度を落とした撮影することもできるようになるだろう。
また現状でも「マウントアダプターFTZ」を利用して、ニコンFマウント用の交換レンズ「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」を使うこともできる。「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」は大きくて重いレンズだが、レンズの画質とISO感度を下げた撮影、そしてF2.8の浅い被写界深度を活かして背景をぼかした撮影も可能となる。


F6.3|1/250秒|ISO5000|250mm



F5.3|1/250秒|ISO2000|160mm



F6.3|1/250秒|ISO4000|250mm



F6.3|1/250秒|ISO4000|250mm



F6.3|1/250秒|ISO4000|250mm



F6.3|1/250秒|ISO9000|250mm



F6.0|1/250秒|ISO4500|240mm



F6.3|1/250秒|ISO3600|250mm



F5.6|1/250秒|ISO3200|170mm



F6.3|1/250秒|ISO1800|250mm



F6.3|1/250秒|ISO4000|250mm



F6.3|1/250秒|ISO5000|250mm



F6.3|1/250秒|ISO2800|250mm



写真はスマートフォンのカメラでの撮影が当たり前となったが、その一瞬を高画質で残したいライブ撮影など、暗所で動きのあるシーンでの望遠撮影では、デジタル一眼レフカメラやミラーレスカメラが必要となる。

ニコンZ 50は初心者でも、そうしたライブ撮影でも使いやすい。また、大きなカメラバッグがなくても持ち歩けるサイズ感はイベントに行く際にも邪魔にならない、

スマートフォンでは満足できないと思ったら、ニコンZ 50をはじめとするミラーレスカメラを家電量販店などで手に取って確かめてみて欲しい。

撮影協力
東京アイドル劇場

C;ON(シーオン)
2020年ゴールデンウィーク頃にCDアルバムリリース予定。
C;ON(シーオン)公式サイト
C;ON(シーオン)twitter


執筆  mi2_303