21日にこけら落としイベントを実施した新国立競技場。当初の設計からは大きくコストダウンを図られ、開閉式屋根などの豪華な仕様は削減された本物件。しかし、もっと大切な部分はしっかりと盛り込まれ、日本最高のスタジアムとして完成を迎えていました。整備計画のなかで「世界最高のユニバーサルデザイン」を基本理念に掲げた通り、さまざまな人がアクセスしやすく快適に観戦できるようないくつものユニバーサルな工夫が、この新国立競技場には盛り込まれていたのです。

まず、敷地内では段差なく移動ができるよう、階段の横にはスロープ・大型エレベーターなどがしっかりと設置され、国内最大の500席(※オリンピック使用時)を備える車椅子席まで負担なく移動できるようになっています。場内のコンコースも車椅子の移動がしやすいように非常に広く、車椅子席は通常の座席より二段高い位置にあるため「前の人が立ち上がっても」視界を遮ることがないようになっています。実際、オープニングイベントでも大変多くの車椅子ユーザーが来場し、イベントを観覧していました。

段差のない同じフロア内に車椅子でもアクセスしやすいトイレが数多く設置され、しかもそれらは右利き用・左利き用、オストメイト対応など各自の状況に対応したさまざまな種類を備えています。もちろんLBGTの方でも気兼ねなく使用できる男女共用トイレや、介助犬のためのトイレなども設置されており、まさにユニバーサルといった構造です。そのぶん通常のトイレには個室の設置数が少ないといった状況もありますが、段差を苦にしない人は階段を使って1層下にある大規模トイレに移動してもらうという仕組みとなっており、より全体の過ごしやすさを考慮した構造になっているのです。

<場内には介助犬トイレなども含めて、さまざまな種類のユニバーサルな設備が>



<点字での表示に加え、多言語での音声ガイドも設置>



そして聞き慣れない設備も。「カームダウン・クールダウン」と表示された1畳ほどの個室は、室内に2脚のイスとエアコン、時計しか据えられていません。目的もわからないような部屋ですが、実はこの部屋は自閉症や発達障がいなど感情のコントロールが難しい人が、落ち着きを取り戻すためにとても有効な設備なのだといいます。

すでに国内でも成田空港などに導入事例があり、周囲の音や光、目線などを遮ることで落ち着きを取り戻すことができるのだとか。筆者がこの設備があることをSNSなどで知らせると、その有用性や設置されていることへの喜びを伝える反応が数多く寄せられました。一般の認識としてはまだまだ広まっていない部分ですが、新国立競技場は「一般の認識」を超えて、より多様な状況に配慮した施設になっているのです。

<カームダウン・クールダウンの部屋>



<カームダウン・クールダウン室内の様子>



当初の豪華な仕様は削減されたものの、こうしたユニバーサルな取り組みはしっかりと残された。この施設で行われる五輪・パラリンピックは、これまで以上にさまざまな人が快適に楽しめるものになるに違いありません。そうした観点から言えば、やはり新国立競技場は2020年にふさわしい最新・最高のスタジアムであり、新国立競技場が「標準」となって今後の施設建設などにも広まっていけば、それは日本にとって素晴らしいレガシーになるものだと言えるのではないでしょうか。

文=フモフモ編集長