昔と比べて早慶MARCHの序列は変わってきている(デザイン:小林 由依)

「中央法学部のライバルは早稲田法学部ではない。東大法学部だ」

中央大学の同窓会組織、学員会本部の大木田守・副会長(中央法卒)はそう語る。

名門法学部として法曹界に多くの卒業生を送り出してきた中央法学部。かつては司法試験の合格者数で早稲田を上回り、東大と伍してきた実績を持つ。偏差値でも過去30年にわたり、MARCHの中でもトップを走り続けてきた。その構図がいま、大きく崩れ始めている。

12月16日発売の『週刊東洋経済』は、「早慶を猛追! MARCH大解剖」を特集。新学部の設立や国際化、研究型大学への転換など5大学の最前線を追った。さらに1980年代からの偏差値40年史、大学&学部別ダブル合格時の進学率、大学ランキング、研究力、全付属校の内部進学率一覧、お受験、就職力、人事が明かすMARCH学歴フィルターの実態、経済人輩出力など、さまざまな視点から日本を代表する5大学を大解剖した。

立教大の異文化コミュニケーション学部は偏差値75

MARCH全54学部のうち、入試偏差値の頂点に立つのは立教大学の異文化コミュニケーション学部だ。2019年の入試偏差値は75(以下、すべて進研模試のデータ)。新設にもかかわらず、立教の異文化コミュニケーション学部は2012年に中央法学部と並び、2017年には逆転した。中央法学部が難関であることは間違いないが、MARCH内で「1強」の時代は過ぎ去った。


2008年に開設された立教の異文化コミュニケーション学部は、英語での議論やリポート執筆などを通じ外国語の運用能力を上げ、「海外留学研修」を必須にしている。卒業生は外資系企業に就職するなど、グローバル社会で活躍できる人材を輩出している。

立教に限らず国際系学部の入試偏差値は高い。明治大学では2008年開設の国際日本学部が偏差値73と、看板の政治経済学部、商学部などを上回る。

法政大学でもGIS(グローバル教養学部)が偏差値73と法政の15学部の中でトップに位置する。同じく国際系である国際文化学部も偏差値71と、伝統のある法学部や文学部などの偏差値を上回っている。

MARCHの中で1980年代に偏差値70を超える学部は、中央法学部しかなかった。それが今やMARCH54学部のうち半分以上の28学部が偏差値70以上となっている。

例えば明治。看板学部の法学部は1980年代までは偏差値が60台後半だったが、1990年代には70を超えた。その後、いったん下がった時期があったが、直近では74だ。入試科目が違うので一概にはいえないが、地方の旧帝国大学と同じか、それを上回る入試偏差値となっている。

明治商学部の偏差値は1982年に63だったが、2019年は71。MARCHはどの学部も、1980年代から10ほど偏差値が上がっている。

この2〜3年、MARCHのような有力私立大学の偏差値が上昇しているのは、文部科学省が打ち出した入学定員の厳格化によるところが大きい。文科省が各大学に学部定員数を厳格に守るよう指示したことで、各大学とも定員を上回らないように合格者を絞り込んでいる。

さらに大学入試改革も影響している。試験方法が変わる前に受かりたいと考える受験生が急増。「現役志向が強まり、早慶志望組もMARCHを積極的に受ける」と代々木ゼミナールの川崎武司・教育情報企画室長は指摘する。

記念受験という言葉はもはや死語に近い

川崎氏によると、かつてのように「早稲田、慶応に絶対に進学したいので、早慶の複数学部を受ける」という「大学名第1志望」は減っているという。「今の受験生は進みたい学部を決めたうえでチャレンジ校、実力相応校、滑り止め校と分けて受ける。MARCHの学力レベル層は、早慶上智(早稲田、慶応、上智の各大学)がチャレンジ校、日東駒専(日本、東洋、駒沢、専修の各大学)が滑り止め校となる」と分析する。各大学の難化で現役志向、安全志向が強まり、「今の受験界では記念受験という言葉はもう死語に近い」(川崎氏)という状況だ。

有力私立大学の入試偏差値の上昇は以前から指摘されているところだが、MARCHはもはや超難関大学といってもよい。

MARCH内の序列変化は、早慶に対するMARCHの下克上をも意味する。


(出所)『週刊東洋経済』12月21日号 特集「早慶を猛追! MARCH大解剖」

文理問わず偏差値でMARCHを総じて上回る早慶だが、MARCHの偏差値上昇に伴い、MARCH以下という文系学部も。例えば立教の異文化コミュニケーション学部(75)や経営学部(74)、明治の法学部(74)、中央の法学部(74)と、同レベルなのが早稲田の教育(74)だ。さらに早稲田の人間科学部(72)やスポーツ科学部(70)などは、MARCH各学部を下回る。所沢キャンパス(埼玉県所沢市)にある人間科学、スポーツ科学は「MARCHクラスの受験生でも受かりやすい学部」(予備校)になっている。

ただし最難関学部で見ると、慶応大学では法学部(法律学科)が82、早稲田大学は法学部、政治経済学部、商学部、国際教養学部が80と、早慶ともMARCH最難関である立教の異文化コミュニケーション学部(75)を引き離している。

MARCHのうち複数校に受かった場合、どの大学を進学先として選ぶのか……。ダブル合格した受験生の実際の進学先を示したのが次ページの図だ(以下、東進ハイスクールのデータ、外部配信先では図を全部閲覧できない場合があるので、その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。


(出所)『週刊東洋経済』12月21日号 特集「早慶を猛追! MARCH大解剖」

まず大学単位で見てみよう。明治と立教の両方に受かった例では、71.3%が明治を選んだ。明治はMARCH4大学に対して70%以上の選択率を示しており、MARCH内では明治が強い点がわかる。

ダブル合格から読み取れるのは、MARCH内で“明高法低”という「明治、立教、青学、中央、法政」という序列になっていることだ。

明治はMARCHで飛び抜けた存在に

東進ハイスクールの島田研児・教務制作部長は、「『明治、立教、青学、中央、法政』という序列は昔からあまり変わっていない」と話す。ただし、「MARCHの中でかつてよりも明治が飛び抜けた存在になっているのは事実。背景にあるのはバンカラから都会的なイメージへと変わり、女子学生も増えたことだ。政治経済、商、法といった看板学部に加え、国際日本、情報コミュニケーションといった新学部も成功している」と指摘する。

一方で、学部単位で見てみると、「明治、立教、青学、中央、法政」という大学単位での序列がそのまま当てはまるとは限らない。

例えば法学部。中央と明治の両方に合格しても、80%が中央を選択。青学、法政に対しては100%と圧勝している。

中央法学部は、資格試験の最難関の1つである司法試験に強い。大学別の合格者数も329人(17〜19年度の合計)と、慶応、東大、京都大学に次ぐ4位だ。国家公務員総合職(旧上級職)試験でも、私立で早慶に次ぐ実績がある。

経営学部と商学部では、立教経営学部が強い。明治経営学部に対しては85.7%が、青学経営学部と法政経営学部に対しては100%が立教を選ぶ。06年開設の新しい学部だが、英語教育やリーダーシップ教育を充実させている。また、有名教授をそろえることで、受験生からの人気は急上昇。「立教池袋高校や立教新座高校といった付属校でも志望者は多い」(立教OB)という。

『週刊東洋経済』12月21日号(12月16日発売)の特集は、「早慶を猛追! MARCH大解剖」です。