ワインは冷やしてはいけないと思っていませんか?(写真:株式会社デザインメイト/PIXTA)

本格焼酎ブームや、ハイボール人気など明るい話題もある日本の酒市場だが、若年層の酒離れなどもあって、日本の酒の消費量全体は減少を続けている。

ただ、ワインだけは別だ。平成の30年間でみると、消費量は実に約3倍になっているのだ。

なぜ、ワインは消費を伸ばしているのか

なぜ日本人はワインを飲むようになったのか。

その理由としては、

1 専門店だけでなく、スーパーやコンビニ、ネットでの販売が増え、買いやすくなった
2 安くておいしいワインが輸入され、出回った
3 お宝ワインなどマニア心をくすぐる商品がある
4 ほかのお酒と比べるとおしゃれ感がある

などが考えられる。

一時期、「赤ワインの渋み=タンニン=ポリフェノールが血液をサラサラにする」という赤ワイン健康ブームもあった。それが「ワインはほかのお酒と違って健康的」というイメージにつながったのもあるだろう。

今後は「経済連携協定(EPA)」により、ヨーロッパ産のワインが買いやすくなる。ますますワインが身近になるはずだ。

日本産ワインの生産量と品質が向上したことも、大きな後押しとなっている。全国には、情熱あふれる若手生産者が増え、1989年には全国225場だったワイナリー数が、2017年時点で335場と1.5倍にもなっている。

とはいえ、日本人がワインと親しくなったのはつい最近のこと。50年、いや、本当に身近になったのはここ30年でしかない。短い期間にワインを覚える中で、誤って伝わってしまった情報もたくさんある。

その代表的なものが、ワインの「飲みごろ温度」。

ワインの教科書には必ず「白ワインは冷やして、赤ワインは冷やさないで」と書かれている。実はこれが、間違い。このルール、本当は「白でも赤でも冷やして飲む」、が正解だ。

こう言うと「え? 赤ワインを冷やしていいの?」と驚かれる。それも結構、頻繁に……。ワイン道を究めた人でもだ。もう少し詳しく書こう。

ワインの飲みごろ温度の基本

こちらの図を見ながら考えてみてほしい。まずは甘口、泡のあるタイプ。これは、ご想像のとおり、冷やして飲んだほうがおいしい。アイスクリームを常温で舐めると甘すぎるのと同じで、甘いものは冷やしたほうがすっきりとしておいしい。


(出所)友田晶子著『ワインの基礎知識』テキストより

泡系も冷やしたほうが、泡はきめ細かになるし、爽やかな口当たり、のど越しになる。スパークリングワインはもちろん、ビール、サワー、ハイボールも同じだ。

その次に、冷たくして飲むのがいいのは、白ワイン。爽やかさが命のフレッシュな白ワインは冷たいほうがおいしい。ただし同じ白でもコクがあって濃いタイプは、冷やしすぎないほうがおいしさを感じやすい。

赤ワインはどうだろう。渋みが少ない赤ワインは、さらりとした舌触りでフレッシュ感もあるため、やや冷たいほうがおいしい。渋みのある赤ワインは、ちょっと違う。渋みは冷やすとざらついているように感じるので、キンキンには冷やさないほうがいい。20℃くらいがベストだ。

と、ここで考えてほしいのは、20℃の飲み物を口に入れれば冷たいということだ。体温は36℃前後だから当然だ。しかし、最も高い温度が20℃ということは、ワインは赤であっても冷やしたほうがおいしいということになるのだ。

この勘違いは、一般消費者だけではなく、飲食店関係者、プロのワイン提供者にも結構多い。

白ワインは冷蔵庫に入れるけれど、赤ワインは冷やしてはいけないと思い込み、常温でおいている、という人は多いのではないだろうか。

鉄板焼きとか焼き鳥屋さんで、火がもうもうと上がるすぐ脇に、赤ワインが置いてあって、ぎょっとすることがある。生ぬるいままの赤ワイン、あまりにしまりのない味なので「冷やしてください」というと、お店の人には「赤ワインを冷やすの?」というけげんな顔をされたりする。

なぜこのような勘違いが起きたのだろうか。それは、「赤ワインは常温で」を「冷やさないで」と解釈してしまったからだと、筆者は考えている。

夏でも涼しいヨーロッパと日本では常温が違う

夏でも涼しいヨーロッパでは(最近はヨーロッパもかなり暑いが)、「常温=部屋の温度」といえば、20℃くらいを指したのだ。

夏の気温が40℃近くなる日本で、常温のワインは、それとはまったく違うものになってしまう。生ぬるく、ぬめっとしてしまう。フルーティーさも、生き生きとした酸味も、きめ細かなタンニンもすばらしいバランスも、まったく感じられない。

やはり少し冷やして味を引きしめたほうが断然おいしくなる。これは、夏のみならず、暖房の利いた冬でも同じことだ。

それに何より、そもそもワインはブドウという果物から生まれるお酒。フルーツのブドウでもちょっと冷やして食べたほうがおいしい。そういうとイメージが湧くだろうか。

こう書くと「熟成した年代物の赤ワインも冷やすのか」という人が出てくる。「赤ワインは冷やして」といっても、むやみやたらにキンキンに冷やせと言っているわけではない。あくまでおいしい温度はワインごとにある。

もちろん熟成ワインであっても、生ぬるい、または温度が高いと、ぼやけた香味になってしまうのは確かだ。

適度に冷やすことによって、濃縮した果実味、きめ細かなタンニン、それでいてまだ十分に若さを感じる酸味が感じられる。全体を包み込むような上質のアルコール、複雑ながらエレガントで美しい余韻も、十分に味わうことができるはずだ。