北朝鮮の平壌近郊で今年5月頃、複数の死傷者を出した密造酒事件とからみ、犯人らの公開処刑が行われたとする情報については、すでに本欄でも伝えた。デイリーNKジャパンがソウルの韓国当局筋から得た情報に基づくものだったが、調べて見ると、韓国のニュースサイト、リバティ・コリア・ポスト(LKP)が5月29日付で報じていたことがわかった。

平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、3月初めに「松岳(ソンアク)」ブランドの焼酎を飲んだ人々が相次いで急激な視力低下に見舞われたり、死亡したりする事故が多発した。

一連の事件を引き起こしたのはこうした正規品ではなく、闇で製造・流通する「ニセ焼酎」だったとされ、4月1日に当局が両江道(リャンガンド)で現地住民を対象に行った講演会では、「今回問題になっている松岳焼酎は、工場で作られた正規品ではなく、何者かが作った酒に松岳焼酎のラベルを貼っただけの模造品」「分析した結果、メタノールが検出された」ということが説明された。

LKPによれば、公開処刑は平壌の兄弟山(ヒョンジェサン)区域で行われた。処刑されたのは男女計3人で、ニセ焼酎を密造して売っていた夫婦と、彼らにメチルアルコールを提供した貿易業者だったという。

処刑場では、3人がそれぞれ60発ずつ、自動小銃の銃弾を浴びたという。北朝鮮の公開銃殺は従来、死刑囚1人に対し9発ずつ発射する方式で行われていたというから、60発というのはかなり「強化」されたやり方だ。

金正恩党委員長はニセ焼酎事件に激怒したとの情報もあるから、残忍な処刑方法は彼の意を受けたものかもしれない。

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ただ、北朝鮮ではこのような「ニセモノ事件」は珍しいことではなく、どうして金正恩氏が激怒したのかが不明だった。

LKPは「消息筋は、今回の松岳焼酎事件には、崔龍海(チェ・リョンヘ=最高人民会議常任委員長)の息子や呉日晶(オ・イルチョン=元朝鮮労働党部長)の息子が関係していたようだとしながら、事件関係者ら数十人が労働教化刑(懲役)や労働鍛練刑(同1年以下)に処されたと明かした」と伝えている。事実ならば、高位幹部の息子らの暴走に、金正恩氏が怒りを募らせたということなのだろう。

ただ、デイリーNKジャパンが最近、韓国の当局筋から新たに聞いた話は内容が異なる。それによると、金正恩氏が激怒したのは「ニセ焼酎を飲んで死亡した犠牲者の中に、全日好(チョン・イルホ)の息子がいたためとの噂がある」とのことだ。

全日好氏は北朝鮮の「ICBM(大陸間弾道ミサイル)4人組」のひとりに数えられる人物で、特に誘導技術の開発で功績があったとされている。この夏、軍中将から上将(中将と大将の間の階級)に昇進し、現在は国防科学院の党委員長の地位にあると推定されている。

トランプ米大統領とも直接渡り合う金正恩氏の国際的地位は、ICBMの開発成功がなければ得られなかったものだ。本当に全日好氏の息子がニセ焼酎事件で犠牲になっていたならば、金正恩氏は当然、厳罰を命じたことだろう。